SIGN OF THE DAY

2013年 年間ベスト・アルバム
41位~50位
by all the staff and contributing writers December 19, 2013
2013年 年間ベスト・アルバム<br />
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50. Phoenix / Bankrupt!

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結成10年目にして、まさかのグラミー受賞&全米での大ブレイクを果たした4作目に続く4年振りの最新作ということで、普通のバンドなら成功の後の迷いや混乱が生まれても決しておかしくはないところ。しかし、ふたを開けてみればフェニックスにそんな心配は全く不要だった。「破産」にビックリ・マークをつけることで、悲惨な単語をユーモラスに転化したアルバム・タイトルに象徴されるように、ここにはヒップなインディ・スターとなった自分達を客観的に見る知的な態度と、今の状況を楽しもうとする大人の余裕がある。春風のように爽やかなメロディ・センスとスタイリッシュな佇まいはそのままに、以前よりもお金と時間をかけて作品を作り上げることで、より一層ダンサブルに弾けてみせた彼らの姿は、成功を追い風に更なる高みへと駆け上がろうとしているかのようだ。(青山晃大)

49. Washed Out / Paracosm

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トロ・イ・モアがアルバムを重ねるごとに開かれたサウンドへと向かっているのに対し、彼と双璧を成すチルウェイヴのオリジネーターであるウォッシュド・アウトは、2ndアルバムでその逃避主義を徹底的に突き詰めることを選んだ。メロトロンやチェンバリン、ノヴァトロンなど50種類以上もの楽器を使い、いつになくオーガニックで重層的に織り込まれたサウンドは、どこまでも優雅でカラフルでドリーミー。1stのいかにもモラトリアムな生ぬるさには乗り切れずにいたが、何事も突き詰めれば立派、とでも言うべきか。一曲目の“エントランス”で幻想の世界へと優しく誘われ、8曲目の“フォーリング・バック”から9曲目“オール・オーヴァー・ナウ”、そして最後の“プル・ユー・ダウン”にかけてゆっくりと現実へと引き戻されていく、わずか40分強で終わる(だからこそ素晴らしい)甘美な白昼夢の王国。(小林祥晴)

48. King Krule / 6 Feet Beneath The Moon

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若くしてシーンに躍り出たアーチー・マーシャルに、ストリーツのマイク・スキナーや、ジェイムス・ブレイクのような革新性を求めていた向きには、このデビュー・アルバムは些か物足りなく映ったのかもしれない。だからと言って、デビュー当時のロンドンの情勢や強烈なコックニー訛りから、彼をビリー・ブラッグのような社会派ロッカーの系譜に置くのもどこか違和感を禁じ得ないが、本人が公言しているように、オレンジ・ジュースやジョセフ・Kといった〈ポストカード〉・レーベル周辺のポスト・パンク(日本では“ネオアコ”とも呼ばれる)の影響下にあるものとして本作を捉えれば、意外なほどすんなりと受け入れることができるはずだ。名前の由来でさえも訊かれる度に違うことを答え、トカゲのように尻尾を捕まえたかと思うと逃げていくこの青年は、安易に定義され、持て囃され、使い捨てられることを拒否する、最高のアンチ・ヒーローだ。(清水祐也)

47. 片想い / 片想インダハウス

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以前にアニマル・コレクティヴのノア・レノックスに話を聞いて腑に落ちたのは、レノックスがフォーク・ミュージックを「コミュニティの表現」と定義づけていたことだ。日本でいう民謡にあたるフォーク・ミュージックは、言うまでもなく、民族や国や地域に根差した「コミュニティ」の音楽なのだけど、レノックスが強調していたのは、その「コミュニティ」についてだった。レノックスにとって「コミュニティ」とは、友達と家族のことを指す。そこにあるのは、いわゆる歴史やルーツへの意識ではなく、もっと身近な周りへ示される愛着や親密さのような感覚であり、そうした関係の中で経験したり感じたりしたことを表現するのがフォーク・ミュージックだとレノックスは語った。その意味で、アニマル・コレクティヴは完全にフォーク・ミュージシャンだと思う、と。そして、自分が片想いの音楽を初めて聴き、初めてライヴを見たときに覚えた印象は、このレノックスのエピソードを思い起こさせるものでもあった。もっとも、アニマル・コレクティヴ同様に、片想いも音楽的にはフォーク・ミュージックに留まるものではない。黒いリズムとグルーヴがぞめき、三線の哀愁を帯びた音色が流れ、大所帯による合奏は手練揃いだが懐っこく、コーラスはときにゴスペルを思わせるように深くておおらかだ。また、1stアルバムの本作冒頭“管によせて”で、リスペクトを捧げるように次々と読み上げられる名前、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、デ・ラ・ソウル、アレステッド・ディベロプメント、ブライアン・ウィルソン、美空ひばり、シュガー・ベイブ……は、その音楽性を紐解くヒントを与えてくれるかもしれない。そうした片想いの音楽は、どのようにして生まれるのか。たとえば、その喜怒哀楽の讃歌/謳歌のような唄の陰影、語らい酌み交わすような演奏のにぎわい、あるいは、そこに交差する彼らと身近な周りとの関係性――からは、片想いの音楽もまた「コミュニティの表現」と呼べるように思えてならないのだけど、どうだろう。(天井潤之介)

46. Factory Floor / Factory Floor

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今年は〈DFA〉から好リリースが続いた。ホーリー・ゴースト!、ラリー・ガス、そしてファクトリー・フロア。音楽性は三者三様ながら、音の抜き差しやプロダクションに窺えるミニマルな志向が、ポスト・パンクとハードコアをルーツに辿るジェームス・マーフィーの美学、それこそラプチャーやフアン・マクリーンの初期リリースに通じる〈DFA〉設立当時のフィーリングを感じさせて個人的に高揚した。なかでも……と比較するには別次元に等しいが、ファクトリー・フロアがこの1stアルバムで到達したハード・ミニマルの境地は、驚異的ですらあった。もっとも、ミニマリズムは彼らの一貫したスタイルといえたが、昨年の日本独自盤にコンパイルされた初期のシングル群では、テクノからプログレやアヴァンギャルドまで参照する横断性からクラフトワークやスロッビング・グリッスルにも例えられ、あるいは、ジーズ・ニュー・ピューリタンズやデムダイク・ステアと応答関係を示すゴシックな属性も窺えたことが印象深い。が、先行したピーター・ゴードンとのコラボでコスミッシェなサイケデリアを現出させた彼らは、一転、紅一点のニッキ・コークがTGのクリス&コージーと組んだカーター・トゥッティ・ヴォイドのストイックなインダストリアル・テクノに倣うかのように、その反復への強靭な意志を本作で成就させた。初期のバトルスやにせんねんもんだいの近作にも通じる持続感は得難く、アシッド・ハウス、バレアリック、ディスコ・ダブ、ポスト・インダストリアル……と貫くようなミニマルな通奏低音にこそ先鋭性を感じる。ミキシングを、アフリカ・バンバータとの仕事で知られ、近年はデペッシュ・モードの元/現メンバーによるミニマル・テクノ・ユニット、VCMGにメインで関わるティモシー・ワイルズが手がけているのも興味深い。(天井潤之介)

45. AlunaGeorge / Body Music

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ビート・ミュージックにはまるで疎いR&Bシンガーのアルーナと、ナードな佇まいの白人プロデューサー=ジョージの2人が作り上げたこのデビュー作は、世界的にR&Bとビート・ミュージックの混交が深まり、英国でダンス・ミュージックがメインストリームを席巻した2013年でなければ存在し得なかっただろう1枚。先鋭的なサウンド×スウィートな歌の組み合わせによる極上のフューチャリスティック・ポップに、インターネット時代における人間関係の微妙な距離感が表現されたリリックと、あらゆる要素に今の“旬”が詰まっている。アルバムとしては少々詰め込みすぎてヴォリューム過多なきらいがあるのと、アルーナが客演したディスクロージャー“ホワイト・ノイズ”を超えるほどの爆発力のあるキラー・トラックが生まれなかったのが残念といえば残念だが、それでも全体的に刺激的で高水準な楽曲が揃っているのは間違いない。(青山晃大)

44. tofubeats / lost decade

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tofubeatsの名を一部のネット・コミュニティの外側にまで知らしめるきっかけとなった名曲“水星”は、90年代に今田耕治がテイ・トウワと組んだ企画物、KOJI1200“ブロウ ヤ マインド”を下敷きにしているのは有名な話。今やブックオフの100円コーナーで投げ売りされ、誰もがガラクタとしか思っていない90年代J-POPから、2010年代に響く切なくも感動的なアンセムを作り上げる――それはとても示唆的な行為だろう。言ってみれば、自分たちにとってブックオフの100円コーナーはゴミ箱なんかじゃない、宝の山なんだ、という意味の反転が“水星”にはある。彼が神戸のニュータウン出身であることを重視/強調しているのも実は似たような話で、90年代には冷たく無機質と言われがちだったニュータウンを肯定的に捉え直そうという意図がそこには含まれているはず。もちろんこれは彼らの世代にとっては珍しいアイデアではなく、むしろスタンダードな考え方だろう。ただ、tofubeatsはそのような「意味の反転」を分かりやすく、魅力的にプレゼンする能力に人一倍長けているのは間違いない。『lost decade』――失われた10年と題されたこの1stアルバムにも、喜ばしき意味の反転がある。このタイトルは、彼がネットを通じて知り合った仲間たちとやっているパーティの名前であると同時に、音楽制作を始めてから1stを作り上げるまでの10年間を意味するもの。決してクラスの中心にいるようなタイプではなかったという彼にとって、この10年はいろいろな意味で「失われた」ような感覚もあったのだろう。しかし、この10年の集大成とも言える本作を作るにあたって、上昇気流に乗っている今の自分の状況を改めて振り返ってみたとき、「これまでがあったからこそ、ここに辿り着くことができたわけだし、意外とこの10年間も、悪くなかったんじゃない?」と思えたのではないか。そんな気付きから生じるエモーショナルな高揚が、ここには詰め込まれているように感じられる。それはまるで、ルサンチマンが浄化され、祝祭感へと反転していくような感覚だ。「失われた10年」は、実は「豊かで実りある10年」だった、という喜びに満たされた、彼の最初の到達点。(小林祥晴)

43. Merchandise / Totale Nite

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フロリダ州西海岸の都市、タンパのパンク/DIYコミュニティが生み出した突然変異。アイロニーを込めて自らを「商品」と呼んでいるところにストイックなハードコア精神が垣間見られるが(フガジの曲も意識しているのだろう)、そのようなルーツを持つマッチョ体型のアメリカ白人4人組がなぜ、ソニック・ブームをプロデューサーに迎え、初期スミスをシューゲイザーのノイズで塗りつぶしたような音楽を作るに至ったのか。謎。しかし、だからこそ、その異物感の塊でしかない音楽は強烈なインパクトを残す。クラウトロック譲りのリニアなビートに乗せ、ノーウェイヴの衝動とシューゲイザーの轟音が交錯し、モリッシーが憑依したとしか思えないカーソン・コックスの愁いを帯びたバリトン・ヴォイスが響き渡る、9分長に渡るユーフォリックなニューウェイヴ・ノイズ・ジャム“トータル・ナイト”が白眉。(小林祥晴)

42. Danny Brown / Old

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2011年夏に無料ダウンロードで発表され、一躍注目を浴びた通算2枚目のアルバム『XXX』では制作段階で、批評的成功を意図、で、好レヴュー作品の次のアルバムもそれと同レベルか、それ以上だったアーティストとして、『OKコンピューター』の後に『キッドA』を出したレディオヘッドを想起、そこで、後者を研究したら、歌詞よりもサウンドに拘ってるから、本作もそれに倣った、とはデトロイトのラッパー、ダニー・ブラウンの弁。確かに、ビートは、前作比でサンプリングが激減、替わってピュリティ・リング、グライムのダーク・E・フリーカー、ラスティ等を起用、が、それだけで済まさず、『XXX』以前の自分自身をサイドA、以後の彼をサイドBに投影させ、本作さえ聞けば、今に至る彼の人物像もラップ・スタイルもつかみ取れる構成にしたことで、ライムのヴァリエーションは前作を超え、どのビートも彼自身の色できれいに塗りつぶされている。(小林雅明)

41. Chvrches / The Bones of What You Believe

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10年以上のキャリアを持つイアイン・クックとマーティン・ドハーティによる、細やかな箇所にまで配慮の行き届いた匠の技。彼らに見出されたヴォーカリスト、ローレン・メイベリーの華やかな佇まいと清廉な歌声、元ジャーナリストならではの知的なリリック。特段新しい要素や目を引くギミックを用意せずとも、アレンジとメロディとプロダクションを綿密に練り上げさえすれば、多くの人の心に届くポップ・ミュージックが生まれることを、チャーチズの3人はこのデビュー作で証明してみせた。『ハイプ・マシーン』によれば、数多ある音楽ブログで今年チャーチズが紹介された回数は、ディスクロージャーに次ぐ第2位。その事実は、彼らがいかに世界中のミュージック・ラヴァー達に愛され、人々の口コミによって支持を拡げていったかを物語っている。(青山晃大)


「2013年 年間ベスト・アルバム 31位~40位」はこちら

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