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  • 戦争と女の顔(2019) directed by Kantemir Balagov by TSUYOSHI KIZU July 29, 2022 1
  • アトランティス/リフレクション(2019/2021) directed by Valentyn Vasyanovych by TSUYOSHI KIZU July 29, 2022 2
  • C.R.A.Z.Y.(2005) directed by Jean-Marc Vallée by TSUYOSHI KIZU July 29, 2022 3
  • ファイアー・アイランド(2022) directed by Andrew Ahn by TSUYOSHI KIZU July 29, 2022 4
  • 海賊になった貴族(2022-) created by David Jenkins by TSUYOSHI KIZU July 29, 2022 5
  • こんなときだからこそ、近年ロシアからどんな映画が生まれているかを見ておきたい。今年日本で公開されただけでも、ソビエト連邦が長く隠していた民衆弾圧を描いたアンドレイ・コンチャロフスキー『親愛なる同志たちへ』(2020)、ポスト・ソビエト時代の混沌を重層的に描くキリル・セレブレンニコフ『インフル病みのペトロフ家』(2021)と、パワフルな作品が続いている。ロシアの内側からどのようにロシアを描けるのか……誠実な映画作家たちが苦闘している。アレクサンドル・ソクーロフの下で学んだという1991年生まれのカンテミール・バラーゴフによる本作は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの『戦争は女の顔をしていない』(1985)を原案としたもの。第二次大戦の独ソ戦に従軍した女性たちの膨大な証言をまとめた同作を、大胆に劇映画として翻案している。大戦後、PTSDを抱えた女性ふたりによるスリリングで痛ましい愛憎劇。戦争の「その後」の日常につねに向き合わなければならないロシアという国のヘヴィさに慄き、そして性的マイノリティの権利が抑圧される同国からこのような生々しいクィア映画が現れたことに驚かされる。

  • いっぽうのウクライナからもまた、戦争と向き合った映画が届いている。親ロシア派勢力の〈分離派〉に支配されているドンバス地方におけるプロパガンダを描いたセルゲイ・ロズニツァ『ドンバス』(2018)が記憶に新しいが、ウクライナを代表する映画人のひとりであるヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督の2作が同時公開された。ロシアとの戦争終結後という設定の2025年のウクライナの街でトラウマを抱える元兵士を描いた『アトランティス』、2014年のクリミア侵攻のなかで捕虜となり想像を絶する非人道的な扱いを受ける医師を描いた『リフレクション』。それぞれ近未来/近過去を舞台にしている点では対照的だが、「戦後」の過酷な現実を描いているという意味では同様だ。人びとは心を壊し、帰らぬひとを思い、そして死体をたんたんと処理せねばならない。静謐に整った画面をただ並べているようで、それが突然ダイナミックに動く映画的な強靭さ、厳然さ。いま、ウクライナからこのような迫力を携えた作品が続いてしまうことにうなだれずにはいられないが、しかしやはりこれは、わたしたちが見つめるべきショットであり、現実である。

  • 2019年に58歳で急逝したジャン=マルク・ヴァレ監督が、かつてケベックを舞台に撮っていたカナダ映画が劇場公開される。とくにカナダ国内で絶大な人気を誇る作品だそうで、このウェルメイドな作品が埋もれていたことに驚く。ほぼ1960年生まれの少年ザックが、自身のゲイというアイデンティティとそれを良く思わない父親との間で葛藤する……というのはよくある話だが、父親を一面的な悪として描いていないし、全員男の五兄弟も含めて家族間でパワーバランスが変わっていく様をリアルに織りこんだ脚本が巧い。70年代を描くのにデヴィッド・ボウイやピンク・フロイドの有名曲を使う(いま見ると)ベタさは愛嬌だが、父親と音楽好きという共通点で繋がっているという設定がいい。これがカナダで公開された2005年はカナダ全土で同性婚が合法化した年であり、つまり、日本の20年先を行っていたということだ(それ以上になるかも……)。

  • 何度も映画/ドラマ化されてきたジェーン・オースティンの『高慢と偏見』を、現代ゲイのロマコメとして翻案。オール・ゲイ・キャスト、しかも出演・制作の中心はアジア系となっていて、ある意味、『クレイジー・リッチ・エイジアンズ』のゲイ的展開と言えるかも。歴史的にゲイの出会いの場であったニューヨークのファイアー・アイランドを舞台に、階級の違うゲイ・グループの出会いと友情がポップに描かれる……のだけど、ゲイ・コミュニティのなかでアジア系が置かれている立場なども正直に描かれていて、それがスパイスになっている。脚本・主演を務めるのは韓国系アメリカ人コメディアンのジョエル・キム・ブースターで、ゲイ・セックス・ネタ満載の彼のスタンダップも超笑えるので併せてぜひ。これからさらにビッグなゲイ・アイコン、エイジアン・アイコンになっていくだろう。

  • もう1本ゲイのロマコメを。実在したとされる海賊になった貴族スティード・ボネット(リス・ダービー)と、同じく実在したとされる海賊“黒ひげ”(タイカ・ワイティティ)が出会っていて、しかも恋に落ちていたら……? というコメディだ。作風はめちゃユルいんだけど、ある意味、これくらい気軽に見られる作品にLGBTQモチーフが現れるのは時代の進歩である。むくつけき海賊たちに囲まれおっさんハーレム状態になるのも(木津にとっては)楽しいし、ノンバイナリーのドラァグキングとして知られる俳優がさらっと共存しているのも現代的。タイカ・ワイティティも大作映画を撮るよりも、これくらい気楽な役を演じているほうが生き生きしているのでは? ちなみに、ニール・パトリック・ハリス主演の『シングル・アゲイン』、ビリー・アイクナー主演の『BROS』とゲイのおじさんをモチーフとしたロマコメが続きます……ので時代はおっさんとゲイということで、拙著『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(https://bit.ly/3OR3Yrm )もよろしくお願いいたします。

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