SIGN OF THE DAY

ポップ・ミュージック新時代の幕開け
Disclosure / AlunaGeorge at LIQUIDROOM EBISU
by YOSHIHARU KOBAYASHI October 10, 2013
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ポップ・ミュージック新時代の幕開け<br />
Disclosure / AlunaGeorge at LIQUIDROOM EBISU

今年6月、英ガーディアン紙は「ここ十数年で前例がないほど、イギリスではダンス・ミュージックが勢いづいている」といった趣旨の記事を掲載した。つまり、それは90年代のビッグ・ビート・エクスプロージョン以来と言えるくらいにイギリスではダンス・ミュージックが花開き始めたということだが、それもあながち嘘ではないようだ。突破口を開いたのは、昨年ディスクロージャーが放ったシングル“ラッチ”。これが30万枚を超える大ヒットを叩き出したのを皮切りに、今年はデューク・デュモントやルディメンタルなども次々と全英ナンバー1の座に輝いている。そして、そんな「2010年代のダンス・ミュージック・エクスプロージョン」の最初のハイライトとなったのは、アルーナジョージ『ボディ・ミュージック』のトップ10入りという大健闘と、ディスクロージャー『セトル』の初登場1位奪取であることは疑いようもない。特に『セトル』の方は、発売から4ヶ月経った今もトップ30に留まり続けるという驚異的なロング・ヒットを記録中。今や彼らはイギリスを完全に制圧してしまったと言っても過言ではないだろう。

もちろん、ディスクロージャーもアルーナジョージもただ売れたから偉いのではない。彼らはアンダーグラウンドなダンス・ミュージックを愛しつつも、飽くまで「ポップ・ミュージックとしてのダンス・ミュージック」を鳴らすことに極めて意識的なのだ。2000年代後半からイギリスのクラブ・シーンは活況を呈していたが、それは飽くまでアンダーグラウンドに留まる話で、彼らと同じ目線でトラックを作っているアーティストはいなかった。簡単に言ってしまえば、彼らは本当に久しぶりに登場した、次のダフト・パンク、次のケミカル・ブラザーズに自分がなってやろうという気概に満ちたアーティストなのである(しかも、彼らはそれを着々と実現しつつある)。そういった意味では、ディスクロージャーとアルーナジョージは紛れもなく新世代だ。

そして、そんなネクスト・ジェネレーションの豪華共演が初めて日本で観られるということで、今回のライヴは早々にソールドアウト。インディ男子から綺麗目お姉様や熱心なクラバーまでが押し寄せたリキッドルームには、人々の期待が熱気となって充満していた。

まず登場したのはアルーナジョージ。モデル事務所にも所属しているだけあって、アルーナはスタイル抜群。そして思っていたよりも綺麗! ジョージは街ですれ違っても気付かなそうな本当に普通のお兄ちゃんで、そのコントラストがなんとも「らしい」感じだ。だが、率直に言うと、彼らは「アンダーグラウンドなダンス・トラックとメインストリームど真ん中のR&Bという相反するものを衝突させ、その化学反応で未知の興奮を引き起こす」というコンセプトの明快さと正しさと面白さだけで一気に駆け上ってきたところがあるので、ライヴの方はまだまだこれからといった様子。どうせだったらアルーナにはバック・ダンサーとかをつけて超ゴージャスにしてもいいし、ジョージはもっとバリバリに尖ったトラックをライヴ・ミックスとして披露してもいい。その両極が極端になればなるほど、アルーナジョージというコンセプトは輝きを増すはずだ。

もちろん、現時点でのライヴは試行錯誤の段階に違いないので、今後そのパフォーマンスはどんどん成長していくことだろう。華やかなR&Bのメロディを持った曲が続く中、突然二人でパッドを叩いてグッとアンダーグラウンド寄りのインスト・トラックを披露したところには、「自分達はただのポップ・アクトになるつもりはない」という明確な意思表示を感じたし、終始キュートな立ち振る舞いで観客を魅了するアルーナにはスター性のポテンシャルも感じられた。あとは経験を積んでそれを磨いていくだけだ。

そしてディスクロージャーだが、やはりこのタイミングで彼らを観られたことには感謝せねばならない。とにかく今彼らは勢いに乗っているのだということを、まざまざと見せつけられた。二人が斜めに向き合うことで「魅せる」ことを意識したステージ・セットの配置の上手さとか、電子ドラム&シンセ・パッドを叩くガイのリズム感の凄まじさとか、純粋なダンス・トラックとヴォーカル・トラックの絶妙なミックス具合とか、「うわ、さすがだな~」と感心させられまくったポイントは幾つもある。その一方で、ハワードもガイに見劣りしないくらいの超絶ベーシストだったらなとか、アルーナが出てきて歌った“ホワイト・ノイズ”の華やぎが印象的だったので、他の歌モノもツアー・ヴォーカリストでいいから生で聴かせてほしいなとか、ちょっとした不満もなくはない。だが、極論を言ってしまえば、そんなことは全てどうでもいい話だ。

今回のライヴで何より鮮烈な印象を残したのは、上昇気流に乗ったアーティスト特有の迷いのなさ、それが増幅させるライヴ・パフォーマンスの鋭さ、そして20歳前後という若さゆえの闇雲で荒削りなエネルギーが混然一体となり、有無を言わせぬ高揚感と説得力を生み出していたことだったのではないか。この感覚は、まだ無名のアーティストにも、大物としての地位を揺るぎないものにしたアーティストにも出せない、今の彼らだからこそ放つことができたものだ。それを目の当たりにできたのは、紛れもなく貴重な体験である。

それにしても、EDMのようにポップスにひれ伏した音楽はもちろん例外として、彼らのように「スケールの大きなダンス・ミュージック」=「ポップ・ミュージックとしてのダンス・ミュージック」を強い意志を持って鳴らすアーティストは、本当に久しぶりに観たような気がする。そして、そこにはいい意味での時代の移り変わり――ヒット・チャートに再び刺激的なダンス・ミュージックが舞い戻ってくる時代の幕開けを、確かに感じずにはいられなかった。

ディスクロージャーとアルーナジョージの来日公演が9月に開催 - amass

ディスクロージャー(Disclosure)とアルーナジョージ(AlunaGeorge)が来日、ダブル・ヘッドライン・ライヴが9月に開催。24日(火)に東京 恵比寿LIQUIDROOMで行われます 

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