熱心なファンにとっては、「遂に!」といった感じでしょう。再結成発表直後から噂のあったストーン・ローゼズのドキュメンタリー映画『ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン』が、2013年10月19日(土)より日本でも上映が開始されます。
既にご存知の方も多いと思いますが、この映画の監督は『ディス・イズ・イングランド』でお馴染みのシェイン・メドウズ。実は彼がローゼズの熱狂的なファンで、2010年に放送されたTVシリーズ『ディス・イズ・イングランド’86』でイアン・ブラウンにカメオ出演を依頼したのをきっかけに交流が始まったんだそう。映画撮影のオファーはローゼズ側から。再結成の記者会見の数週間前にイアンから直接電話があり、「ドキュメンタリーを撮ってみない?」と誘われたんだとか。ファンにとっては夢のような話ですね。
実際の話、これはメドウズのローゼズ愛が溢れまくっている映画で、そこが何よりの魅力。本来は裏方に徹するはずの監督がたびたびスクリーンに登場し、「ワオ、(リハーサルのセットリストに)新曲って書いてあるじゃないか……!」と単なるファンに戻って目をキラキラ輝かせている場面がたびたびあるのはご愛嬌。そのリハーサル・ルーム(というか小屋ですが)でローゼズの4人が和気藹々と演奏を繰り返す一幕なんて、本当に何気ないけど胸を打たれる名シーンです。
そして本作のハイライトは、何と言っても、開演のわずか数時間前に発表されたウォリントンでの無料ライヴに駆け付けたファンの姿を捉えたシーン。平日の昼間にもかかわらず、会場の前には本当に様々な世代の、様々なライフ・スタイルの人達が集まってきます。ペンキで汚れた作業着のまま現場をほったらかしで走ってきたという塗装業者、赤ん坊を預ける暇もなく一緒に連れてきてしまった父親、ベビーカーを押す母親、ストーン・ローゼズに詳しいと豪語しながらも、父親に曲名当てクイズを出されると一問も答えられなかった少年……この場面は非常に微笑ましくもあるのですが、人々がこんなにもローゼズを待っていたんだ、というのがヒシヒシと伝わってくる感動的な場面でもあります。そして、もちろん、このシーンに登場する興奮を隠しきれない人々の姿は、同じくローゼズの再結成に興奮を隠しきれないファンの一人であるメドウズ自身の写し鏡でもあるのでしょう。
この映画はローゼズ愛が溢れ過ぎる監督ゆえに難儀なところもあります。アムステルダム公演でイアンがレニのことを「カント」と呼び、またもローゼズ分裂か?と騒がれたことがありましたが、その裏幕を一切撮っていないのです。「自分が最高に入れ込んでいるバンドの復活をこれから見ようとしているのに、マイケル・ムーアが大統領を追い込むみたいなことをやれるか(NMEより、大意)」という考えで、カメラのスイッチを切らないスタッフはクビとまで言い渡したとか。そしてその後、イアンから「あの時はカメラを止めてくれてありがとう」という趣旨のメールをもらい、それをスクラップして保存しているんだそう。これはファンの愛情が邪魔し、少しばかりドキュメンタリーとしての突っ込みが甘くなったと言わざるを得ません。
しかしながら、この象徴的な行為が、『ストーン・ローゼズ:メイド・オブ・ストーン』とは何なのか、ということを雄弁に物語っています。おそらく、この映画でメドウズがやりたかったのは、ジャーナリスティックな真実の追及ではなく、ほとんど忠誠心に近いバンドへの愛情を表現することだったのでしょう。そういった意味では、この作品はメドウズからローゼズへのラヴレターと言ってもいいのかもしれません。
一旦カメラを止めてしまってからは若干、尻切れトンボ気味になってしまうのですが、そこは名監督メドウズ、最後のヒートン・パーク公演のところでカタルシスたっぷりにまとめてくれます。やっぱりこの人、ただのローゼズ信者じゃなかった!と唸らされてしまうこと必至のラスト・シーンは、ぜひ劇場でご確認あれ!