「座れよ/謙虚になれ」。そう言われずとも、こんなにも強力な曲を差し出されたら、このヒップホップ・ライムの救世主に誰もが首を垂れるしかないだろう。これまでも新作への呼び水となっていた“ザ・ハート”シリーズのパート4を皮切りにした一連の動きで、ここ一月余りの話題をかっさらってみせたケンドリック・ラマー。トラックを手掛けているのはトラップを代表するプロデューサーの一人、マイク・ウィル・メイド・イットだが、これは今流行りのトラップ、というよりもむしろGファンクの進化形。このトラックといい、全てのフェイク・ラッパーを殺しにかかる凄まじいラップといい、やはりケンドリックはコンプトンの歴史的連続性に誰よりも意識的で、誰よりも高い次元でヒップホップの伝統を継承している。それは『グッド・キッド・マッド・シティー』以前からずっと続く彼の核の一つではあるが、ヴィデオにも顕著に表れている宗教的モチーフがそこにどう関わってくるのか。期待は膨らむばかりだ。
ARやVRの技術が急速に普及しつつある2017年。ゴリラズの再始動に、これほどベストなタイミングはない。何しろ彼らは、世界でもっとも成功しているヴァーチャル・バンドなのだから。これまでもゴリラズは、音楽を軸にしつつ最先端の技術や文化的革新を取り入れ、様々なメディアミックス的試みで我々を楽しませてきた。約7年振りとなる最新作『ヒューマンズ』でも、その活動は変わらず刺激的で最先端だ。このヴィデオはVRに対応した360°仕様。AR技術を駆使したアプリをリリースする一方で、フランク・オーシャンやウィークエンドが行ったポップアップ・ストアの開催も発表するなど、現行のトレンドをほぼ全網羅している。もちろん、ジェイミーxxに続き、現行のダンスホールの顔ポップカーンを起用したこの曲をはじめ、音楽的にもしっかり今をキャッチアップしているのはゲストの顔触れを見れば分かる通り。さらには、詞のテーマもトランプ以降の社会情勢を反映させた「ダーク・ファンタジー」になっているというから、ゴリラズの最新作が2017年をもっとも包括的に捉えたプロジェクトになるのはまず間違いない。
まずは何の先入観も持たずに聴いて欲しい。ピアノの音に導かれ、曲が進むに従ってエモーショナルに盛り上がっていくシンプルな生音主体のバラード。今の音楽シーンのトレンドとは全く無縁と言っていいこの曲から思い起こされるのは、『ハンキー・ドリー』の頃のデヴィッド・ボウイやクイーンといった70年代の王道ロックだ。名前を見て分かった人も当然たくさんいるだろうが、このシングルでソロ・デビューを果たしたのは、元ワン・ダイレクションのメンバー。昨年グループの活動休止を発表して以来、活発化しつつある各メンバーのソロ活動の中でも、ハリー・スタイルズのこのデビュー・シングルは飛び抜けて鮮烈な一曲となっている。ロックがポップ・ミュージックの隅に追いやられている今の時代に、もっともトレンディなボーイズ・グループの一員だった男が正面を切ってロックを甦らせようとしているなんて! 「時代の機運」というタイトル通り、潮目が変わるきっかけになるかもしれない、とはさすがに言い過ぎかもしれないが。
いくら真摯なファンやラッパーがヘイトを表明したところで、ハードな現実描写よりも逃避主義的な快楽を優先する「マンブル・ラップ」的な潮流が衰えることはしばらくなさそうだ。その流れを汲む最新ヒットとして、現在USビルボード・チャートの4位にまで上昇しているのが、カリフォルニア出身の若手ラッパー、カイルがリル・ヨッティをフィーチャーしたこの曲。トロピカル・テイストのトラックに、砂場やすべり台といった幼児退行したイメージが映し出されるヴィデオ。歌詞にも大した意味はなく、現実と切り離された楽園のような漠然とした気持ち良さが延々と続くこの曲は、まさしく「マンブル・ラップ」の真髄だけを抽出したような内容だ。左脳がどれだけ拒否しようとしても、この快楽的な音感に右脳がもっていかれる。
今やUSメインストリーム・ポップにも欠かせないプロデューサーの一人となったカシミア・キャットだが、彼の軸足は今もなお実験的なエレクトロニック・ミュージックにある。その尖鋭性をメインストリームの最先端と混ぜ合わせることで、彼は新しいポップ・ミュージックを創出させようと試みているのだ。メジャー・レイザーとの仕事で世界的な知名度を上げたシンガーのムーと、近年チャーリー・XCXのプロデュース等を経てカシミア・キャットともリンクする活動姿勢を見せているプロデューサーのソフィー。その二人をゲストにクレジットし、歌メロはどこまでもキャッチーに、しかし、バックトラックはバッキバキにエクスペリメンタル。この最新曲は、彼の持つポップ/エクスペリメンタルの両面性とその混交具合が理想的な形で結実したポップ・ナンバーだ。