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G I R L Pharrell Williams (Sony) by YOSHIHARU KOBAYASHI
MASAAKI KOBAYASHI
March 17, 2014
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G I R L

再び時代の波に乗っている天才プロデューサーが
その勢いのまま世に放った、微塵の迷いもなき快作

2013年の二大メガ・ヒット、ダフト・パンク“ゲット・ラッキー”とロビン・シック“ブラード・ラインズ”の両方で重要な役割を果たしたキーパーソン。別の言い方をすれば、デヴィッド・ゲッタ以降のEDMを注入したR&B――ひたすら音圧が高く、中音域にぎっしりと音を詰め込んだようなサウンド――に対する魅力的なオルタナティヴをヒット・チャートに送り込んだ張本人の一人。ネプチューンズ/N.E.R.D.としてヒット曲を量産していたのも今は昔、近年は徐々に影が薄くなっていたことを否めないファレル・ウィリアムスは、2013年に劇的な復活を遂げた。それこそ“ゲット・ラッキー”の冒頭で歌われる一節、「不死鳥の伝説のように」。

これを見逃さなかったダフト・パンク最新作のリリース元でもある〈ソニーコロンビア〉は、ファレルにスポット契約でアルバムの制作を打診。それがかなりの好条件だったらしく、不発に終わった初のソロ・アルバム『イン・マイ・マインド』以来、裏方に徹していたファレルは実に8年ぶりに重い腰を上げたというわけだ。そのため、これは満を持してのソロ、ということではない。しかし、その経緯はどうあれ、『ガール』に詰め込まれた全10曲は(シークレット・トラックを含めると11曲)、ファレルが完全に復調し、再び勢いに乗っていることを告げている。その事実は揺るぎない。

何を差し置いてもまずは、『怪盗グルーのミニオン危機一発』のサントラでいち早く披露された“ハッピー”に尽きる。70年代ノーザン・ソウルのスマッシュ・ヒットであるヴェルヴェット・ハンマーの同名曲を下敷きにしたと思しきこのトラックは、“ゲット・ラッキー”~“ブラード・ラインズ”の流れを明確に継承した名曲。EDMと結合したR&Bに慣れた耳には極めて新鮮な、音数が少なくスカスカで、だからこそ最高にファンキーなダンス・チューンだ。レトロ・ソウルの復権――という言い方は大袈裟かもしれないが、この「ファレル三部作」とも言えるヒット曲群は、ジャスティン・ティンバーレイク『20/20 エクスペリエンス』とも共鳴をしているし、EDM内部からもアヴィーチーのように生音を積極的に取り入れる新たな展開を誘発したと捉えてもおかしくない(アヴィーチーのアルバムにはナイル・ロジャースがゲスト参加している)。

この『ガール』は、「ファレル三部作」で高まった期待を決して裏切らない。“ハンター”はフランツ・フェルディナンド“テイク・ミー・アウト”のリフ盗用疑惑が話題となった“キャント・リライ・オン・ユー”に通じるギター・ヘヴィなディスコ・ファンクで、ジャスティン・ティンバーレイクとのデュエットを披露する“ブランド・ニュー”は軽快なホーンを散りばめた黄金期マイケル・ジャクソン風味、そしてダフト・パンク参加の“ガスト・オブ・ウインド”はロボ声コーラスとナイル・ロジャース的なカッティング・ギターをフィーチャーしている。一方、“ガッシュ”や“イット・ガール”はネプチューンズ時代を髣髴とさせるサウンドと言っても過言ではないし、“カム・ゲット・イット・バエ”に至っては“ブラード・ラインズ”と往年のネプチューンズ・サウンドのハイブリッドだ。つまり、このアルバムには、ファレルが最も得意とするサウンドと近年編み出した新機軸の理想的な結合がある。

「既発曲のセルフ・パロディばかりで、新しさがない」という少なからず見受けられる本作への批判は、決して的外れではない。アルバムの制作経緯から推測するに、十分な準備期間を設けていないことの影響は少なからずあるだろう。だが、そんな些細なことはどうでもいい。そう思わせるだけの勢いとエネルギーが本作には宿っている。まさに“ハッピー”が好例だが、雲ひとつない青空に舞い上がっていくような爽快感と楽天性、すぐそこに楽しいことが待っている時の胸躍る感覚、そして内側から溢れ出す自信が可能にする迷いのなさが、全編に渡って充満しているのだ。完全に波に乗ったファレルにとって、間違いなく今は第二の全盛期。『ガール』はそれを如実に証明している。

文:小林祥晴

一定以上の共通の志向性を持ったアーティスト達による、
感覚の「相互乗り入れ」を思わせる作品

ダフト・パンクがナイル・ロジャースに最初に共演を打診したのは、2010年の『トロン:レガシー』のサントラ制作に入る前だったという。一方、そのナイル・ロジャースに大きな影響を受けて(と公言している)、2012年に本作収録曲の制作に取り掛かっていた頃、ファレル・ウィリアムスは、ダフト・パンクにパリに招かれ、そこでいきなり『ランダム・アクセス・メモリーズ』用の曲を聴かされ、ギクッとしたという。それはそうだろう。間違いなく偶然の一致とはいえ、例えば、本作の2曲目に入っている“ブランド・ニュー”でのギターのカッティングは、いかにもN・ロジャース風だし、このブギーなセンスは、ファレルがビヨンセのアルバムで手掛けた“ブロウ”を通じて既に予告されていたとも言える。

興味深いことに、その“ブランド・ニュー”を聞いていると、デュエットの相手であるジャスティン・ティンバーレイクごと、2013年の彼のアルバム『20/20 エクスペリエンス』収録の“レット・ザ・グルーヴ・ゲット・イン”に息づいていたセンス(ブルキナ・ファソのリズム+80年代マイケル・ジャクソン)が引きずりこまれてしまったように聞こえる。ちなみに、前述のファレル制作の“ブロウ”の曲作りにはジャスティン・ティンバーレイクも、また、共同プロデュースにはティンバランドが関わっているので、ここまで来ると、単なる偶然とは言い切れない、(感覚の)「相乗り」というか、「相互乗り入れ」によって、これらの楽曲が作られているということになる。ダフト・パンクが、なんだか判別しにくいようなコーラスで参加している(という)“ガスト・オブ・ウインド”はいつごろ作られた曲なのだろうか。

今思えば、ファレルもティンバランドも、どちらも今から約10年前に、R&B/ヒップホップ・サイドから本格的にポップ・ソング作りに参入したプロデューサーである。共に、一時期シーンの最前線から姿を消していたとはいえ、そこから約10年を経た2013年には、時に一体化さえ拒まずに、共にポップ・ソングをシーンのど真ん中に供給しているのだ。“ハッピー”を初めて耳にした時、モータウンというよりはノーザン・ソウルに通じるものを聴き取れたが、この曲が、ここまで大規模なヒットとなってくると、アウトキャストの“ヘイ・ヤ!”がそうだったように、音楽は好きだけど、流行歌や最先端の音は聞かないような層にまで訴えかける魅力が大きかったのだろう。“ヘイ・ヤ!”もまた、今から約10年前の大ヒット曲だ。

確かに、昨年、ファレルは、プロデュースと客演をこなしたロビン・シックの“ブラード・ラインズ”、さらに、フィーチャーされた“ゲット・ラッキー”や“ルーズ・ユアセルフ・トゥ・ダンス”と、関わった曲の特大ヒットが続いての、本作の登場となるわけだが、“ハッピー”と“ヘイ・ヤ!”の近似性込みで考えるなら、10年前のセンスをベースにしたままで、ポップ・ソング作りは、まだまだイケる、ということになるのかもしれないし、異なるアーティストが、ブギーだ、アフリカン・ビートだ、と、一定以上の、共通の志向性を持たせているようなポップ・アルバムを交代で出している、となると、10年前は、まだ、独自のサウンドやアイデアだけで勝負していたファレルやティンバランドにとっては、今のほうが仕事がやりやすくなっているのかもしれない。

そんな本作で、もっとも、耳を惹かれるのが、“ブランド・ニュー”と同じアフリカンな、とはいっても、南アフリカ起源の名曲“ライオンは寝ている”を思わせる、最後から3番目に収録されている“ロスト・クイーン”だ。『ビヨンセ』のDVDのほうにのみボーナス収録されていた“グロウン・ウーマン”では、ビートの変化でアフリカン・ウーマンとアフリカン・アメリカン・ウーマンをつないだうえで「成熟ぶり」が表現されていたが、ここでファレルが歌い崇める女性は人智を超越した存在なのかもしれないが、サウンドを聴けば、これまたアフリカン(・アメリカン)・ウーマンのことを歌っているのだと、思わずにはいられない。

が、ファレルは「ウーマン」という言い方はしない。本作のタイトルは『ガール』。しかも、ただのGirlではない。GとIとRとL、それぞれの字間に半角アキをとって、それぞれが、大文字だ。これは、GIRLを際立たるだけでなく、彼女たちにとって息苦しくないような世界を……というのは、評者特有の深読みかと思いきや、これこそが、ファレル自身が考えていた本作のタイトルのニュアンスだということが、今、インタヴューを読んでみて判明した!のだけれども、本作全体を通して聴いてみると、ダブル・ミーニングが仕掛けられている曲もあるとはいえ、基本的には、男女問わず性欲に素直であれ、という主張以上のものは、実はほとんど聞こえてこない。アルバムは、マリリン・モンローという名の曲で始まり、マイリー・サイラス、ジョジョと、ガール・アーティストがフィーチャーされている曲を経て、アリシア・キーズを伴った、最後から2番目の曲“ノウ・フー・ユー・アー”に至って、タイトルの意味するところが、Girlではなくて、あくまでもG I R Lであることが、ようやく思い出せるような作りになっている。そして、最後は、“イット・ガール”=「今話題のあのこ」でまとめている。

シークエンスという点では、本作での“ハッピー”の位置はこれでよかったと思うのだが、それでも、このアルバムでやや浮いていると聴こえるリスナーがいるなら、この曲初出の『怪盗グルーのミニオン危機一発髪』あるいは、その前の(“ブラード・ラインズ”に先がけ、ロビン・シックに提供した曲を含む)『怪盗グルーの月泥棒3D』の二本の映画のサントラでは、子供向けということで歌詞の「しばり」はあったのかもしれないが、意外にも、思いのほか、自由に曲を作っていたように聴こえたからかもしれない。ついでに言えば、本作でのアクセントとなっているストリングスについても、映画音楽仕事によって、さらに知見を深めたに違いない。

文:小林雅明

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