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  • ある結婚の風景(2021) directed by Hagai Levi by TSUYOSHI KIZU January 19, 2022 1
  • ユンヒヘ(2019) directed by Lim Dae-hyung by TSUYOSHI KIZU January 19, 2022 2
  • ハウス・オブ・グッチ(2021) directed by Ridley Scott by TSUYOSHI KIZU January 19, 2022 3
  • スティルウォーター(2021) directed by Tom McCarthy by TSUYOSHI KIZU January 19, 2022 4
  • クライ・マッチョ(2021) directed by Clint Eastwood by TSUYOSHI KIZU January 19, 2022 5
  • 結婚とは何なのか? ひとはいまも昔も考え続けている。『ある結婚の風景』はスウェーデンの巨匠イングマール・ベルイマンが1973年に発表した伝説的なテレビ・シリーズで、壊れ、移ろい、元にあった形とは違ったものに変わっていくある夫婦の関係をたっぷりと時間をかけて捉えた作品だ。たとえば『マスター・オブ・ゼロ』のシーズン3は同作に強く影響を受けたと制作陣に公言されているが、リレーションシップの複雑さを生々しく、ある意味残酷に捉えたものとしていまも影響を与え続けているのだ。このリメイク版ではオスカー・アイザックとジェシカ・チャステインという現代の名優ふたりを夫婦にして、家事育児をする夫と外で稼ぐ妻、オープン・リレーショップといった現代的な設定を取りこみながら、時代は違えど変わらない「結婚」の困難を見つめる。とにかくアイザックとチャステインの親密なやり取りが官能的で、言い争いや日常の些末な出来事すら、ある関係性においてはエロティックなことなのだと体現してみせる。時間とともに人間も関係も変わっていくことの切なさも。本作がオリジナル版から優れていたのは、まさにテレビ・シリーズとしてのフォーマットをふんだんに生かしていることで、結婚の困難とはつまり「継続すること」なのだと、その濃密なやり取りを通して身をもって感じさせるのである。

  • 『マスター・オブ・ゼロ』のシーズン3や濱口竜介監督の短編映画集『偶然と想像』の第3話がそうであるように、同性愛も含む女性同士の緊密な関係を描く作品がいま増えているのは、これまではそうした物語が男性中心的な文化によって隠されてきたからだろう。韓国と日本に住むふたりの女性が手紙を通じてふたりの過去に想いを巡らせる本作は、まさに過去に隠されたものとしての女性同士の親密な交感を繊細に立ち上げる。岩井俊二の『Love Letter』にインスパイアされてメインの舞台を北海道の小樽とし、雪に覆われた静寂のなかで、彼女たちが人生にたったひとつだけの大切な関係をゆっくりと温め直す。いま、これほど情景を大切にする映画というのはそれだけで尊い輝きを携えている。また、そのふたりだけでなく、おばと姪、母と娘といった女性同士の一対一のやり取りを丹念に積み上げていく作劇も誠実だ。監督は本作が長編第二作目の新鋭イム・デヒョン。

  • これは不思議な映画です。ハリウッドのスター俳優をふんだんに配し、イタリアを舞台に華やかなファッション業界の一族の内幕を描くというのは古風な映画の良さもあるけれども、画面をバチバチにキメないと気が済まないリドリー・スコットのヴィジュアル主義と、(有名な実話というかゴシップをベースにしているという意味でも)ものすごく下世話なストーリーと、バリバリの演技合戦と、やたら派手な80年代ポップス使いがそれぞれフィットしていなくて、しかしその違和感で見せていく仕上がりになっている。たとえば現在のアメリカン・ドラマの最高峰とも言われる『メディア王 ~華麗なる一族~』(原題『Succession』)がそうだけれども、超富裕層の一族のドロドロを滑稽に見せるという意味では現代性もあり、老いてなお豪胆になっていくリドリー・スコットの尽きぬパワーを見る思いもする。『アリー / スター誕生』の悲劇のディーヴァに続き、役者としてのレディ・ガガは性悪なのだけれども熱い女を体現し、ますますゲイ・アイコンとしての貫録を遺憾なく発揮。

  • 舞台は南フランスの港町マルセイユ。恋人を殺した容疑で収監されている娘アリソンを助けるために、オクラホマからフランスに渡った父親の苦闘を無骨に描いた一本だ。地中海の暗黒小説に着想とした本作は、言葉の通じない土地で放浪する男が抱く異国情緒とともにフランスの移民社会の実情を生々しく含んだ犯罪ものになっている。おそらくは脚本に参加したジャック・オディアール組(『預言者』のトーマス・ビデガンと『ディーパンの闘い』のノエ・ドゥブレ)の貢献が大きいと思われるが、そこに『スポットライト 世紀のスクープ』のトム・マッカーシーが2010年代後半のアメリカ社会情勢を織りこむことで、より複雑で、奥ゆきのある人物描写が加わることになった。マット・デイモン演じる中年男ビルは2016年にトランプに投票していていたタイプの労働者(実際は犯罪歴があり、投票すらできなかったという設定)で、彼がフランスで人権派の女性とその娘と絆を育んでいく……というのは、アメリカの保守的な土地から逃れられない者たちにとっての一種のエクソダスのようにも見えてくるのだ。だから、出会った少女に対して「父」をやり直していく男の姿はどうしたって胸を打つものがある。それでも映画は、人間の業を見つめながら、逃れられない場所としての「アメリカ」を強烈に印象づけて終わっていく。その、ずっしりとした後味が尾を引く(異国を舞台にした)アメリカ映画。

  • イーストウッドの描くアメリカは変わらず、しかし、少しずつささやかなものになっている。乾いた土地で孤独な少年と心を通わせる老人という意味では『グラン・トリノ』だし、イーストウッド本人が演じる渋い爺さんと美しい未亡人と行きがかり上いい感じになるのも何だか何度も見た気もするが、映画が映すものなんてちょっとした人間同士の心の交流でいいんだ、とでも言うような素っ気なさが心地いい。ここで浮かび上がるダンディズムは少なくとも現代的なものではないし、とくに若い世代にはマッチョなものにも見えるだろう。それでも去りゆく老兵から次世代は生きる希望のようなものを受け継ぎ、そして老いた男も人生が良きものであることを思い出していく。異なる世代のやり取りが闘争的になっている現代にこそ、老いた巨匠によるこの小さな映画は、自分の周りで固まった価値観の外に出ることの尊さを感じさせてくれる。思えばイーストウッドはずっと、わたしたちにそんなものを差し出してきたのだった。

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