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  • グッド・タイム(2017) directed by Josh & Ben Safdie
    by TSUYOSHI KIZU October 25, 2017 1
  • マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)(2017) directed by Noah Baumbach by TSUYOSHI KIZU October 25, 2017 2
  • ノクターナル・アニマルズ(2016) directed by Tom Ford by TSUYOSHI KIZU October 25, 2017 3
  • 婚約者の友人(2016) directed by François Ozon by TSUYOSHI KIZU October 25, 2017 4
  • ネルーダ 大いなる愛の逃亡者(2016) directed by Pablo Larrain by TSUYOSHI KIZU October 25, 2017 5
  • ストリート・キッズたちの荒んだ日常を見つめた『神様なんかくそくらえ』(2015)で世界的な注目を集めたサフディ兄弟。そこで映されていたのは、この社会が生み出した「ゴミ」としてのキッズたちだった。マクドナルドやスターバックスのトイレで注射針を打つ、虚ろな目をした少年少女。すぐそこにいるのに、誰も目を向けようとしない者たち。その生々しい映像に冨田勲とアリエル・ピンクを流すセンスも含め、サフディ兄弟は「下」で生きる人間たちこそをアートに持ちこもうとした。ロバート・パティンソンというスター俳優を迎えた『グッド・タイム』でもそのポリシーは貫かれている。ニューヨークのもっとも貧しい層として生きる主人公兄弟の強盗と逃走劇には、大義もロマンも何もない。あるのはひたすら貧しさと愚かさばかりだ。だがサフディ兄弟はそこから目を逸らすことを許さず、圧迫的なクローズアップの多用と音楽とともに息が詰まる映像を畳みかけていく。そしてそのサウンドトラックを担当したのがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーであり、それはあまりにも兄弟監督のテーマと合致してしまう。たとえば『レプリカ』がそうだったように、OPNがこれまで拾い集め、奇妙なアートにしてきた「ゴミ」が痛ましく、スリリングに鳴り響いている。

  • 21世紀のニューヨーク派を代表するノア・バームバックの新作はnetflixで。『グッド・タイム』とはまったく違う姿ではあるものの、これもたしかにリアルな現代のニューヨークであり、あちらがOPNなら本作はランディ・ニューマンとともに味わい深い人間模様を綴っていく。彫刻家としてそこそこ活躍してきたが現在はあまり注目されていない父ハロルドと、身勝手な父親に振り回され続けてきた姉弟たちの交流を通して、100パーセント愛することも憎むことも難しい家族の不可思議をウィットたっぷりの脚本で描く。ずけずけと言い合って衝突しているかと思ったら、次のカットでは仲良く歌っている性懲りのなさはアルノー・デプレシャンの家族ものなんかに近いかもしれない。そしてデプレシャンの映画と同様、「何も起こっていないようで、人生の一大事が起こっている(かもしれない)」物語でもある。俳優陣のアンサンブルはここでも抜群で、前半1時間でとんでもない破壊力を見せつけてくれるダスティン・ホフマンはもちろん、『パンチドランク・ラブ』(2002)以来の「うまく生きられない大人の男」のペーソスを纏ったアダム・サンドラーがとにかく素晴らしい。

  • 「カリスマ・デザイナー、トム・フォードの満を持しての映画監督デビュー作」であった『シングルマン』(2009)が、意外なほどシンプルにゲイとして老いていくことの心細さを描いていたように、入り組んだ構造で、かつ優雅な映像(と衣装)で見せる本作も実は真っ当な男と女の愛憎劇となっている。アート・ギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、20年前離婚した夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から小説「夜の獣たち(ノクターナル・アニマルズ)」が送られてくる。その暴力的な物語を読み進めていくうちに、スーザンはエドワードとの想い出と感情を取り戻していくが……。映画はLAでセレブリティの暮らしをするスーザンの日々と、小説の舞台であるテキサスを行き来する。原作小説では医者の妻であったスーザンの設定を変えているのは、彼女をトム・フォード自身により近い場所に置くためだろう。セレブリティ・カルチャーで栄華を極める彼の孤独と野性的な物語への憧れが、ここでは女が抱く複雑な欲望と重ねられているのである。存外にパーソナルな映画作りをする人なのだと思う。

  • しかしながら、女の複雑な欲望のあり方を描くゲイ作家という点では、現在この監督の右に出るものはいないだろう。毎度多彩なスタイルで魅せてくれるフランソワ・オゾンの新作は、エルンスト・ルビッチ監督の『私の殺した男』(1932)の元の戯曲を翻案したモノクロ作品だ。第一次世界大戦後のドイツ。婚約者フランツを戦争で亡くし、婚約者の両親とともに暮らすアンナのもとにフランツの友人だったというフランス人・アドリアンが訪ねてくる。フランツのように音楽と芸術を愛し、またフランツとの友情を語るアドリアンにアンナは次第に惹かれていく。モノクロの明暗でエレガントに見せる様はまさに古典映画のスタイルだが、そこでは「婚約者の友人」を自称するアドリアンの正体よりも、アンナが彼に抱く感情の込み入り方こそが映画のミステリーとなっている点が現代的。 愛や憎しみ、それに情動というものは誰にもコントロールできないものだが、それこそが生きる力(エロス)になりうるのだ――というオゾンらしいテーマが反復される。時折モノクロからカラーへと変貌する映像の美しさに嘆息せずにはいられない。

  • チリの国民的詩人であり、ノーベル賞作家としても知られるパブロ・ネルーダ。彼は共産主義の政治家でもあり、南米ではゲバラに並ぶ左派の英雄とも言われている。『イル・ポスティーノ』(1994)は彼のイタリア亡命時代をイタリア側から描いたものだが、本作はチリからの逃亡劇をチリ人監督、パブロ・ララインの視点から捉えたものだ。だが、そこは『ジャッキー/ファーストレディ最後の使命』(2016)でアメリカ史を実験的に解体していたラライン監督である、一筋縄ではいかない。ネルーダの詩を全編に散りばめ、また物語をそれらとシンクロさせながら、ネルーダの生き様を虚実入り乱れさせつつ語っていく。ラライン監督がここで試みているのは伝記的に英雄の生涯を語ることではなく、20世紀のアイコンを多面的に描くことで、チリ史における共産主義のあり方を振り返ることであったろう。すなわち、アートと政治の関わり方について激動の時代をモチーフにして再考しているのだ。アウグスト・ピノチェトも一瞬登場するが、その辺りはチリ史をモチーフとした昨年のニコラス・ジャーの傑作『サイレンズ』と並べてみると面白いかもしれない。

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