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  • ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから(2020)
    directed by Alice Wo by MARI HAGIHARA May 14, 2020 1
  • ナイチンゲール(2018) by Jennifer Kent by MARI HAGIHARA May 14, 2020 2
  • 狩りの時間(2020) by Yoon Sung-hyun by MARI HAGIHARA May 14, 2020 3
  • ディエゴ・マラドーナ(2020)

    by Asif Kapadia by MARI HAGIHARA May 14, 2020 4
  • 来訪(Visit)(2020) by Jia Zhangke by MARI HAGIHARA May 14, 2020 5
  • クラシックな青春ものをなぞりながらも、これは最前線。多様性と知性が未来を開くティーン・ムーヴィです。中国系アメリカ人で、レズビアンの高校生が巻き込まれる三角関係を繊細に描くことで、アリス・ウー監督はロマンティック・コメディのゲイ友問題や人種の狭さを軽々と飛び越えるだけでなく、大人にも届くメッセージを伝えます。つまり、恋愛やパートナーはゲットするものじゃないし、ほとんどの思いは報われないし、人は傷つく。でも、それでいい。恋も友情も、自分も見つけることも同じくらい大事なんだ、と。同級生のレポートの代筆で稼ぐエリー(リア・ルイス)に、ラブレターの代筆を頼むアメフト選手のポール(ダニエル・ディーマー)。相手は人気者の女の子アスター(アレクシス・レミール)。でもエリーが好きなのも、やっぱりアスターなのです。シラノ・ド・ベルジュラックを下敷きにしたNetflixのティーンものには『シエラ・バージェスはルーザー』(2018)もありつつ、本作は引用される文学・映画・アートがさらに細やか。しかも、冒頭に引用されるのはプラトンの「愛の起源」! とっさに『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』(2001)を連想させながら、新解釈も加えます。私たちはもう、自分の片割れを探してさまよわなくていいのだと。『素顔の私を見つめて……』(2005)以来15年間沈黙したのちに、自らのアイデンティティを瑞々しくアップデートしたアリス・ウーに拍手。

  • 劇場公開されたばかりの映画が限定で先行配信。ネットで見ることが支援にもなる試みの一本です。実際、日本だけでなく世界でもこのパンデミックを挟んで、劇場と配信の間にいい落としどころが見つかるといいのですが……。本作は『ババドック』(2014)のジェニファー・ケントの新作。『ババドック』では女性の強烈な感情がホラーとなり、『ナイチンゲール』では人間の尊厳が侵されること、それに対する怒りが過激な暴力として描かれます。舞台は19世紀のタスマニア。レイプされ、夫と子どもを殺されたアイルランド人のクレア(アイスリング・フランシオシ)はアボリジニのビリー(バイカリ・カナンバル)を案内人に、復讐のため英国軍将校ホーキンス(サム・クラフリン)を追いかけます。女性の復讐譚というクリシェを借りながら、そこには何重もの差別と抑圧の構造がある。それによっていとも簡単に傷つけられ、奪われ、殺される大勢の人々。クレアさえ、最初はビリーを黒人として蔑んでいます。けれども個人の尊厳を取り戻そうとするクレアと、血に染まった植民地に故郷を見出そうとするビリーは、やがて憎しみを超えようとする。そこに見えるタスマニアの風景が脳裏に焼きつく一作。美しく歌う鳥とされた女、黒鳥を精霊に持つ男の闘いは、歴史のひとこまではありません。

  • これも現状における劇場公開/配信の狭間で物議を醸した一作。ベルリン映画祭に招待された韓国映画は、公開延期中に製作会社がNetflixでの配信をアナウンス。すでに海外版権を売っていたセールス会社と揉めましたが、一旦延期されたあと三者の間で調整され、結局全世界でNetflixが独占配信。業界のルールを揺るがした一例となりました。映画の内容は、ある賭場荒らしの顛末。ただ舞台を「通貨危機で荒廃した韓国」にすることで、ありふれた話にスタイリッシュで悲痛なトーンが加わっています。タイトルの『狩りの時間』が始まるのは、若者たちが賭博場の現金強奪に「うっかり」成功してから。彼らを消すための殺し屋が街に放たれ、マフィアと警察の間に新たな怨恨も生まれます。ディストピアのプロダクション・デザイン、流行りの色彩設計などいまっぽい画面に、希望をなくした若者たちや家族の繋がりといった韓国映画らしいモチーフが通奏低音。ただ、狩られる側から狩る側にならなければ未来はない――というところがつらい。主演に『金子文子と朴烈』(2017)のイ・ジェフンや『パラノイア』(2019)のチェ・ウシク、監督はユン・ソンヒョン。

  • いまのところ「近日公開」となっているアシフ・カパディア監督のドキュメンタリー『ディエゴ・マラドーナ』。ある世界でスターとなった人々を描くカパディアの作風は、新たに関係者にインタヴューを行うのではなく、徹底的に当時のアーカイブ映像や忘れられていた映像を掘り起こして文脈を作ること。そして、その人物がいちばん輝いていた姿を構築してみせる。だから題材に興味のない人もぐいぐい引き込まれます。『アイルトン・セナ』(2011)ではF1ドライバー、セナとアラン・プロストの熾烈なライバル関係。『AMY/エイミー』(2016)ではエイミー・ワインハウスが書いた歌詞の素晴らしさを視覚化することで、エイミーの言葉が悲痛な声となり、当時のマスコミの残酷さが浮き彫りになる作りに驚きました。『ディエゴ・マラドーナ』も奇行を繰り返し、カリカチュアライズされた最近のマラドーナしか知らない人が見ると、ナポリ時代の躍動に感動するはず。その圧倒的なフィジカルと技巧の一体感! と同時にマフィアとの繋がり、ナポリの人々に対するイタリア北部からの差別など、ダークサイドも描かれます。個人的には、マラドーナという人の二面性よりもサッカー界の光と影が印象的。センセーショナリズムに陥ることなく、「天才だからこそ苦しみを呼び込んでしまう」ストーリーをていねいに描けるところに、この監督への信頼があります。

  • 公開が延期された『イップ・マン 完結』(2019)のために、前三作を見返しました。シグネチャーの一対一の格闘シーンもいいけれど、イップ・マンのシリーズはモブ・シーンが抜群。アクション映画の熟練と情熱が伝わってきて、CGのモブとかもう見たくなくなります。同時に「群衆」がこれほど胸を打つことについても考えさせられました。映画だけでなく、「人が大勢集まること」の意味、その貴重さは、少なくともこれから数年でさらに変化するのでは。閑話休題。この4分半の短編映画は、ジャ・ジャンクー監督が新型コロナ危機の日常を撮ったもの。二人の男性が映画製作の打ち合わせをする姿がモノクロで淡々と映されるなか、ふと色鮮やかに華やぐ瞬間が訪れる。その心の動きにも、群衆シーンへの思いにも、コロナ以前でも以後でもない「いま」が切り取られています。ジャ・ジャンクーは、いつも映画でしかできないことを教えてくれる。

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