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  • スリー・ビルボード(2017) directed by Martin McDonagh by MARI HAGIHARA January 12, 2018 1
  • デトロイト(2017) directed by Kathryn Bigelow by MARI HAGIHARA January 12, 2018 2
  • ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男(2016) directed by Reiner Holzemer by MARI HAGIHARA January 12, 2018 3
  • ぼくの名前はズッキーニ(2016) directed by Claude Barras by MARI HAGIHARA January 12, 2018 4
  • RAW 少女のめざめ(2016) directed by Julia Ducournau by MARI HAGIHARA January 12, 2018 5
  • おそらくは前回の大統領選でトランプ/共和党に投票しただろう、『ローガン・ラッキー』など地方のホワイト・トラッシュの物語が印象に残った2017年。そこには現在の混迷を極めるアメリカ社会を考えるにはもう都会のリベラルな視点だけでは無理、という実感がある。その意味で真打となるのが、マーティン・マクドナー監督による本作。ミズーリ州の田舎町の広告板に突如、強烈な糾弾が現れます。「レイプされ、殺された」「逮捕はまだ」「どうして? ウィロビー署長」。広告主は娘が惨殺された母親(フランシス・マクドーマンド)。名指しされた署長(ウディ・ハレルソン)は困惑し、部下のレイシスト(サム・ロックウェル)は嫌がらせを始める。その冒頭からは、わかりやすく「闘う女vs.権力」の構図が想像できます。そこから『ファーゴ』(1996)的なタフな笑いが絡む犯罪サスペンスが展開する……かと思いきや、それぞれのキャラが意外な行動に走り、事態はもつれ、観客は判断に苦しむ。しかも厄介なのは、だんだん独自のモラルのようなものが立ち上がってくるのです。常識では捉えきれないそのモラルは当然、観客にもぶつけられる。それをどう受けとめるか。こんなに暴力的な話を「断罪しない、させない」のがすごいところ。オスカーを受賞するかどうかも注目です。

  • 一方、断罪されないまま埋もれていた1967年の事件を映画化したのは、キャサリン・ビグロー監督。彼女らしい迫力と容赦のなさで、デトロイト暴動の裏で起きていた出来事を描きだします。銃の発砲音を聞いてモーテルに乗り込んできた白人警官たちと、そこに居合わせた黒人ティーンエイジャーの一団、帰還兵、白人の少女たち。その密室的な状況で警官の尋問がエスカレートし、「自白か、死か」という身勝手なゲームになっていく。その臨場感にゾッとするとともに、人種をめぐる基本的な構図が半世紀まったく変わっていないことも怖くなります。その場にいた一人がヴォーカル・グループ、ザ・ドラマティックスの一員。モータウンやフォードの街、デトロイトがこの暴動以降変わってしまうように、この夜を生き抜いた彼の人生も一変する。歴史的な事件に遭遇してしまう人間と、その傷にフォーカスするところがビグローらしい。とはいえ、人種というテーマを『ゲット・アウト』のように表現する作品を見てしまうと、やや堅苦しく思えてしまうのも確か。比べるものでもないんですけど。

  • 人気のジャンルだけあって、次々趣向を凝らした作品が出てくるファッション・ドキュメンタリー。これはアントワープ・シックスから登場し、現時点で唯一独立企業としてビッグ・ブランドを経営するドリス・ヴァン・ノッテンの姿に迫ります。本作がジャーナリスティック的に優れているのは、彼が生地のサンプルからコレクションを作りだすクリエイティヴな側面と、スマートな企業人としてのビジネス面、そしてもちろん、パーソナルな側面の三つをていねいに追いかけ、それを有機的に繋げたところ。よくある「コレクションの舞台裏」はむしろオマケです。個人的なハイライトは、過去のショーの映像を見ながら彼自身が「このコレクションは酷評されて売れなかった」など解説する場面と、見事な庭や邸宅にカメラが入る場面。大企業傘下で広告キャンペーンが打たれ、ライセンシー事業となる今のファッション・ブランドの対極にいる姿勢にも感動しました。美しい音楽を手がけるのはコリン・グリーンウッド。思えばコリンはマルジェラとも繋がりがあったり、レディオヘッドのなかでもっともモードな人かもしれません。

  • ティム・バートンやトリュフォーが好きな人にも、『昆虫物語みなしごハッチ』を知ってる大人にも観てほしいストップモーション・アニメ。母の事故死に責任を感じる主人公、ズッキーニはネグレクトや虐待という過去を持つ子どもたちとともに孤児院で暮らしはじめます。そんな暗く衝撃的な設定ではあっても、彼らの成長物語は優しく、つらく、ときにユーモラス。何よりファニーで悲しげな人形の表情が子どもたちにとってのリアリティを繊細に、詩的に語っています(目のまわりのクマがハッチそっくり)。初めての恋や冒険を織りこみながら、新しいのは孤児院が最終的に再生の場となっているところ。大人向けの原作をこんなふうに表現したところにも、ステレオタイプやよくあるファンタジーを超えるアニメ作品を作ろうとする、クロード・バラス監督の明確な意志を感じます。

  • 昨年6月に紹介したこの映画、公開が迫っているので再度ヘッズ・アップ! というのも個人的には2017年に観た映画ではナンバー・ワンなのです。この1年で、ジュリア・ドゥクルノー監督による美しくショッキングなカニバリズム映画、という評判は伝わっていても、実際の衝撃は体感するまでわからないはず。女性の思春期のトランスフォーメーションをホラー・ジャンルに重ねる発想の鮮やかさは、何度見ても多くの引用――さまざまなホラーの名作、マルキ・ド・サド、『蠅の王』など――を超えてオリジナルに刺さってきます。クローネンバーグの影響について本人に取材した際には、「身体の突然変異を通じて人間性を描くところに共感する。魂の存在を信じず、肉体の力を知ろうとする意味で実存的」と語っていました。本作も、人食というアブノーマリティが発疹、脱毛、過食など女性が日常的に感じる「ちょっとした異常」と繋がっているからこそ、生々しくて怖くて面白い。やっぱり映画は妄想ではなくて、身体に近いものであってほしいと思います。

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