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DAYS ARE GONE
 
Haim (Universal) by AKIHIRO AOYAMA
JUNNOSUKE AMAI
November 07, 2013
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DAYS ARE GONE<br />
 

今年最注目のベスト・ニューカマーによる、
2013年の空気を見事に捉えた完全無欠のポップ・レコード

ロサンゼルスで生まれ育った三姉妹バンド、ハイムが一気に世間の耳目を集めたのは、EP『フォーエヴァー』をリリースした昨年の夏ごろ。それから彼女たちはマムフォード&サンズやフローレンス&ザ・マシーンのツアー・サポートに抜擢され、見る見るうちに知名度と期待感を高めていった。今年の初めには、NME誌の新人特集で「ザ・キッズ・アー・オーライト」の見出しと共にパーマ・ヴァイオレッツと並んで表紙を飾り、BBCサウンド・オブ・2013では第1位に選出(バンドがトップを飾ったのは実に05年以来)。かくして2013年最注目の新人アクトとなった彼女らのことを、僕もそれなりの期待感を持って追いかけてきたのだけれど、このデビュー・アルバムを聴いた今、それでもまだ自分はハイムのことをナメていたのかもしれないと思わされる。

リンジー・バッキンガムとスティーヴィー・ニックス加入後のフリートウッド・マックを筆頭とする、70~80年代ポップ・ロックの煌びやかなムード。60年代ソフト・ロックやアメリカーナの豊饒なヴォーカル・ワークを受け継いだ、3人による息の合った多層コーラス。クラシック・ロック譲りのテクニカルな素養の確かさを見せるギター・サウンド。そして、90年代から現在までずっとUSメインストリームの顔役として隆盛を誇り続け、今また新たな変革の時を迎えているR&Bのしなやかなビートとメロディ。86年~91年に生まれ、昔のロックやルーツ・ミュージックのレコードに囲まれた音楽好きの家庭で育ち、長姉エスティと次女ダニエルはティーン・ポップ・バンドの一員だった来歴も持つ彼女たちの二十数年間の人生を彩ってきた様々な音楽のエッセンスが、本作には余すことなく詰まっている。最も共通点のある関連作品を挙げるとすれば、ダニエルをツアー・メンバーに抜擢して音楽キャリアの前進にも貢献したLAインディ・シーンの先輩、ジェニー・ルイスが率いたライロ・カイリーの07年作『アンダー・ザ・ブラックライト』。だが、ここには同作から6年の時が経過しただけの更なる柔軟な感性や、今の若者らしいオープン・マインドな音楽観がたおやかに息づいていると言っていい。

本作が何より素晴らしいのは、豊かな素養を内に秘めつつも、解説がなければ理解できそうもない難解な批評精神や分かる人間にだけ分かればいいというようなスノビズム、あるいは気負いや背伸びすらも一切なく、キャッチーで華やかで万人に開かれた「等身大のポップス」として成立しているところだ。その点は、7曲を手掛けたアリエル・レヒトシェイド、それぞれ2曲を担当したルドウィグ・ゴランソンとジェイムス・フォードという3人のプロデューサーの手腕も大きい。ハイムのこれまでのライヴ演奏を見る限りではもっとワイルドなロック色が強かったが、アルバム全体を彼らの手を借りてより耳馴染みの良いクリーンなプロダクションでまとめたのは正解。本作は、今のポップ・シーン全体の風通しの良い空気感を二十代女子の素直な視点を通して見事に捉えた、2013年のベスト・ニューカマーによる完全無欠のポップ・レコードだ。

文:青山晃大

2013年のガールズ・アイコンは、自身の適性と適材適所を見定めた
クオリティ・コントロールによって理想的な1stアルバムを完成させた

この三姉妹について語るとき、その音楽一家に育った環境を持ち出すことは安易だしフェアではないかもしれない。けれど、調べれば調べるほど、その生い立ちや恵まれた人脈は彼女達が今あるべくしてある背景としてやはり無視ができないことを実感させられる。さらに、遡れば10年近い彼女達の音楽活動を紐解けば、その華やかな経歴からはハイムのサウンドが形作られたディテールまでも確認できるに違いない。ストーンズやジョニ・ミッチェルなどクラシック・ロック/ポップを演奏するカヴァー・バンドで両親と活動し、スパイス・ガールズかアヴリル・ラヴィーン風情のティーン・ポップ・グループでメジャー・デビューを飾り、ジェニー・ルイスやストロークスのジュリアンやシー・ローのフックアップを受け、現マネジメントのボスはジェイ・Zときた。そうした導線に浮かび上がる色とりどりの音楽の意匠は、そっくり擦れるところなくハイムのサウンドに紐付けられている。そして、今日まで彼女達の周りを踊る固有名詞の数々は、そのまま本作にいたる音楽的な参照点を提供してきたと見て構わないだろう。

ハイムのサウンドの柱となるフックは、デビュー・シングル“ドント・セイヴ・ミー”や10インチ収録の“ベター・オフ”ですでに流暢にも示されていた通りである。それはざっくりと言えば、TLCやデスティニーズ・チャイルドといった彼女達が思春期に夢中になったであろうメインストリームのR&B/ブラコンのモダンなプロダクションと、物心つく前から両親の英才教育で刷り込まれたに違いない60~70年代のウェストコースト・サウンド、になるだろうか。前者の志向は、いわゆるインディR&B勢と共有するものであり(※R&Bでいえば、そのスムースなヴォーカル・ワークはダーティー・プロジェクターズやグリズリー・ベアが示したR・ケリーやアッシャーへの共感とも重なる)、そして後者の志向は、それこそフリート・フォクシーズ以降~近年のマムフォード&サンズやルミニアーズらニュー・フォークの流れにも連なるものであることは言うまでもない。あるいは、カルツやチェアリフトといったレトロなシンセ・ポップとも相性がいい。つまり、それはひとえにとても時宜にかなったサウンドであり、併せてそのメジャーとインディを分け隔てることなく歩まれた成長過程を振り返れば、なるほど、双方の最大公約数的な期待を受けるアイコンであるという彼女達のポジションにも頷ける。余談を加えれば、彼女達が「4人目の姉妹」と慕うサポート・ドラマーのダッシュ・ハントンが、ヴァン・ダイク・パークスやジミー・クリフの客演をこなす傍ら、ノー・エイジや旧〈ゴールド・スタンダード・ラボラトリーズ〉周辺の人脈とも繋がるという事実も興味深い。

彼女達はそうした自身の音楽的なフックについて相応に自覚的であるのだろう。その証左として、本作に迎えられたプロデューサーの人選は象徴的だ。最近はエリー・ゴールディングやチャーリー・XCXらエレクトロ・モダン・ポップを手がける一方、ヴァンパイア・ウィークエンドの最新作やSSWのキャス・マックムースのプロデュースで知られるアリエル・レヒトシェイド。そしてもう一人、ジェイムス・フォードの経歴については説明するまでもなく、近年はアークティック・モンキーズにおけるルーツィな仕事ぶりはご存知の通りである。つまり、前述したハイムのサウンドに関する2点において、両プロデューサーと彼女達の間には見事に音楽的な対称関係を認めることができ、そこには周到な青写真のもとに本作の制作が進められた様子が窺えるだろう。個々の楽曲のクオリティについてはやはり、リード・トラックの“フォーリング”含めて既発曲が抜きんでた印象だが、新録では、コンプの効いたプロダクションがゴーストリーな陰影を生む“マイ・ソング・5”が新鮮。アン・ヴォーグとラカンターズをマッシュアップしたような“レット・ミー・ゴー”、そしてもちろん、ジェシー・ウェアとの共作によるタイトル・トラック“デイズ・アー・ゴーン”も言うまでもなく素晴らしい。

確かに彼女達の場合、環境や人脈の利というものも大きい。が、それを活かしながら健やかな成長曲線が描かれてきた彼女達の持って生まれたもの、そしてある種のセルフ・プロデュースが行き届いたしたたかさも感じさせる、じつによくできたデビュー・アルバムだと思う。

文:天井潤之介

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