ロックンロールは死んではいない。ただ冷たくなっているだけだ……そう言って髭を撫でながら登場したのは、ヴァージニア州出身の尊師(グル)ことマシュー・E・ホワイト。2012年に自身のスタジオ兼レーベルである〈スペース・ボム〉からリリースされた『ビッグ・インナー』は、翌年イギリスの人気レーベル〈ドミノ〉から再発されると、その年のラフ・トレード・ショップの年間ベストで、ジョン・グラントとサヴェージズに次ぐ3位を記録している。そんなホワイト尊師の新作『フレッシュ・ブラッド』からのリード・トラックとなるこの曲は、アラン・トゥーサンがプロデュースしたザ・バンド、つまり“ライフ・イズ・カーニヴァル”の趣き。なるほど、ロックンロールは冷えているかもしれない。しかし人生はカーニヴァルだ。全盛期のストーンズばりのグルーヴに乗って繰り出される、ロックンロール、R&B、ゴスペルについての尊師からのありがたい説法を聴け!
ホワイト尊師の前作『ビッグ・インナー』からのリード・トラックだった“ビッグ・ラヴ”を共作したのが、尊師がかつて在籍していたバンド、ザ・グレイト・ホワイト・ジェンキンスのメンバーだったアンディ・ジェンキンスと、その友人のジェイムズ・ウォーレス。一昨年にホワイト尊師がプロデュースしたアルバム『モア・ストレンジ・ニュース・フロム・アナザー・スター』をリリースしている彼、実は昨年の暮れにひっそり来日していて、立川のギャラリー・セプチマで見ることができたライヴは、(遅刻して最後のほうしか見られなかったにもかかわらず)その年のベストに挙げたい素晴らしいものだった。なかでも印象的だったのが、ポール・サイモンのようなフォーク・バラッドのこの曲。僕を見つめる彼女と、彼女の瞳に映った僕。そんな親密な時間が、ここには確かに流れている。
そんなホワイト尊師率いる9人組のアヴァン・ジャズ・バンドが、ファイト・ザ・ビッグ・ブル。彼らは2010年に開催された民俗音楽研究家アラン・ロマックスのトリビュート・ライヴに、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンやシャロン・ヴァン・エッテン、メガファウンのメンバーらと共に参加している。“サウンズ・オブ・ザ・サウス”と名付けられたこのプロジェクトは、翌年開催されたザ・ナショナルのブライス・デスナー主催のフェスティヴァル〈ミュージックナウ〉にも出演しているが、このたび同フェスティヴァルの10周年を記念して発売されたコンピレーション・アルバムに、ロマックスが1959年に録音したゴスペル・ソングのカヴァーが収録される運びとなった。アルバムには他にもフリート・フォクシーズのロビン・ペックノールドや、スフィアン・スティーヴンスらの貴重なライヴ音源を収録。アメリカのルーツ音楽ファンは必聴だ。
ホワイト尊師率いるソウル真理教団〈スペースボム〉の美人幹部候補生が、ナッシュヴィルの女性シンガー、ナタリー・プラス。ジェニー・ルイスの音楽を聴いてミュージシャンへの道を歩み出したという彼女は、iPhoneで撮影したヴィデオでジェニー・ルイスのバック・バンドのオーディションに合格し、一緒にツアーを廻ることになる。そんな彼女が生まれ故郷のヴァージニアでホワイト尊師らと録音したのが、まもなく日本盤もリリースされる1stアルバムの『ナタリー・プラス』。ダスティ・スプリングフィールドの『ダスティ・イン・メンフィス』を連想させる、土埃の舞うブルー・アイド・ソウルだ。
ジェニー・ルイスの新作『ザ・ヴォイジャー』のプロデュースも務めたライアン・アダムスと、ヨーロッパをツアー中だったナタリー・プラス。しかしスカンジナビア航空(SAS)の遅延によって、ナタリーだけがデンマーク公演に出演することができなくなってしまう。そこで彼女の代役としてステージに登場したのが、“ナタリー・サス(Natalie SASS)”なる謎の人物。ポルカ・ドット柄のワンピースに黒タイツという出で立ちで現れたこの女性、いや男性は……もしかしてライアン・アダムス? というわけで、機転を利かせたライアンのおかげで、最大のピンチを乗り越えることができたナタリー・プラス。今年の〈フジロック〉にはジェニー・ルイスとライアン・アダムスが出演するということで、ひょっとしたらナタリー・プラス(とサス)も拝むことができるかもしれない。それではそんなナタリー・サスによる、ナタリー・プラス“バード・オブ・プレイ”のカヴァーをどうぞ!