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  • アメリカン・ユートピア(2020) directed by Spike Lee by MARI HAGIHARA March 29, 2021 1
  • アンモナイトの目覚め(2020) directed by Francis Lee by MARI HAGIHARA March 29, 2021 2
  • サンドラの小さな家(2020) directed by Phyllida Lloyd by MARI HAGIHARA March 29, 2021 3
  • Calls コール(2021) directed Fede Álvarez by MARI HAGIHARA March 29, 2021 4
  • ファルコン&ウィンター・ソルジャー(2021) created by Malcolm Spellman by MARI HAGIHARA March 29, 2021 5
  • デヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』発表時のステージは、個人的に2018年のコーチェラでもハイライトだったもの。スパイク・リー監督によってブロードウェイでのショーが映画になりました。感謝! というのもジョナサン・デミ監督作『ストップ・メイキング・センス』(1984)と同じくらい、これはコンサート・フィルムとして価値が出るはず。ミニマルな舞台でグレーのスーツを着た12人のミュージシャンが歌い、踊り、演奏する——それが観衆の感情と身体を揺すぶり、さらなる共振としてスクリーンから伝わってきます。いま自分たちに欠けているのはライブの会場に行くことだ、と痛いほど感じたりも。ただデヴィッド・バーンだけに、そこには人間への考察も、政治的・社会的意識もある。けれどもそれを煽るのはあくまでグルーヴ。終盤でジャネール・モネイのプロテスト・ソング“Hell You Talmbout”がカバーされるのも圧巻で、デヴィッド・バーンとジャネール・モネイの共通点はそこなのでは、と思いました。つまり音楽家/活動家として人々から最大の熱狂を引き出す、最強のウェポン。そこをスパイク・リーが見逃すはずはない。クレジットロールのゆるいシーンまで楽しめる一作です。

  • 実在の19世紀の古生物学者、メアリー・アニングをモチーフにした物語を創作したのは、『ゴッズ・オウン・カントリー』(2017)のフランシス・リー監督。彼の映画では自然、特に大地に根ざした労働が恋愛と重なってくるところがユニークです。『ゴッズ・オウン・カントリー』では畜産農家の息子が移民の男性と結ばれ、『アンモナイトの目覚め』では、浜辺で化石を掘るメアリー(ケイト・ウィンスレット)の前にシャーロット(シアーシャ・ローナン)が現れる。メアリーは幼い頃大英博物館に飾られるほどの大発見をしたものの、その名前は記されることなく、生計のため観光客にアンモナイトを売る日々。ただそこに裕福な化石蒐集家が訪れ、妻の世話を彼女に託します。身分は違うものの、自分を抑えながら生きてきた二人の女。一緒に泥を掘ることが彼女たちの情熱に火を点けます。まるで岩から美しい化石の姿が浮かびだすように、女たちは自分に確信を持つようになる。社会から与えられる異性愛と違い、同性愛はリーにとって自分の手で見つけるものなのかも。暗く荒々しいイギリスの空と海のそばで生きる、「笑わない」メアリーの人物造形が最後までぶれないのもいい。

  • DV、貧困、住宅問題。これもセーフティ・ネットが機能しない社会に生きる女性のストーリーですが、セルフビルドの家を建て、それを通じてコミュニティを見つけていく点が新鮮。ケン・ローチ映画のアイルランド女性版、と言いたくなる気持ちもわかります。元々は俳優のクレア・ダンが友人の体験にショックを受け、初めて脚本を書き、主演することになったもの。ダブリンでシングルマザーとして働き、生活するディテールが実感とともに描かれます。夫との親権争いなどスリリングな展開も挟まれるものの、一番の中心は素人たちが一から家を建てていくプロセス。それが主人公だけでなく、それぞれに事情を抱えた人々の気持ちを前に向かせるのです。その共同体のあり方は、アイルランドに深く根付くものだとか。監督は『マンマ・ミーア!』(2008)などのフィリダ・ロイド監督。

  • 音声だけのドラマは、ポッドキャストの『ホームカミング』(2016-2017)などヒット作も出てきただけに、音声メディアでもっと追求されてほしい。ただ、こういう映像作品にすると世界に配信できるのだと気づきました。元はフランスのドラマだったものを、アップルTVのオリジナル作品としてリメイク。それぞれ10〜20分ほどの9本の短編に、ペドロ・パスカルら錚々たるキャストが声優として登場します。どれも数人が電話で通話するワンシーンの会話劇として展開。最初は一本ごと、日常的なストーリーにひねりを加えたオムニバスなのかな、と思っていたら、それが徐々に大きなプロットを構築し、ついには次元を超える壮大なユニバースが広がります。奇妙で恐ろしい場面を音声で表現し、視覚的なものを視聴者の想像に任せるところがスマート。とはいえ、画面では「声」が幾何学的な映像で表現され、発声者とセリフを文字で追うことができます。この形式からは、これまでとは違う脚本や演出も生まれそう。あと1、2シーズンは見てみたいシリーズ。

  • 『ワンダヴィジョン』(2021)に続く、MCU新フェーズのドラマ・シリーズ。『ワンダヴィジョン』同様、まずドラマとしての設定が新しく、秀逸。ただこれも今後背景が明らかになり、敵味方のアクションが始まると一気に既視感が出てくるかもしれません。なのでいまはむしろ、それぞれのキャラクターが「指パッチン後」の世界でどう日々を過ごしているかを描く序盤に興味津々。5年間の空白、リーダーシップの不在、喪失を抱えた人々——それは期せずして、パンデミック後の世界とも似ている。特に制度が後手後手になって人々に理不尽を押しつけるところや、政府が空虚なシンボルやキャッチコピーに頼ろうとするところなど、くらっとしました。本格的にディザスター・キャピタリズムを描くドラマになれば面白いのに、と思ったりも。今後どんな展開になっても、ドラマならではの「スーパーヒーローの生活感」は残していってほしい。

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