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REALITY TESTING Lone (Beat) by YOSHIHARU KOBAYASHI
YUSUKE KAWAMURA
June 20, 2014
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REALITY TESTING

根っからの夢想家が、独自の音楽的な発展の末に
辿り着いた、そのキャリアにおけるひとつの高み

ノッティンガム出身マンチェスター在住、名門〈R&S〉所属のローンことマット・カッターの魅力は、何よりもその甘美な逃避主義にある。ボーズ・オブ・カナダの遺伝子が息づいたドリーミーなヒップホップ/IDMの『エクスタシー&フレンズ』で2009年に頭角を現し、続く『エメラルド・ファンタジー・トラックス』ではデトロイト・テクノへと接近、そして前作にあたる『ギャラクシー・ガーデン』ではレイヴ・ミュージックへの憧憬を滲ませていたが、どこまでも甘ったるく、夢見心地な感覚だけはいつまでも変わらない。音楽的には一ヶ所に留まり続けることを嫌うローンだが、彼のサウンドはいつも夢の世界でファンタジックに鳴り響いている。それは無論、最新作の『リアリティ・テスティング』でも同じだ。

アルバムの8曲目、メロディックで幻想的なシンセが美しい“ビギン・トゥ・ビギン”では、「私は夢を見ているのか?目覚めているのか?」というフレーズのサンプリングが象徴的に使われている。そして、冒頭の“レストレス・シティ”に挿入されているのは、忙しない都市の喧騒をフィールド・レコーディングしたようなサウンドだ。そもそもリアリティ・テスティングとは、明晰夢の中で自分がどれだけ物事を意識出来ているかをチェックすることを意味する言葉。つまり本作は、現実から完全に切り離されているわけでもなく、かと言って夢から覚めたわけでもない、夢と現実の境界が曖昧になってしまっているようなイメージなのだろう。この世界観は、シンプルに夢の中へと埋没していた従来の作品と較べると、よりミステリアスで魅惑的である。ある意味、彼の「夢」というアイデアへのアディクションは更に強まっている。

音楽的には、デトロイト・テクノの影響が強い情緒的なシンセを多用したBPM120台のダンス・トラックと、『エクスタシー&フレンズ』期を髣髴とさせるBPM90前後のヒップホップ・トラックが半々。それらがほぼ交互に並んでいるが、決してチグハグな印象を与えないのは、彼のトラックメイカーとしての確かな才能ゆえだろう。前作のようにアッパーでカラフルではないので、最初はやや地味になった印象も与えるが、実際そのサウンドは洗練度を増している。これまでに挑戦してきた様々なサウンドを集大成しているという点では『ギャラクシー・ガーデン』の延長線上ながらも、ここではそれを完全にオリジナルなスタイルへと昇華したという印象だ。彼の最大の魅力である恍惚とした美しさを手放さぬまま、独自の音楽的な発展を極めた本作は、ローンが6作目にして辿り着いたひとつの高みだと言える。

文:小林祥晴

2010年代の〈R&S〉を象徴する
欧州ダウンテンポの新たなフェイズ

“ドープ”ではなく“ポップ”へ。本作を包む“ポップ”な感覚は、ここ最近のクラブ・ミュージックのカテゴリーのなかでは、ライトな質感が前面に出ている珍しいケースと言えるのではないだろうか。前作にあたる『ギャラクシー・ガーデン』よりもテクノやハウス、ベース・ミュージックといったビートが後退したことで本作が獲得したのは、ラウンジーなダウンテンポの感覚だ。

ここ数年でテクノやハウス、そしてベース・ミュージックを除いた、いわゆるクラブ系のダウンテンポ――ヒップホップ的感性を持ったビートを中心にしたチルアウトなビート――の中心はご存知のように、LAビート・ミュージックの影響下にあるものが主流だ。J・ディラを開祖に、フライング・ロータスが鮮明にしたスタイルである。本作もそうしたビート感覚が間違い無く息づいている。キーボード、ベースやビートの“タメ”が特長的なグルーヴを作り出すスタイル。この動きからは、いくつもの枝葉となるサウンドが生まれているのは周知の事実だろう。例えばこれをジャズへと傾けたロバート・グラスパー一派の活躍。そこにマウント・キンビーあたりを始祖とするポスト・ダブステップ~ベース・ミュージックのチルアウト・ヴァージョンが流入している場合もある。アクトレスやブリストルのヤング・エコー、またはFKAトィグスのような、ダーク&インダストリルなアブストラクト・ブレイクビーツ的な展開というのも新たな潮流としてはある。LAビートをひとつの始祖として、さまざまな“ダウンテンポ”が点在していると言えるだろう。

こうした動きのなかでローンを捉えると、やはりそのビート感にはLAビートやベース・ミュージックの系譜を感じることができる。と同時に、本作を貫くレトロ・フューチャーなコズミック・ヴィジョンに、そしてそのポップな口当たりには新たなダウンテンポの流れを感じすにはいられない。享楽的な雰囲気もあるが、それはバリアリック系の開放感とも違った、内側のコスモロジーへと広がる、どこかラウンジーでディフォルメされたコズミック・ファンク。そしてとにかくライトでポップというところがポイントだ。

どこか1990年代末に華開いたイージー・リスニング~ラウンジ・サウンドを思い起こしてしまう、この雰囲気。初期のエール、もしくはルーク・ヴァイバートやμ-Ziq、ジェントル・ピープルなどの〈リフレックス〉一派のラウンジーなダウンテンポの動きだ。本作はこうした感覚を新たなビート・サウンドとともにリモデルしたとも言えるのではないだろうか。『ele-king』の最新インタヴューによれば、ルーク・ヴァイバートをフェイヴァリットの一人に挙げているが、本作と合わせて、なるほどと思ってしまった。こうしたラウンジーなダウンテンポと言えば、まぁ、まさにルークの独壇場といったところだからだ。

ただ実際のところ、本作のようなサウンドは、ポスト・ダブステップやビート・ミュージックの流れのなかでは、すでに萌芽していたものでもある。例えば、μ-Ziq主宰の〈Planet μ〉のオリオル『ナイト・アンド・デイ』やジャングルやジュークへと移行する前のアイタル・テックの『ミッドナイト・カラー』あたりがそうだ。本作はそれをより押し進めたものだと言える。こうしたポップかつラウンジ・テイストを持ったファンキーなダウンテンポは、ビート・ミュージックの流れとして新たな道を獲得していくのではないだろうか。本作にはそんな可能性に満ちている間口の広い作品なのかもしれない。

文:河村祐介

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