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FUTURE BROWN Future Brown (Beat) by YUSUKE KAWAMURA
MASAAKI KOBAYASHI
February 23, 2015
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FUTURE BROWN

アルカへと直結するラップ・アルバム、
ポスト・インターネットの向こう側で鳴るラップとグライム・ビート

シカゴ・ジュークを、その外に広める役割をしたNYのパーティ〈リット・シティ・レイヴ〉(日本に関しては我らが〈Booty Tune〉がその先導役として先だが)、さらには故DJラシャドなどの作品をリリースしたそのレーベル部門である〈リット・シティ・トラックス〉を主催するJクッシュ。クエート出身で昨年〈ハイパーダブ〉から1stアルバムをリリースした、ファティマ・アル・カディリ、さらにはロンドンのベース・シーンにおけるUKガラージの最新系を追いかける〈ナイト・スラッグス〉のLA分課〈フェイド・トゥ・マインド〉の、ダニエル・ピニーダとアスマ・マルーフの男女コンビ、イングズングズ。フューチャー・ブラウンは、この4人のプロデューサー・ユニットだ。ここで見るレーベルなどを考えれば、〈ワープ〉との契約も特に特段妙な感覚はないが、1stアルバムとなった本作は、最近の〈ワープ〉には珍しいラップ・アルバムとなった。

そのサウンドは、グライムやダンスホール、ムーンバートンなど、彼らが得意とする世界中のアンダーグラウンドなビート(同じページで小林雅明氏がより詳しく記述しているのではないかと、で、なければ氏による日本盤CDを参照のこと)と、さまざまなラップ、MCカルチャーを接合している。後者はそれこそ、UKグライムからはオリジネイター、ロール・ディープのクルー、リコ・ダンや元クルー、ローチーといったMCたち、さらにはシカゴのラップ新潮流ドリルからはジョニー・メイ・キャッシュ、YB、キング・レル、もうひとつの新潮流シカゴ・ボップのシッコ・モブ、またレゲトンやラガなど、カリブ~南米のMC文化からはジャマイカのティンバリーや、ドミニカのマルカなど女性アーティストが参加している。このアルバムがプレゼンしているのは、地球上に広がるラップ・カルチャーとその下敷きとなるビート・カルチャーの多様な感覚をまさに坩堝に入れてひとつにまとめあげたものだ。

USのみならず、カリブ、南米、さらにはグライムなどのラップ・カルチャーを内包していることを考えれば、1960年代のジャマイカのゲットーのサウンドシステムではじまり、NYとロンドンでさまざまな要素が加味、熟成され、世界中に飛び火したMC~トースティングの文化の現在のある視点からのまとめという言い方もできそうだ。

とはいえ、なによりも本作でおもしろいのはこうしたさまざまな要素を含みながら、すっきりとクールでポップな意匠を作り上げているということだ。ワールド・ミュージックやゲットー・ビーツを内包しながら、ある種ファッショナブルにクールにまとめあげている。それが本作の最も重要なキモとも言える。それがフューチャー・ブラウンの色だ。後述するが、それこそ彼らを結びつけたバックグランドにも関連するのではないかと。ちなみにひとつサウンド面でビートとともに特徴的なのは、どこかエキゾチックなシンセのラインだ。これで思い出すのは持ちがいなく、ファティマの〈ハイパーダブ〉からのアルバム『エイジアティッシュ』のサウンド。このあたりを考えると、DJ3人が持ち寄るネタと、彼女がある種のプロデューサーとして、全体の音色のキーウーマンとしてまとめあげているのではとも思うのだが。

さて、その立脚点は根無し草そのものというか、ある種のポストモダンなサイバー・パンクな言い方で若干気恥ずかしさもあるのだが、彼ら総体が立脚するのは、もはやシカゴやLA、NYといった実際の地域ではなく、“情報ネットワーク”という地域である。しかし、よく言われるような感覚で「インターネット」という言葉でそれを集約することは実際のその活動とかけ離れてしまう。むしろ、さきほど書いた“情報ネットワーク”とは、LAやNYなど根拠地はあれど、彼らのリアルな根無し草的なライフスタイルもそこには含まれる。さまざまな場所、パーティに赴き、そして出会う人々とのコミュニケーションが、そのサウンドを説得力のあるものにしているのではないかと思う。これは大事なことだ。

彼らが結びついたのはどんなバックボーンなのだろうか?彼らの集結を語る上で、ひとつ重要なパーティがある。それはNYのアンダーグラウンド・パーティで、いまやファッション・シーンにおいても最も注目されている〈GHE20G0TH1K〉というパーティだ。ここでJクッシュやイングズングズらも、レジデンシーのようにプレイしていた。このパーティから派生し、現在カニエやエイサップ・ロッキーがフェイヴァリットにあげ、大きな注目を集めるほどの存在になったアパレル・ブランド、〈フッド・バイ・エア〉。ブランドの設立者であるシェーン・オリヴァーもオーガナイズ・メンバーに名を連ねている。ちなみにショーンはビジュアル方面でフューチャー・ブラウンをバックアップもしている。〈GHE20G0TH1K〉や〈フッド・バイ・エア〉ともスタッフが近しい関係にあるレーベル〈UNO〉からはファティマがデビューしている。間違いなく、フューチャー・ブラウンの設立のきっかけとして、メンバーが出入りしていた前述の〈リット・シティ・レイヴ〉とともに重要なパーティ、人脈と言えるだろう。

ネットで結びついているようなイメージもありそうだが、彼らはおそらくこのパーティのリアルな人脈というのが重要な接点として、その結びつきに寄与している。さらにいえば、この並びにはフューチャー・ブラウン勢と並ぶ現在のカッティング・エッジなポップ・ミュージックを象徴する重要アーティストがダイレクトにつながっている。

この並びで、ピンときた人々もいると思うが、最近、この〈フッド・バイ・エア〉のショーの音源を手がけ、それを先日サウンドクラウドで『シープ』という作品として公開したのが、時代の寵児、アルカである。カニエとの邂逅はこの〈フッド・バイ・エア〉を通じて、そして彼の本格的な最初のキャリアは、ミッキー・ブランコのプロデュースなど〈UNO〉でのプロデュースからはじまったと言っても過言ではないだろう。このパーティ周辺が、ある種の現代NYのもっともカッティング・エッジな文化圏を生んでいることはまず間違いない。さまざまなビート、文化を寛容に受け入れ、クールでポップに昇華する。ある意味でDJカルチャーとポップ・カルチャーの結びつきの見本のような文化圏とも言える。

ちなみにアルカやミッキー・ブランコが象徴するように、〈GHE20G0TH1K〉はゲイ・フレンドリーなパーティだそうで、そのあたりもまたNYのアンダーグラウンドらしい、新潮流の発信源だ(ちなみにイングズングズがLAでやっている〈ワイルドネス〉もやはりトランスジェンダーやクイーアが集まるパーティなのだとか)。

ネットで“音楽を掘る”ということに関して全知全能を手に入れたと騒ぐほどバカけたこともないことを、彼らのその結びつきを考えれば、本作は逆に体現しているようにも思える。通信プロトコルの向こう側に行き、掴み取れる情報は確実に広がり、地球の裏側のたった数人しか聴いたこともないビートも運が良ければ手に入れることもできる。しかし、人々の心を動かすほどのビートも一握りであることも事実だ。その選択は、彼らの現場やそこから生まれた経験にて行われている。この4人で作るという意味は、DJが3人とファティマという編成からしてそのあたりにあるのではないかと。彼らのバックグラウンドを覗けば、パーティを通した、さまざまなカルチャーとの結びつきがある。そう、彼らは、ポスト・インターネットのその先の、現場から生まれた、ある意味でDJカルチャーらしいグループである。そうしたことを体現しているアルバムだ。

文:河村祐介

グライムを共通項に持つ4人だからこそ生み出せた
その枠組みを当たり前のように取っ払ったサウンド

グライム、というのが、フューチャー・ブラウンを構成する4人(ファティマ・アル・カディリ、イングズングズのアスマとダニエル、Jクッシュ)を音楽性からとらえた場合、その共通項のひとつとして思い浮かぶかもしれない。補足しておくなら、Jクッシュは、ジューク/フットワーク・レーベルとして名高い〈リット・シティ・トラックス〉の創設者だが、ファティマは、彼を“グライムの生き字引”と評していて、自作『エイジアティッシュ』をリリースした際、そのサウンドが、いわゆるシノグライムっぽくないか、という指摘を受けた時に、シノグライムを知らなかった彼女はJクッシュに確認し、追加情報を得た、という逸話もあるという。

実際、本作では、一部でシノグライムと呼ばれた、その所以となった(サウンドの)曲を出したこともある、UKグライムのベテラン、ラフ・スクワッドのプリンス・ラピッドとダーティ・デンジャーをフィーチャーした曲が、本編に一曲あるのに加えて、ボーナス・トラックとして、もう一曲入っていて、後者“ワールズ・マイン”は、ビート、リリック、双方でストレートなグライム讃歌となっている。そこには、彼女/彼ら4人の思い入れも含まれているかもしれないが、その一方で、前者の“アスベストス”のトラックは、イングズングズ(としてだけでなく、それぞれのソロ名義作)やファティマが発表してきた、ゴシックあるいはアジアン・テイストを含んだインストゥルメンタル・グライムを、あらためてビートとして捉え直して、UKグライムの面々に提供したように聴こえるし、ロール・ディープのリコ・ダンをフィーチャーした“スペング”も同様だ。

フューチャー・ブラウンとしては、あくまでも、自分たちが一緒に演りたい“アーティストのため”に曲を作っている、というスタンスなのだという。UKグライム本家の面々が出てくるのは、上に挙げた3曲だけにとどめ、アルバムの4分の3を占めるその他の収録曲は、むしろ“発想がグライム”だからこそ、ユニークなサウンドが生まれているとも言える。4人とも現在はアメリカを本拠地としているので、フューチャー・ブラウンの音楽は、アメリカ発信のグライムなのかと言われれば、発信場所そのものはあまり関係ないように思える。4曲目と5曲目は、打ち込まれているリズムそのものは、明らかに、デンボー(レゲトンの祖型で、一部で再注目されている)あるいはレゲトンであるのに、音色はゴシックな冷たさみたいなものを感じさせるグライムの、あるいは、ファティマが『エイジアティッシュ』で聴かせたそれに近く、特に、後者などは、イントロの音階込みで、どこか筝曲を思わせるところもあり、アウトロには日本語が聴こえてくる。これは、とりあえずファティマの趣味と想像することもできるが、イングズングズは、かつて自分たちの曲で、明らかにレゲトン~ムンバトンを意識した曲を演っていたのと、シリーズ化された(DJ)ミックスでは、ムンバトン~ズークベースにいち早く注目したものもあり、そういった彼女/彼たちの曲作り以外での表現活動がうまく集約されている(UKのマーロあたりも、重なる面がある)。DJとしてなら、イングズングズもJクッシュも、数年目から上にあげたような様々なジャンルの枠などは、当たり前のように取っ払ったパーティを主宰してきたのだから、こうした試みの実践は今回が初めてだとしても、確実に要領は得ていたはずだ。

本作全体を見渡すと、結果的にそうなったとはいえ、シカゴのヒップホップ・アーティストが多くフィーチャーされているのが、目につく。例えば、3曲目のシッコ・モブはシカゴ・バップ、8曲目のジョニー・メイ・キャッシュ、YB、キング・レルはシカゴ・ドリル、と“分類”されてしまうことが多いが、ここでは、そういったこととは切り離し、彼らの(かなり歌寄りの)フロウの面白さを活かすべく、グライムでもなければ、彼らのミックステープにあるようなものでもない、ユニークなビートに落とし込んでいる。アルバムの最初と最後の曲にフィーチャーされている同じシカゴ出身のティンクは、ラッパーにしてシンガーでもあるわけで、“アーティストのため”の楽曲作りというスタンスを明確に打ち出しているとはいえ、フューチャー・ブラウンは、フィーチャリングの人選の段階で、自分たちのビートセンスを十二分に活かせるような相手(の才能)をしっかり見極めていたことになる(当然のことなのかもしれないが)。

そういった意味で、このアルバムは、かりに“発想がグライム”だとしても、グライム以外のサウンドにも慣れ親しんでいるフューチャー・ブラウンの4人だからこそ、まとめあげられた作品ではないだろうか。ちなみに、グライムとヒップホップのかけあわせは、登場してきたころのシンジン・ホークなども積極的に取り組み、数々のコラボを経て、今やカニエ・ウエストの曲作りにも参加しているが、このフューチャー・ブラウンという引き出しの多すぎるプロジェクトは、今後どのような展開を見せてゆくのだろうか。

文:小林雅明

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