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  • エイス・グレード(2018) directed by Bo Burnham by MARI HAGIHARA September 03, 2019 1
  • ホームカミング(2018-) directed by Sam Esmail by MARI HAGIHARA September 03, 2019 2
  • アス(2019) directed by Jordan Peele by MARI HAGIHARA September 03, 2019 3
  • プライベート・ウォー(2019) directed by Matthew Heineman by MARI HAGIHARA September 03, 2019 4
  • 帰れない二人(2018) directed by 賈樟柯 by MARI HAGIHARA September 03, 2019 5
  • ボー・バーナム監督はユーチューバー出身の28歳。彼が描こうとしたのは、「自分とは違う世代」としての13歳のケイラ(エルシー・フィッシャー)。その日常は確かにSNSと地続きで、自意識もプレッシャーも強く、特に女の子は容姿について傷つくことも多い。でもそんなケイラの現実にバーナムが誠実に向き合っているからこそ、見ていて「これは私!」と感じられる。友だちが欲しい、自信が欲しい、でも外向的になるのは本当に難しい——その切実さはどんな世代でも同じ。ニキビが悩みで、体を丸めて歩くケイラ。自己啓発的な動画を投稿しては、何度も失望を感じるケイラ。でも、これまでネガティブに描かれることが多かったSNS世代の自意識を、ボー・バーナムはもっと身近に描き、温かく見守る。問題はもちろん山積だけれど、彼女や彼、一人ひとりがネットにアップしつづける写真と映像は、他人へのアピールや承認欲求というだけでなく、彼女や彼自身へのタイムカプセルになるかもしれない。それが他の人に届いて何かが変わるかもしれない、と。そんな監督のユーチューバーとしての実感と優しさ、子どもたちへの希望に、ちょっと泣いてしまう映画です。

  • 形式や内容が多様になり、大手からの買収も進むポッドキャスト。制作会社、ギムレット・メディアの2016年のヒット・タイトル『Homecoming』がアマゾン・スタジオによってドラマ化され、会社そのものが今年スポティファイに買収されたのは、目立った成功例の一つでしょう。『Homecoming』はフィクションのポッドキャスト。ラジオドラマのように、ある帰還兵と心理カウンセラーを中心にした物語が音声で展開されます。主演はキャサリン・キーナー。一方、ドラマとなった『ホームカミング』はいきなりジュリア・ロバーツ主演。ドラマ版監督に『ミスター・ロボット』(2015~)のサム・イスマイルが加わったのにも本気度が感じられる。とはいえ、ポッドキャスト版を先に聞いていると、音だけで想像をふくらませるさまざまな工夫が面白かっただけに、ドラマ版にはちょっとした物足りなさも。米帰還兵が集められた施設で、秘密のプログラムが進められている——という普通の陰謀ものに見えてしまうのです。ただ、それぞれ趣向を凝らしたポッドキャストとドラマを比べるのは一興。ドラマ版はシーズン2でなんとジャネール・モネイが主役に決定しました。

  • 『ゲット・アウト』(2017)以来、どんどん扱いが重鎮っぽくなったジョーダン・ピール監督。コメディ出身ということで、彼が作るホラー・ムービーでは「笑い」の要素がよく語られますが、案外恐怖という「わからなければわからないほど増す」感情を理詰めに落とし込んでいる。そのアプローチが新鮮で、脚本も緻密です。ただ細部にはスタイリッシュな不気味さがある。今作では赤い服を着た4人の影が手を繋いでいる姿や、地下世界の造形に滑稽さと怖さの両方を感じました。ストーリーは子どもの頃恐ろしい体験をした場所に戻った女性が、自分のドッペルゲンガーと直面し、それと戦ううち驚愕の真実が現れる、というもの。それは私たち=アスの内なるダークネスであり、アメリカ=USのアンダークラスに光を当てることでもある。社会的アングルをシュールなメタファーにするところに、ドナルド・グローバーにも通じるいまっぽさを感じます。ルピタ・ニョンゴの二役が迫力。

  • 伝統的なメディアへの信用がなくなり、フェイク・ニュースがネットを席巻し、背後に意図のない「報道」などなくなったように見える現在。だからこそ、スピルバーグは短期間で『ペンタゴン・ペーパーズ』(17)を撮り、ジャーナリズムの正当性を取り戻そうとしました。一方、ドキュメンタリー『ラッカは静かに虐殺されている』(17)のマシュー・ハイネマン監督が取り上げたのは、女性戦場記者メリー・コルビン。タミルの虎を取材中に片目を失明し、眼帯をつけ、その後も戦場を飛び回って惨状を記事にしつづけた伝説の記者です。演じるのはロザムンド・パイク。もうそれだけでカッコいいのですが、むしろこの伝記映画では彼女をヒーロー視するというより、戦争に依存し、PTSDに苦しみ、強引で無茶な行動もする人間として描いている。コルビンは人々の苦しみを自分のものとして、タイトル通り、「私的な戦争」を生きていた。と同時に、記者としての情熱は無私のものでもあるのです。その人生を通して、ジャーナリズムを問う一作。女性像としても魅力的です。

  • 2000年代の激変する中国で、人々は何をよすがに暮らしているのか。その一端を男女や家族のストーリーとして見せてきたのが、ジャ・ジャンクー監督。自分の中国へのイメージもかなり影響を受けていると思います。今回は21世紀初めから17年に渡り、広大な大地の別の場所で出会っては別れる男女のメロドラマ。でもそこに日本語では「渡世」と訳されている、「江湖」という裏社会の要素が入ってくることで、古代中国から続く規範や価値観、行動基準と、新しい社会がクラッシュする話にもなっている。ジャ・ジャンクー監督作に出演しつづけている女優、チャオ・タオが『青の稲妻』(02)や『長江哀歌』(06)で演じた女性をまた演じなおすことで、時間や作品としても多層性を作ることになりました。新機軸は一瞬、SF的展開になること。まあ、300万人が移住した土地に世界最大の三峡ダムが作られるような国にいると、本当に時空を駆け抜けるような感覚が生まれるのかもしれません。「YMCA」など世界でヒットしたポップ・ソングや中国の歌謡曲が、折々の感傷を彩っていく演出は健在です。

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