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EL PINTOR Interpol (Hostess) by MARIKO SAKAMOTO
JUNNOSUKE AMAI
October 06, 2014
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EL PINTOR

身の丈を受け入れること、それも成長

4年ぶりの新作――とは言っても1st『ターン・オン・ザ・ブライト・ライト』の10周年記念再発、サイド・プロジェクトと周辺の話題には事欠かず、さほどブランク感はない。しかし前作リリースに伴いカルロスDが脱退、トリオ編成にスリム・ダウンしての第一弾作という点に注目が集まるためか、本作に「新章の始まり」を付するクリティックやファンは多い。インターポールに対する個人的な不思議感を加速させる要素に「ベーシストが一番カリスマティックな珍しいバンド」(:他にマニックスくらいしか思い浮かばない)という点があったが、①ツアーに関してはサポート・メンバーでパッチ、②スタジオではポール・バンクスがベースを兼任……と、すんなり移行している。同時に、本作向けのメディア・トークに「新章」の反対に当たる「原点回帰」のフレーズもよく目にするのは面白い。なるほどジャケットの色設計は初期2作を思わせる黒/赤/白で、古株ファンには嬉しいだろう。バンド名を組み替えたアナグラムのタイトルにしても――前作4thがセルフ・タイトルだったことを思うと「やる気ないんとちゃう?」との疑念もかすかに浮かぶが――「一見違うものの、本質は変わらない」とのニュアンス/意思表示かもしれない。

その意思表示は、澄んだリフを優雅に吹き流すイントロからモーター・ベースがテンポを蹴り上げ、例のリヴァーブ×高音ギターが「これでもか」と滑走する勢いに満ちた1曲目からもうかがえる。地力は確かなバンドなので、毎作聴きどころはちゃんとある。が、たとえば前作はスタジオでの実験/加工やハーモニー他のアレンジに凝り過ぎで聴いていて息が詰まりそうになることも。言い換えれば動きに欠ける作品だったわけで、本作での彼らはよりバンド的なダイナミズムを演奏に取り戻すと共に楽曲の「歌」としての魅力を強化している。優れたリズム隊と個性的なギター・サウンドという強力な武器を持つからだろう、インターポールはヴォーカルを音の下地のひとつとして扱うことが多い。が、ここでは頭よりもハートに響くメロディの引きとカタルシスが重視されていて、基本的に無表情なヴォーカルであるポール・バンクスも一瞬ボン・イヴェールを思わせるファルセット歌唱他で随所に変化をもたせている。全体に起伏やメリハリに富む、「始まり」と「終わり」の起承転結感覚を備えた古典的なアルバム作りに戻った印象だ。

また、ネオ・スタジアム・ロックを目指した? との邪推すら抱かされた――メジャー移籍作であり、インターポールが露払いした地平に登場したフランツ・フェルディナンドやキラーズばりのサクセス=「次のステップ」を狙う誘惑は大きかったのだろう――3rd『アワ・ラヴ~』の無闇にメジャーでマッチョ、しかし分離は悪くダンゴ状態~耳が痛くなる音作りのチグハグさも修正されている(それでも、アラン・モルダーの洪水を思わせるミックスは「コンプかけ過ぎ」と感じる場面もあるが)。彼らの影響としてしょっちゅう指摘されるジョイ・ディヴィジョン=ポスト・パンク勢(個人的にはむしろザ・カメレオンズやキッチンズ・オブ・ディスティンクションといった80年代中期英ネオ・サイケと、シューゲイザーがこのバンドのDNAだと思うが)の多くは、今聴くと妙にスカスカな音だったりする。その空間に対する発想/空洞性がポスト・パンクの発見であり魅力とはいえ、騒音だらけの00年代にロック・バンドがそのまま同じことをやっても通じるわけがない。

ゆえにインターポールは音の層を重ね、力こぶを増し、アイデアをてんこ盛るウォール・オブ・サウンドに向かったのだろうが、そのぶん近年の作品はニュアンスや音の存在感を見失いがちだった。その意味で、ヴォリューム志向ではなくアップリフティングなロック・バンドとしての本質を筋トレで奪回した本作は10年後にはじき出された2nd『アンティックス』に続く一手ではないかと。インターポールのようにデビュー時のインパクトが大きかったアクト(例:『ターン・オン・ザ・ブライト・ライト』はウィルコ、ベック、フレーミング・リップスらの名作を抑えてピッチフォークの2002年ベスト・アルバム選で最高位)は、どうがんばってもその後遺症を引きずるもの。しかしバンドのアイデンティティと意図とを再確認した本作に、彼らがウォークメンやナショナル、TVオン・ザ・レディオといったほぼ同期生~「ゴッサム・シティ」としての現代NYCの夜景にポスト・パンク~ゴシックの音像を夢見たアクト達と同じメンタリティ=本領に立ち返った手応えを感じる。

この作品をきっかけに聴き手が急増する……という性質のアルバムではない。しかし、自らの長所と良さ、基礎体力とを見直し把握しそこにフォーカスしてみせたこのアルバムは、彼らが外から押し付けられた規格=アリーナだのスタジアムを埋めることがロックにおけるサクセス、という発想から抜け出してくれたのを感じさせる。そんなのスケール小さいじゃん、つまんない! という意見も分かる。でも、その成長を見守り、好きでフォローしてきたアクトを、あなたは本気でスタジアムみたいに味気なく、滅菌され、双眼鏡を使わないとメンバーの表情すら見えないような場所で観たいですか? そういうスペクタクルな「打ち上げ花火」が似合うアクトもいるとはいえ――(良い意味でも悪い意味でも)情念が濃くエモーショナルな執着を導くインターポールの音楽とバンドとしての性質は、水増しせずに膾炙するのには限界がある。その、自らに内在するパラドックスを受け入れたことは今後の彼らにとってプラスに働くと思う。

文:坂本麻里子

趨勢の激しいニューヨークで、されど舞台の中央に居座り続ける
10余年選手の、堅実すぎるプログレスを刻んだ最新作

2010年の前作『インターポール』から4年。リリースの期間がこれだけ空いた背景には、ソロ・アルバムを発表したポール・バンクスを始めメンバーが個々の活動に精を出していたというのもあるが、既報の通り、ベーシストのカルロス・デングラーの脱退が大きく作用していたことは言うまでもない。その後のツアーではスリントのデヴィッド・パポが一時サポートを務め、あるいは、あのピーター・フックが代替のベーシストとして名乗りを上げたことも報じられたが、結局、バンドはメンバーを補充することなく、3人だけで5作目となる本作『エル・ピントール』を制作することを選択。脱退の経緯について3人は多くを語らないが、レコーディングではデングラーの代わりにバンクスがベースを弾き、ケスラーがキーボードを弾くなど、伝え聞く制作過程からはバンドの試行錯誤の様子も窺えた。

バンドの結成メンバーであり、ギタリストのダニエル・ケスラーと共にソングライティングにおける重要な役割を担っていたデングラーである。ましてや、ベーシストというリズム隊の一翼が欠けることは、それなりの抜本的な部分で変更や改築がバンドに迫られたとしてもおかしくない。

もっとも、ニュー・ウェイヴやポスト・パンクのリヴァイヴァルを受けて2000年代初頭に登場した――例の徒花コンピ『イエス・ニューヨーク』に一緒に収録されたニューヨークの同期組の中でも、インターポールはいわゆるダンサブルなタイプのバンドではなかった。が、たとえば本作の“マイ・デザイア”や“セイム・タウン、ニュー・ストーリー”のリズム/ビートに感じられるディスコ・フィールは、近作の重厚に練り上げられたストラクチャーにはない抜けの良さ、ポップネスを伝えてくれる。そういえば、バンクスは昨年、ヒップホップのミックス・テープを唐突にリリースし、またウータン・クランのRZAとのコラボの計画も報じられたりしたが、そうしたリズム隊の一翼を新たに担った男の近況が、本作に影響をもたらした部分もあったのだろうか。あるいは、“オール・ザ・レイジ・バック・ホーム”の躍動感あふれるバンド・アンサンブルは、デビュー作『ターン・オン・ザ・ブライト・ライト』――それこそ“PDA”や“オブスタクル・ワン”といった彼らのクラシックスも彷彿させるかもしれない。

一方、アルバム終盤のハイライトを飾る“アンシェント・ウェイズ”のサイケデリックなスペース・ロック、“トゥワイス・アズ・ハード”のピアノやストリングスを交えたオーケストラルなサウンドスケープは、編成の縮小を余儀なくされど音のレイヤーや演奏のスケールを目減りさせることなく、過去4枚のアルバムで築き上げたもののその先へとバンドを推し進めようとする気概を確かに窺わせる。たとえば、そうしたプログレスの遠因としては、リズム隊のもう一翼であるドラマーのサム・フォガリノが、ジーザス・リザードのデュアン・デニソンとシークレット・マシーンズのブランドン・カーティスと結成したハード・ロック・バンド、エンプティ・マンションズの活動を挙げることもできるかもしれない。また、音響的な奥行きを増したプロダクションからは、ケスラーがビッグ・ノーブル名義で披露するアンビエント~サウンド・アート的なアプローチの反響も聴き取ることができるだろうか。それこそ2000年代の初頭に、音楽性を共有し共にキャリアを嘱望されたウォークメンやカラといったバンドの多くが現在、芳しくない状況に置かれていることを考えると、とりわけ変化の潮流が著しいニューヨークのシーンからすれば、もはや古風な佇まいにさえ映る彼らのようなバンドが、それでも彼の地のど真ん中に居座り続けているという事実は、なんだかとても頼もしいことに思えてくる。

『エル・ピントール』という本作のタイトルは、インターポールのスペルのアナグラムだと言われている。ちなみに、前作はセルフ・タイトルで、当時のインタヴューでケスラーは『インターポール』について「return to form」と語っていたらしい。ならば本作は、そのバンドの「form」をバラし、新たに再構築した作品なのだろうか。仮にだとするならば、そこまでの新味に欠ける感は否めないものの、いずれにせよ、初めて3人で作られた本作が、これまでのディスコグラフィと並べても遜色のない出来の作品であることは間違いない。

文:天井潤之介

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