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THE BONES OF WHAT YOU BELIEVE Chvrches (Hostess) by AKIHIRO AOYAMA
YOSHIHARU KOBAYASHI
October 18, 2013
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THE BONES OF WHAT YOU BELIEVE

グラスゴーの3人組がセカンド・キャリアで掴んだ、
エレクトロ・ポップ全盛時代のど真ん中

今思えば、レディ・ガガが一気にスターダムを駆け上がっていった08~09年頃を起点として、巷には急速にエレクトロ・サウンドを身に纏ったポップ・ミュージックが溢れ返るようになった。チャートを席巻するポップ・スターからベッドルーム発の宅録ポップに至るまで、メジャー/インディの別を問わず、今やポップスの世界は80年代に勝るとも劣らないエレクトロ・ポップ全盛の時代を迎えていると言っていいだろう。ここに取り上げるグラスゴー出身の3人組もまた、いわゆる「エレクトロ・ポップ」を鳴らす新鋭の1つである。

昨年ネット上にアップした“ザ・マザー・ウィ・シェア”をきっかけに話題を集め、BBCサウンド・オブ・2013では第5位に選出されたチャーチズ。見目麗しい女性ヴォーカリスト、ローレン・メイベリーと、作曲・演奏からミキシングやプロダクションまでをこなすマルチ・インストゥルメンタリストのイアイン・クック、マーティン・ドハーティの3人が作り上げた本デビュー作『ザ・ボーンズ・オブ・ワット・ユー・ビリーヴ』は、今年リリースされた数えきれないほどのエレクトロ・ポップの中でも、最も理想的なバランスを持ったレコードと断言できる。多彩なbpmを柔軟に行き来する緻密なビート・プロダクション。チョップド・ヴォーカルやシンセサイザーが華やかに弾ける上音のマルチ・レイヤー。ほぼ全曲で主役としての存在感を示すローレンの清廉な歌声。デトロイト・ハウスを髣髴させるダンス・トラックから、デペッシュ・モードをはじめとする80年代のダークなニュー・ウェイヴ、ヒップホップ/R&Bを咀嚼したファットなブレイクビーツまで、テイストは実に多彩ながら、全てシングル・カット出来そうなほどに、とにかく曲が良い。

本作がどこか新人離れした完成度を誇る一因は、ユニークな彼らの経歴の中にも見出せるだろう。元々エアーエオグラムなどのバンドでキャリアを重ねてきたイアイン、トワイライト・サッドのバックでキーボードを演奏していた経験を持つマーティン、そしてジャーナリズムの修士号を持ち、幾つかのバンド活動と並行してかつてはフリー・ジャーナリストとしても仕事をしていたローレン。紆余曲折の前歴を糧にようやく大輪の花を咲かせた彼らの姿は、音楽性こそ違うものの、ヤミー・ファーなどでの活動を経て三十路過ぎで成功を掴んだ同郷のフランツ・フェルディナンドにも通じるものがある。ポップ・スター達のけばけばしく派手なプロダクションとも、いかにもインディ然とした垢抜けない宅録勢とも一定の距離を置きつつ、本作で彼らが鳴らしているのは、奥深く多層的なサウンド・デザインと親しみやすい大衆性が見事に同居したエレクトロ・ポップのど真ん中なのだ。

文:青山晃大

決して目新しくはないスタンダードなエレクトロ・ポップ
だが、その中では間違いなく最も上質な部類の作品

2013年のイギリスの音楽シーンは、久々に新世代が活気づいている。ディスクロージャーやアルーナジョージのブレイクによってヒット・チャートには新しいダンス・ミュージックの流入が始まり、長らく停滞を続けていたギター・バンド勢にもようやく新しい動きが少しずつ見え始めた。アンダーグラウンドのクラブ・シーンで活発な実験が繰り広げられていた以外、ほとんどエキサイティングな動きが見受けられなかった近年のイギリスだが、ここに来て少しずつ状況は好転しつつある。

ローレン・メイベリーのラヴリーなルックスのおかげか日本のインディっ子たちが身悶えしながら歓迎しているチャーチズも、現在の英国シーンにおける新しい波の一組。ただ、この1stで彼らが全面展開しているエレクトロ・ポップは、リトル・ブーツやラ・ルーが一世を風靡した2009年頃からイギリスでは定番となっているスタイル。正直もう食傷気味だという人も多いかもしれない。しかし、それでもチャーチズのことは単純にありきたりで退屈と切り捨てる気にはなれない。

このアルバムには、気の利いたプロダクション、創意工夫を感じさせるアレンジ、親しみやすいグッド・メロディ、そしてキャラ立ちしたメンバーという、良質な作品に必要十分な要素が揃っている。その基礎的な条件をきっちりと押さえていれば、多少既視感のある音楽性でも全くOKなのだ――そんな当たり前のことを、チャーチズの1stは改めて実感させてくれる。

プラスチックのように滑らかで無機質な売れ線のエレクトロ・ポップとは違い、適度にザラつかせたサウンド・テクスチャーは心地よく、ヴォーカルの甘いフレーズにアグレッシヴなシンセ・サウンドを敢えてぶつけるアレンジの妙にも感心させられる。イアインが歌う曲が2曲入っているのもいいアクセントになっているし、粒揃いのメロディは見事というほかない。

少しばかり言い方はよくないが、これは決して目新しくはない、よくも悪くもスタンダードなエレクトロ・ポップだ。しかし、その中では間違いなく最も上質な部類の、極めて完成度が高い作品だと言っていいだろう。

文:小林祥晴

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