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  • The Handmaid's Tale(2017-) created by Bruce Miller by MARI HAGIHARA June 09, 2017 1
  • RAW(2017) directed by Julia Ducournau by MARI HAGIHARA June 09, 2017 2
  • アイム・ノット・シリアルキラー(2016) directed by Billy O'Brien by MARI HAGIHARA June 09, 2017 3
  • ザ・ダンサー(2016) directed by Stephanie Di Giusto by MARI HAGIHARA June 09, 2017 4
  • 地獄愛(2014) directed by Fabrice du Welz by MARI HAGIHARA June 09, 2017 5
  • ジョージ・オーウェル『一九八四年』と並ぶディストピア小説、マーガレット・アトウッドによる『侍女の物語』のドラマ化。huluの製作発表が2016年4月なので、狙ってはいなかったはず。でももちろん、この時点で配信/放映が始まると、現状との呼応を見てしまうのは否めません。ファナティックな政府に支配され、出産率が低下するアメリカで、出産能力のある女性がエリートの子どもを産むため派遣される――という物語が、「侍女」のひとりであるジューンの口から語られます。原作に比べ脚色されていると感じたのは、各人物にバック・ストーリーがある点と、女性たちの反抗と連帯が描かれる点。どちらも原作のトーンからは離れるものの、ドラマとしてアップデートするには必要だったのかも。ただジューンを演じるエリザベス・モス(兼製作)らの演技、抑圧的に使われる衣装などの美術によって、原作の美意識と恐怖は的確に伝わります。言語とイメージの統制という全体主義の柱が鮮烈に映像化されたことで、共通点だけでなく、「あまりにランダムすぎる」いまの世界との違いもはっきりわかる。フェミニズムの観点だけで語るのはちょっともったいない気がします。

  • 6月22~25日のフランス映画祭で観るなら、2018年まで一般公開されない本作。ただ海外では失神者続出という評判もあるので、留意してください。ジュリア・ドュクルノー監督による長編第一作の主人公は、獣医になるため大学寮に入るジュスティーヌ(ガランス・マリリアー)。ベジタリアンなのにもかかわらず新入生の通過儀礼として生の兎の臓物を食べさせられた彼女に、ショッキングな変化が訪れます。体を覆う湿疹、異様な食欲、ルームメイトのゲイの青年に向けられる性欲、上級生でもある姉との複雑な関係。女性の心と体が劇的に変わる時期の生理とアイデンティティ・クライシスが、ただのホラーとも青春ものともくくれない独自のヴィジョンで表現されています。確かに血まみれの衝撃シーンはあるものの、通底しているのは周りとは違う自分に気づくときの痛切で、ヒリヒリした感情。それに『キャリー』(76)的な場面やクローネンバーグ的な身体感覚も加わって、新鮮な寓話がまさにタイトルどおり「生々しく」立ち上がってくるのです。ブラッド・レッド・シューズなど、2000年代ポップ・チューンの使い方には監督個人の思い入れがありそう。

  • ジャンル・ムーヴィの形を借りた青春映画として、『RAW』が女子の目覚めだとしたら、『アイム・ノット・シリアルキラー』は男子の鬱屈。葬儀社を営む母を手伝う16歳のジョンは――演じるのは『かいじゅうたちのいるところ』(09)のマックス・レコーズ!――殺人を犯しかねない社会病質者と診断され、実際そうならないためのルールを自分に強いて、日々悩んでいます。でも類は友を呼ぶのか、彼はなんと近所の老人が――『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のクリストファー・ロイド!――町で起きている連続殺人の犯人であるのを知るのです。そこからアメリカの雪深い田舎町で始まるのが、ジョンと謎めいた老人の駆け引き。ちょっと『ファーゴ』(96)やデヴィッド・リンチの味わいもあります。まあどんなに深刻でも、ティーン・アングストというのは他人からすると笑っちゃう部分があるものですが、その感じをダークなユーモアを持つホラーに仕立てたところが秀逸。終盤にはさらにジャンルを逸脱して、意外な爽快感まで湧いてきます。

  • 19世紀末パリでモダン・ダンスを切り開いたアメリカ人ダンサー、ロイ・フラー。ミュージック・ヴィデオ界で活動していたステファニー・ディ・ジュースト監督の映画デビュー作は、彼女の人生には脚色を加えつつ、そのダンスの革新性を見事に再現しています。ストーリーとしても、衣装や照明を含め舞台を設計したロイ・フラーと、裸足で踊るだけで観客を魅了する天才ダンサー、イサドラ・ダンカンという対照的な二人の確執が、山岸凉子の『アラベスク』を連想させる面白さ。シンガーのソーコがフラーを、ジョニー・デップの娘リリー・ローズ・デップがダンカンを熱演しています。彼女たちの関係に一枚嚙む男性キャラクターとして、ギャスパー・ウリエルが没落貴族をセクシーに演じているのもいい。ベル・エポックに実在した芸術と人物像と、少女マンガ的なドラマの両方が楽しめます。それにしても『RAW』にせよ本作にせよ、ヨーロッパの女性監督の層は着実に厚みを増している。ここに『ありがとう、トニ・エルドマン』のマーレン・アデや『未来よ、こんにちは』のミア・ハンセン・ラヴらを加えると、それぞれの独創性が今後どんな作品を生んでいくのか、ワクワクします。

  • 1970年のカルト・クラシック『ハネムーン・キラーズ』と同時上映される、ベルギーのファブリス・ドゥ・ヴェルツ監督による2014年作品。どちらも40年代アメリカで実際に起きた連続殺人、ロンリー・ハーツ・キラー事件をもとにしています。結婚詐欺の男とその相方の女のカップルが次々孤独な女性を騙し、殺しながら旅を続ける――という何度も映画化されてきたこの話は、殺人とセックスという扇情的サブジェクトだけでなく、愛と嫉妬という究極のテーマがどう描かれるかが見どころ。本作はあくまで女性側のリアルな感情に寄り添い、どんなにドロドロしても狂気に向かってもそこから目を離しません。ひっそりと暮らしていたシングルマザーが恋に落ち、男の本性を知ってからも彼を支え、執着し、嫉妬に駆られていく姿がとにかくすごい。すごすぎて怖すぎて、何度も笑ってしまいました。エモーショナルで、奇妙で、血みどろな一作。ここまで人を愛せるなら味気ない人生よりいいんじゃないか、と不思議な解放感があったりも。スタイリッシュなモノクロ作品『ハネムーン・キラーズ』と、赤く燃えさかる『地獄愛』を比べてみるのも一興です。

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