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IN CONFLICT Owen Pallett (Hostess) by MARIKO SAKAMOTO
JUNNOSUKE AMAI
June 06, 2014
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IN CONFLICT

地に足を着けたピーター・パン

アーケイド・ファイアの「名誉メンバー」として知られ、アカデミックな素養とクラシック音楽への造詣を活かしストリングスの編曲他でも活躍。先頃ウィル・バトラーとのコラボレーションによる映画サントラ『her/世界でひとつの彼女』でアカデミー賞にノミネートと、インディ界外にも認知を広げつつあるオーウェン・パレット。そんな彼にとって、ファイナル・ファンタジーから本名名義に切り替えての2ndアルバムとなるのが4年ぶりの本作だ。

パトリック・ウルフと双璧を成すとも言える典雅なチェンバー・ポップで注目を集めてきた人とはいえ、ヴァイオリンをオーケストレイテッド・ループさせるスタイルはもとより、その感性は現代音楽~アヴァンギャルドにも伸びている。コンセプチュアルな連作歌曲集だった前作『ハートランド』でオーケストラとエレクトロニカをブレンドさせ、エモーション/サウンド両面で情報量の多い圧巻の絵巻――たとえて言えば3Dのゴブラン織り――を実現させることができたのも、そんな彼のユニークな資質ゆえだろう。

冒頭から弦のわななきが滑走する本作においても「クラシックとモダンの出会い」という基本のフォーカスは揺らいでおらず、オペラを思わせる隆起にうっとりさせられる。しかしその1曲目の中盤でトレヴァー・ホーンの〈ZTT〉仕事を思わせるゲーテッド・リヴァーブ味のドラム・ビートが振り下ろされ、ピアノの導入によりトーンは一気に弦から打楽器へ変化。以降もシンセやエレクトロニカの話法、ドラムス&ベースのロック的要素(古い仲であるバンド:レ・ムッシュが参加)を過去以上にフィーチャーしたフレッシュなサウンド・スケープが展開し、タイトル曲②のメビウス/ロデリウス型グルーヴ、ソロ初期ビョークを彷彿させる③、④⑤のチャーミングなエレ・ポップ味、バロック・インダストリアル(?)とでも呼びたい⑩のダイナミズム等、エレクトリックとアコースティックとの比重が全体的に前者にシフトした内容になっている。このアルバム発表の少し前にダフニ(AKAカリブー)とのコラボ・シングルもあったが、今のオーウェンのアンテナはオーケストラ・ボックスよりもフロアに向かっているようだ。

――と書くと、「マシーンの機能性/冷たさに寄った作品?」との印象を与えるかもしれない。だが面白いことに、冷たいどころか結果的に本作は彼のこれまでの作品よりも流動的かつ多彩で、知性に抑制されない本能を伝えてくる。管弦楽の力強い美は、緻密な構成と音の重なりから生まれる。たとえば前作のミックスをアニマル・コレクティヴで知られるラスティ・サントスが手がけたのも、多数のエレメントを周到にレイヤーし構築するというオケ的発想があったからだと思う。対する本作は、シンセのリフやドラム・ビート、あるいは歌メロディといった支柱を楽曲ごとに絞り込み、ストリングスをむしろアクセント的に配するアプローチ。そこに開けた空間は一種の不安定感(スリルと言ってもいい)をもたらすし、こちらの「快楽原則」をスイッと肩すかしする意外なメロディのポケットも含め、完璧を目指した芸術品というよりも人間の作った有機的な音楽と自分の耳には響く。

それは「葛藤」あるいは「対立」をタイトルに持つ本作のテーマとも関わっているのだろう。ファイナル・ファンタジーの『ヒー・プーズ・クラウズ』でビデオ・ゲームを引用し、『ハートランド』は14世紀の架空の国を舞台にした物語ベースの作品……といった具合に、これまでのオーウェンはフィクションのとばりを張る傾向があった(よく聴けばそれらのキャラ/語り手が彼のバリエーションであると察しはつくが)。しかし本作には子供時代のヴィジョンや青年期の思い出、トロントへの切ない思い、『ザ・クィーン・イズ・デッド』を恋人と聴く情景、子供のいる家庭といった「幸福の図」を描きにくい30代の男性ゲイ・アーティストの苦悩、更には本人の電話番号(!)まで、よりパーソナルで心に刺さる言葉が綴られている。

かといって安易に「告白録」として聴くつもりはない。しかし①で「僕はもう怖くない/僕達はこれ以上真実に恐れおのかない」と歌われるように、若さと老い、アートとコマース、放蕩と自制、ジェンダー・イシューといった幅広い(かつ普遍的な)「葛藤/衝突」のモチーフから浮かび上がるのは、白黒つかない混沌を抱える自身を恥じることなく率直にさらけ出せる強さを手にし、その上で衝突というインスピレーションを言葉だけではなく音楽――エレクトロとクラシック、前衛とポップ、ハーモニックな調和と無調、ノイズと清音etc――そのものの中に雄弁かつ知的に表現できるソングライターの姿だ。華麗な音楽性も含めどこか「メルヘンの中の王子」という印象のあったこの人だが、本作は多くの意味で「ボーイ」から「マン」への脱皮を記す1枚だと思う。

文:坂本麻里子

非凡なるソリストが、「オーウェン・パレット」の
新たなコレクティヴ像を提示した最新作

ユーチューブで見かけるオーウェン・パレットのライヴはたいていがパレットのソロ・パフォーマンスだ。オーウェン・パレットはいわゆるソロ・プロジェクトだが、前身のファイナル・ファンタジー名義を含めてその作品にはパレット以外にさまざまなミュージシャンが参加している。しかし、ステージ上のパレットはひとり、鍵盤の前でヴァイオリンを構え、あとは細々と機材をいじりサンプルやループを重ねながらあの複雑に構築された楽曲の実演に挑んでいるようだ。2年前の来日公演はフル・バンドによるセットだったと聞くが、クラシックや室内楽とも比せられるアンサンブルをパーマネントではない編成がその都度生演奏で再現し続けることのハードルを考えれば、コントロールが可能なソロ・パフォーマンスに頻度が偏りかねないことも腑に落ちる。ともあれ、たとえば始まりはエド・ドロステのソロ・プロジェクトだったが作品を提げてライヴをする必要からバンドへと再編されたグリズリー・ベアのような例がある一方、基本ソロ・プロジェクトながらレコーディングの編成となるべく忠実な形でライヴ・パフォーマンスを試みるようなスフィアン・スティーヴンスやベイルートとも異なり、パレットならではのスタンスがそこに窺えるようで興味深い。もっとも、アーケイド・ファイアへの帯同を始め誰かと共にする場面が多いパレットにとって、オーウェン・パレットだけがほとんど唯一自由と融通の利く活動なのだろう。

パレットが事前に語ったところによれば、4年ぶりのアルバムとなる本作『イン・コンフリクト』の出発点は、前作『ハートランド』のツアー後に行われたライヴだったという。それも、パレットがキャリアの初期に結成したトリオ、レ・ムッシュのメンバー(※内ひとりのマット・スミスは『ハートランド』の制作にも参加)を迎えたバンド・セットの演奏に触発され、その流れから本作の楽曲は生まれたそうだ。つまり、ソロ・パフォーマンスではサンプルで代用されたベースやドラムを実際の楽器と入れ替え、あるいは元のループと生演奏を組み合わせることで、『ハートランド』の楽曲を再現ではなく再構築する。その過程でパレットが、「演奏」や「アンサンブル」というものに対してあらためて大きな気づきを得たであろうことは想像に容易い。そのエピソードは、それこそ『オディレイ』後のベックがビッグ・バンドを率いたツアーに乗り出しやがて『ミッドナイト・ヴァルチャーズ』におけるファンク・オーケストラへと至った軌跡も思い起こさせて期待を煽り、実際、『イン・コンフリクト』はそうした飛躍の端緒となるような予感に満ちた作品と断言しても構わない、かもしれない。

『イン・コンフリクト』の制作工程自体は『ハートランド』と変わらないという。しかし、シルヴァー・アップルズやオーケストラル・マヌーヴァス・イン・ザ・ダークの参照も公言するなど大胆なエレクトロニクスの導入が打ち出された『ハートランド』から、徐々にグラデーションを深めるように本作はその新たな世界の扉を開け広げていく。

シンセのアルペジオが強力なドライヴを見せる“ソング・フォー・ファイヴ&シックス”が象徴的だが、ノイ!も彷彿させるモータリックなリズムとレトリカルなクラシック風のアレンジが対照的に響き合うアルバム前半部は、むしろ『ハートランド』との連続性を印象づけるかもしれない。分厚いブラス・セクションにメカニカルなビートが映える、どこかダーク・アンビエントな装いの“コーラル”は、まさにそうした対比する作法の分水嶺的な楽曲と言えるだろうか。あるいは、“ザ・スカイ・ビハインド・ザ・フラッグ”はまるでニコ・ミューリーがストリングス・アレンジメントを施したレディオヘッド“モーニング・ベル”のようである。

一方、本作の契機となった「バンド演奏/アンサンブル」への気づきという点で括目すべきは、やはり終盤に置かれた“ザ・リヴァーブド”と“インファーナル・ファンタジー”だろう。トーンを変えながらループするヴァイオリンのリフと重厚なリズム・セクションを築き上げる前者、対してワンオートリックス・ポイント・ネヴァー“ボーリング・エンジェル”に重ねてパーカッシヴなポリリズムを試みるような後者と、その荒々しくも統率されたコンポジションが示す「合奏」としての錬成ぶりは目覚ましいものがある。とくに後者は、アーケイド・ファイアに同行したハイチでの体験からのフィードバックも窺わせてワイルドだ。そして何より、その2曲を含めアルバムの約半数の楽曲でサポート・プレーヤーを務めた前出の元レ・ムッシュのふたり、ベースのマット・スミスとドラムのロブ・ゴードンに大きな賛辞を送りたい。彼らの献身的な貢献が、ゲスト参加したブライアン・イーノの話題性にもしも隠れてしまったとしたら、あまりにやりきれない話ではないか。

以前にデイヴ・ロングストレスが『ビッテ・オルカ』について、ダーティ・プロジェクターズがツアー・バンドになった証のような作品、と話していたことを思い出す。ちなみに、ダーティ・プロジェクターズも始まりはロングストレスのソロ・プロジェクトだったわけだが、パレットにとって『イン・コンフリクト』も、もしかしたらそういう感覚に通じる作品なのかもしれない。アルバム・タイトルの「衝突・葛藤」という言葉は強すぎるかもしれないが、それでもパレットを含め関わる皆が互いに距離を詰め、個性を擦り合わせるようにしてオーウェン・パレットというコレクティヴの新たな成形を試みたのが本作、ということなのだろう。

文:天井潤之介

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