SIGN OF THE DAY

2014年 年間ベスト・アルバム
6位~10位
by all the staff and contributing writers December 27, 2014
2014年 年間ベスト・アルバム <br />
6位~10位

10. Benjamin Booker / Benjamin Booker

2014年 年間ベスト・アルバム <br />
6位~10位
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故郷のタンパを後にし、このデビュー作の大半が作られたニュー・オリンズへと向かう道すがら、彼の脳裏にはどんな思いがよぎっていたのだろうか? 戦前のブルーズとカート・コバーンをこよなく愛する青年が本作で歌っているのは、要するに、押し付けられた自らの出自を捨て、あやふやな未来に身を委ねるということだ。それで失うものもあれば、傷つくこともある。得るものもあるかもしれないし、ないかもしれない。どの選択が正しかったかなんて、誰にもわからない。だが、本作の最初と最後が緩やかに繋がっていることが仄めかすように、たとえその冒険が失意のうちに幕を閉じるとしても、何度でも何度でも繰り返せばいい。50年代風のゴキゲンなギター・リフで鮮烈に幕を開け、力強いフロア・タムが激しく気持ちを鼓舞する一曲目の“ヴァイオレント・シヴァー”が鳴り響けば、きっとあなたはまた立ち上がるだろう。ロックンロールとは喜びと悲しみ、始まりと終わり、期待と失望のすべてを抱きしめる音楽なのだとしたら、このレコードが鳴っている45分強は、まさにその理想形のひとつ。ギター・ロックの凋落を嘆く前に、本当にあなたはこのアルバムを聴いたか?(小林祥晴)

9. Todd Terje / It's Album Time!

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ダークなビート・ミュージックの潮流が依然として強い勢力を保つ一方、それとは対照的であるがゆえに、ノルウェーの鬼才が放ったこの作品のユーモアは魅力的で際立っていた。昨年のダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』の香りが残るニュー・ディスコのグラスに、トロピカルなフルーツを添えたようなエキゾチック・ミュージック~ラテン・ジャズ風味が妙に新鮮で、ブライアン・フェリーをヴォーカルに迎えてロバート・パーマーによるシンセ・ポップの名曲をカヴァーするという、ダンディにダンディを掛け合わせたようなコーディネートのセンスも抜群。一連の作品を手掛けてきたベンディク・カルテンボーンによるアートワークは今回も素晴らしく、アナログ盤では2枚組の両面それぞれのレーベルに種類の違うカクテルが描かれていて、さながら気分次第で好きな音楽をシェイクしてくれるバーテンダーのごとし。酸いも甘いも噛み分けた大人だけが知っている、秘密の隠れ家だ。(清水祐也)

8. シャムキャッツ / AFTER HOURS

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“ファブ・フォー”という呼称を使う彼らは、いわゆるチーム男子としての自覚があるがゆえに、“渚”、“なんだかやれそう”を筆頭に、その時々のバンド・メンバーのムードを反映した代表曲を生み出してきた。だが、今作は意識的にそうしたヤング、アライヴな魅力から一歩引いた地点から何かを語ることにフォーカスしたアルバムだろう。その何かとは、生まれ育った浦安を舞台に、性別も世代も異なるキャラクターを主人公とした10篇のストーリー。「タモリがはしゃぎ下らなく午後がはじまる」といった今だからこそ時間的な広がりをもたらす言葉使いと、グルーヴ全体を掌握したベースを主役にした、アイデアや表現の幅を広げながらもアンサンブルとしては洗練を極めたサウンドが、物語を立体化させ、聴き手と登場人物それぞれの世界をすっと繋げていく。かくして、『AFTER HOURS』は、名も知らぬ隣人が抱える愛の有り様を想像してみるという、2014年においてもっとも忘れられがちな営みを喚起させるアルバムとなった。(田中亮太)

7. Spoon / They Want My Soul

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ディヴァイン・フィッツ他の課外活動および長い充電期間を経て生まれた本作で、スプーンはみごと「次のステップ」を踏んでみせた。Key奏者の正式加入、初顔合わせとなったデイヴ・フリッドマン(一部でミックスとプロデュースを担当)という新たな血が自主レコーディングの手腕を備えたDIY野郎であるブリット&ジムに新鮮な刺激と遊びの余裕を与えたのだろう。スキニー・ポップの名手らしいリフとグルーヴで引っ張るミニマリズムが冴える一方で、コーラス/シンセ/凝ったテクスチャリングの数々(ギター・サウンドのレンジは過去最高だし、シンセも麗しくデイヴだ)が空間を圧することなく踊る。アルバム先行発表曲での正統スプーン節もいいが、“アウトリア”を始めとするシャツのボタン3つくらい外した新境地のちょいと不埒なスウィングに胸が躍らずにいられない。10曲/40分未満という今どき珍しいタイトな作品ながら、凝縮された濃い聴体験で不満を感じさせないのもさすが。(坂本麻里子)

6. Scott Walker + Sunn O))) / Soused

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80年代からこつこつと築かれてきた音楽監督、演奏家たちの閉じたスコット・ウォーカーのサークルに、今回新たなコラボ相手として指名されたのがアヴァン・メタルの雄、サンO)))。「水浸し」のタイトル通り、楽曲の根底には踏みしめる足下から力を吸い取る湿地帯のようなサンO)))のドローン/ハムが揺れ続け、ヘヴィで密度が高いその絨毯の上に鞭やホワイト・ノイズ、変容された楽器群etcの異界音をシビアに配置(長年のミキサー、ピーター・ウォルシュのリアルかつ霊的な仕事は秀逸の一言)。彼の過去三作に較べてミニマルなプロダクションが生む四大元素の「土」「水」、あるいはパゾリーニ『王女メディア』を想起させる前史的な響きは、アブストラクトに傾きがちだった荘厳なヴォーカリゼイションの重みとメロディの衝撃とを端的に味わわせてくれる。不可解な音楽を否定する「アンチ知性」姿勢は、「高尚」を無条件に賞賛する輩と同じくらい不快なものだが、本作をそんなバイアスで切り捨てないでほしい。聴き手を警戒させ、戦慄させ、謎を吐き続けるスコットの音楽=モノリスに映るのは聴き手自身なのだから。(坂本麻里子)




「2014年 年間ベスト・アルバム 1位~5位」
はこちら。


「2014年 年間ベスト・アルバム50」
はこちら。

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