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PRESENT TENSE Wild Beasts (Hostess) by YOSHIHARU KOBAYASHI
AKIHIRO AOYAMA
February 27, 2014
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PRESENT TENSE

湖水地方出身の知性派が4作目にして到達した、
バンド史上最も思慮深く、最もポップな最高傑作

今イギリスで、熱心なファンのみならず口うるさい批評家達からも一目を置かれ、最大限の敬意を表されているバンドの一組。湖水地方はケンデル出身の知性派ワイルド・ビースツは、移り気な日本のリスナーが目を離している隙に、ひとつの理想的な立ち位置へと上り詰めた。デビュー当初はケルティック・フォークをバンド・サウンドに落とし込むという発想の奇抜さばかりに目が行きがちだったが、知的で文学性の高い歌詞にスポットが当てられた2ndはマーキュリー賞にノミネート。フォー・テットやカリブーの影響でエレクトロニック・サウンドにシフトし始めた3rdでは、完全にその評価を確固たるものにしている。そしてこの最新作『プレゼント・テンス』は、早くも最高傑作と推すメディアや批評家が多い。私もそのうちの一人である。

このアルバムの素晴らしさは、冒頭の“ワンダーラスト”を耳にした時点で十分に感じ取れるだろう。影響を公言しているクラムス・カジノの先鋭的なビートを彼らなりに消化したと思しきリズムに乗せて歌われるのは、表面的には、享楽的に性的快楽を探求する恋人達の話。だがそこには、イギリスの階級制度や拡大する経済格差といった政治的イシューがさり気なく盛り込まれている。それだけではない。さらにもう一歩踏み込んでみると、これは、しばらくの休養を経て帰ってきたワイルド・ビースツ自身の力強い復活宣言にもなっているのが分かる。「旅(冒険)への思い/僕らにはこの世界が官能的に感じられる/僕らが一緒にいると、もっとその思いは強くなる/それこそが僕の信じられる感覚」。新しいサウンドと、彼らの評価を決定付けた知的なリリック、そして再出発するバンドのステートメントまでも盛り込んだこの曲は、間違いなくアルバムの理想的なオープニング・トラックだ。

決して明確にストーリーの連続性があるわけではないが、各曲間で緩やかなテーマの繋がりが感じられるのも素晴らしい。例えば“ワンダーラスト”に続く“ネイチャー・ボーイ”では、抑圧される女性との対比でマチズモのグロテスクさを炙り出す。“ワンダーラスト”では性愛の快楽や喜びを歌い上げていたが、ここでは反対に、男女の関係に内在する暴力性を描いていると見ていいだろう。そしてヘイデン・ソープによると、この曲はマチズモの皮を被って生きる男性の愚かしさだけでなく、バンドという虚像を生きることの空しさを描いたものでもあるようだ。つまり、この冒頭2曲だけでも、彼らは複数の問題の表と裏、光と闇を表現している。“スウィート・スポット”では天にも昇るようなユーフォリックなサウンドに合わせ、安楽死への欲望と性的オーガズムを重ねて歌っているが、概してこのアルバムは、あらゆる物事には二面性が隠されているということを極めてリリカルに表現したものであるのは間違いない。今ではアルバムの半分近くでヴォーカルを分け合うようになった、ヒャラヒャラと頭上を舞うヘイデンのファルセット唱法と、低音で朗々と歌い上げるトム・フレミングの歌唱の対比によって。

おそらくこれは、ワイルド・ビースツ史上最も思慮深く、美しいアルバムだ。そして、デトロイト・テクノに触発されたというダンサブルなポップ・ソング“ア・シンプル・ビューティフル・トゥルース”、あるいは情緒的なメロディの“メッカ”といった、驚くほどキャッチーな楽曲に代表されるように、最もポップなアルバムでもある。決して派手さはなく、堅実に、地道な歩みを進めてきた彼らは、4作目にしてそのキャリアの高みに達してみせた。

文:小林祥晴

UKアート・ロック界きっての珍獣が、
都会的な洗練の末に築き上げた美しい「宮殿」

そもそもワイルド・ビースツというバンドは、あらゆる面で風変りかつ異質なバンドとして英国シーンに登場した。湖水地方に隣接するイングランド北部のケンダルという田舎町出身で、2008年のデビュー・アルバム『リンボ・パント』はなぜかスウェーデン録音、さらにプロデュースにはトーレ・ヨハンソンの名前。音楽自体も、ネオアコ・バンドが戦前のキャバレーやヴォードヴィル音楽をやっているような不思議な代物で、とりわけ強烈な存在感を示すヘイデン・ソープのヴォーカルは、ワン・ブレスのうちに美しいファルセットから荒々しいダミ声までを奔放に行き交う。2008年と言えば、アメリカからはMGMT、ヴァンパイア・ウィークエンド、フリート・フォクシーズらが、イギリスからはフォールズやジーズ・ニュー・ピューリタンズ、フレンドリー・ファイアズといったバンドがデビューを果たした年なのだが、今振り返ると、ワイルド・ビースツの1stにおけるエキセントリックさ、異物感はその中でも群を抜いている。言うなれば、デビュー当時の彼らは、バンド名そのままに人里離れた僻地で独自の進化を遂げた珍獣のような、とても変テコで、それ故に唯一無二の存在だった。

そんな彼らにとって、デビュー作から1年後にリリースされた2作目『ツー・ダンサーズ』、2011年の3作目『スマザー』へと至る3年間は、次第に洗練の度合いを強めていくアーバナイゼーションの道のりだったとも言えるだろう。ドリーミーなサウンド・エフェクトやディスコ/ファンクのフィーリングを感じさせるビートを導入し、一気にロック然とした様相を強めた『ツー・ダンサーズ』は、英国のみならずアメリカでも高い評価を獲得。続く『スマザー』では、よりエレクトロニックなプロダクションへと傾倒し、彼らの都会的な洗練は極みへと到達する。この2作品で、プロダクション面での変化と同じくらい象徴的だったのは、ヘイデン・ソープと双璧を成すもう1人のシンガー=トム・フレミングのヴォーカルを担当する比重が次第に高くなっていったこと。ワイルド・ビースツのエキセントリックな側面を司るのがヘイデンだとすれば、深く響き渡るアルト・ヴォイスのトムは、いわば理知的な側面の象徴であり、ヴォーカルの割合の変化は作風の洗練とリンクする形で自然と選び取られたものだったに違いない。

それから約3年振りとなるこの4作目『プレゼント・テンス』も、一元的には前2作のエレクトロニックなプロダクションへの傾倒をさらに推し進めたアルバムと言える。しかし一方で、現代社会における貧富格差の拡大について言及しながら、かつてないほどに率直な怒りの言葉が届けられる“ワンダーラスト”や「僕らはただもう一度あの感覚を味わいたいだけ」と歌われるR&Bテイストの“メッカ”などを聴く限り、本作における彼らは、洗練の過程で次第に薄れていったかのように思えたアグレッシヴな野性や本能、根源的なシンプリシティの新たなアプローチでの表現を志したようにも見える。また、本作のハイライトと言える“スウィート・スポット”や“ア・シンプル・ビューティフル・トゥルース”において、ヘイデンとトムの2人によるヴォーカルはまるで同じ意識を共有しているかのように見事なマイク・シェア&ハーモニーを披露しているのもこれまた象徴的で、この『プレゼント・テンス』によって、ワイルド・ビースツが辿ってきた洗練の道のりはようやく理想的なバランスを実現し、納得のいく帰結を迎えたのだろう。

最終曲“パレス”では、自らの来し方に万感の思いを馳せるように、こんな詞が歌われる。「僕らは荒々しく礼儀知らずだっただろうけど/心の奥底ではもっと崇高な望みを抱えていたんだ/宮殿/ここは僕らの宮殿だ」。辺境の地が育んだキテレツな個性派バンドは、作を重ねるたびに進化を遂げ、ついにはUKアート・ロックを代表する存在にまで上り詰めた。今、ワイルド・ビースツの目の前には、故郷の広大な自然の代わりに、美しく築き上げられた宮殿が立っている。

文:青山晃大

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