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SHORT MOVIE Laura Marling (Hostess) by YUYA SHIMIZU
MARI HAGIHARA
March 30, 2015
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SHORT MOVIE

アメリカで名前を忘れたひとりの女性が
それを思い出すまでのロード・ムーヴィ

「僕は砂漠をずっと旅してきた/名前のない馬に乗って/雨に当たらないってのは気持ちがいい/砂漠では自分の名前を覚えていられるよ/誰もきみを苦しめたりしないから/」(アメリカ“名前のない馬”)

髪を短く切った女性に対して失恋でもしたのかと勘繰るのは、失礼にあたるのかもしれない。しかし相手がローラ・マーリングとなると話は別だ。というのも、英マーキュリー・プライズにもノミネートされた彼女の前作『ワンス・アイ・ワズ・アン・イーグル』の収録曲の多くは、恋人だったマムフォード・アンド・サンズのマーカス・マムフォードへのあてつけとして書かれたものだったからだ。しかし当の本人は、「髪を切ったのは何かの決意の表れではない」と否定している。なんでも彼女は人生の7年周期説を信じていて、7年前にも同じ髪型にしていたことがあるのだとか。7年前と言えば、彼女がまだミュージシャンとしてのキャリアをスタートさせたばかりで、ノア・アンド・ザ・ホエールのメンバーでもあった18歳の頃。というわけで、かのグリン・ジョンズの息子であり、長年のコラボレーターだったイーサン・ジョンズのもとを離れ、初めてセルフ・プロデュースに挑んだ本作を、彼女なりの再出発と位置づけることもあながち間違いではないだろう。

そういえばキャット・パワーことショーン・マーシャルも、シンセサイザーを導入した2012年のアルバム『サン』でロング・ヘアーをバッサリと切って話題になったことがあったが、エレクトリック・ギターの導入という新機軸はあるにせよ、本作ではあくまでもアコースティック・ギターの代用品としての役割に留まっていて、音楽的にはそれほどドラスティックな変化があるわけではない。それこそ以前のキャット・パワーを思わせるような、シンプルなフォーク・ロック。にも関わらず、アルバム全体に張り詰めた緊張感が漂っていた前作とは対照的に、本作にはどこか自由で、開放的な空気が流れている。

前作のリリース後に、憧れのジョニ・ミッチェルの暮らすロサンゼルスへと移住したことは、やはり大きかったのだろう。アメリカ滞在中に彼女が夢中になっていたカリフォルニアのスピリチュアル・カルチャーや、映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーの自伝、そして半年間のひとり旅といった出来事は、本作にも確実に反映されている。

それを象徴するのが、歌詞に頻繁に登場する“アローン”というフレーズ。彼女によれば「ひとりでいること(アローン)と孤独であること(ロンリー)は違う」のだそうで、アメリカ中をひとりで旅していた時は、まったく孤独を感じたことはなかったという。ところがロサンゼルスへ戻ってきた彼女は、知り合いのいない都会での生活にふと心細さを感じ、結局家族や友人の待つイギリスへと帰国することになってしまったのだ。

わずか一年半という短いアメリカ滞在期間中に彼女が見つめ直した「自由」と「孤独」は、アルバムの一曲目を飾る“ウォーリアー”にも端的に表れている。ここでは彼女と同じロンドン出身で、「アメリカ」という名前のフォーク・ロック・グループのヒット曲“名前のない馬”のタイトルが引用されているのだが、歌の中で野生の馬になった彼女は、背中に跨がる男を振り落とし、一目散に駆け出していくのだ。そこから先は、都会で迷子になってしまった彼女が、アメリカの大自然を通じて自分の名前──自分が何者なのかを思い出すまでの、ドキュメンタリーだと言えるのかもしれない。

「自分を何者だと思っているの?/ギターが弾ける、ただの女の子じゃない」(“ショート・ムーヴィ”)

たったひとりで生きることで、はじめて孤独を知ったローラ・マーリング。けれども手綱をほどかれた今の彼女は、前よりもずっと自由だ。

文:清水祐也

すぐ過ぎていく時=「ショート・ファッキン・ムーヴィ」の中で続く、
25歳の女性によるフォーク・ミュージックという自己探求

ソウル・サーチングするからフォークを選ぶのか、それともフォークという音楽がシリアスに自己に向き合わせるのか――そんな、考えてもしようがないことをふと考えてしまうほど、ローラ・マーリングの音楽は心のうちを歌い、疑問を呈し、自己探求するフォーク・シンガーのイメージそのままです。特に「女性であること」をストイックに突き詰めていた前作『ワンス・アイ・ワズ・ア・イーグル』は、ギターと歌を中心にしたミニマルなアプローチといい、関係性を熟考する内容といい、まるで糸をピンと張ったような緊張を持っていました。

それに比べると曲調もサウンドも多様になり、ぐっとリラックスしているのが5枚目となるアルバム『ショート・ムーヴィ』です。とはいえソウル・サーチングは決して終わったわけではなく、〈ガーディアン〉紙によるとローラ・マーリングはシルヴァーレイクに移り、ひとりでアメリカを何ヶ月も旅し、アレハンドロ・ホドロフスキーに心酔し、ハイになってタロットを学んでいたとか。神秘主義に触れるのは最近ではコナー・オバーストもスフィアン・スティーヴンスもそうですが、ソロ・アーティストの自己探求の一過程。曲タイトルにも“グルジェフの娘”だとか“吠える”だとか、それらしい影響が見て取れるのですが、歌詞でひとつ気になったのが恋愛というテーマの変化。ローラの歌では恋愛は甘いものではなく、むしろ「自分であること」と拮抗するもの、自由を阻むものだったりします。『ワンス・アイ・ワズ・ア・イーグル』では「私はロマンスの犠牲にはならない」と言い放っていたほど。でもその厳しさから一転、今作ではどこか軽さと、ユーモアまで感じられる。勿論、まとわりつく相手の愛情を電流が流れる柵にたとえたり(“アイ・フィール・ユア・ラブ”)、「恋ってちょっとした詐欺みたい/恋愛のほうが私をわかってくれない」(“ドント・レット・ミー・ブリング・ダウン)と歌いもしているのですが、なかにはよくあるラブソングに聞こえる曲もある。「あなたなしでどう生きればいいの?」と繰り返す“ハウ・キャン・アイ?”や「私は愛するために生まれてきた」と歌う“ウォーク・アローン”など、額面通りには聴かず別の意味を探ってみたくなります。彼女にとっては恋も幸せもそのまま受け入れられるものではなく、悩み傷つきながら意味を見つけ、ひとり貫くしかないもののはずだから。だからこそ、その言葉と歌に人は孤独なる魂、「フォーク」を感じるのだと思います。

それにしても聴いていて思うのは、人にものを考えさせ大人にするのは、たくさん恋愛することよりも、経験を積むことよりも、きっと孤独な時間をどれだけ持つかによるんだろうな、ということ。そう考えると、四六時中かりそめの繋がりを持たせるSNSなど将来どういう意味を持つのだろうと、また考えても仕方がないことを考えてしまうのです。

文:萩原麻理

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