SIGN OF THE DAY

2015年 年間ベスト・アルバム
31位~40位
by all the staff and contributing writers December 27, 2015
2015年 年間ベスト・アルバム <br />
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40. The Weeknd / Beauty Behind The Madness

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毎年大きな注目が集まる『ヴィクトリアズ・シークレット・ファッション・ショー』で、今年唯一の男性アーティストとしてパフォーマンスを披露したのは、何を隠そう、このウィークエンドことエイベル・テスファイだった。パイナップル頭のずんぐりむっくりとした男が、ランジェリー姿の美しいスーパー・モデルたちと視線を交わしながら「君といると自分がどんな顔してるのかわからなくなるけど、すごく気分がいいよ」と繰り返し歌う様子は、じつにシュール。たとえば2年前に同じ役目を担当したマルーン5のアダム・レヴィーンあたりと比べると、その様子は正直サマになっていたとは言い難いんだけど、まあ、兎にも角にも痛快じゃないか。2011年にミックステープ『ハウス・オブ・バルーンズ』のヒットによって一躍インディR&B界の寵児となったウィークエンドは、その芸風をそれほど変えることなく、本作でついに全米トップへとのぼりつめた。いや、むしろドラッグとセックスで孤独を埋める「塞ぎ込んだマイケル・ジャクソン」としてのキャラクターは、本作を通じてより鮮明になったような気さえする。(渡辺裕也)

39. Jim O'Rourke / Simple Songs

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1曲目から茶目っ気まじりに「また会えて嬉しいよ」の歌詞で切り出すのもごもっとも! な、バンドと共にレコーディングした歌もの作としては14年ぶりのアルバム。その間に同趣向の『ユリイカ』、『インシグニフィカンス』のカルト信仰は高まっていたわけで(グリズリー・ベア、フィールド・ミュージックらを参照のこと)、たとえ本作が前衛/即興/ミニマリズム/ロック/サントラ……と広がり続けるジム・オルークの音宇宙のほんの一端に過ぎないにせよ、日本に居を移したことでUSインディ界のグリッドから不在者扱いされている現状を思えば、こうして新たな世代の聴き手にアクセスしやすい糸口がもたらされたのは嬉しい。アルバム・タイトルが真顔の冗談に過ぎないのは、制作にほぼ6年を費やしたという緻密なアレンジや多彩なアイデア、ニュアンスに富んだ音作りからも明らかだろう。その意味で彼は今回も聴くたび発見がある=風化に耐えるアルバムという長期戦を仕掛けているのだと思うし、実際筆者のフェイヴァリット曲もリリース以来変化し続けている。しかしそうした分析や解釈を越えたところで、まずはこの名人によるバロック・ポップとプログレのたぐいまれな融合に打たれてほしい。(坂本麻里子)

38. Wolf Alice / My Love Is Cool

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ロンドンが世界有数のインディの聖地だったのも、今やすっかり過去の話。イギリスでは「インディ」に取って代わるようにハウスやガラージ流れのダンス・ミュージックが人気を博し、結果を出しているロック勢も「インディ」という矮小なカテゴリには属さないバンドばかりだ。〈NME〉誌のフリーペーパー化だって、英国におけるインディ文化の終焉を象徴するような出来事に思える。とはいえ、勿論すべての歴史が灰燼に帰したわけではない。今年ロンドンには、同地のインディの系譜を継ぐ存在としてデビュー作を全英2位に送り込んだ、このウルフ・アリスがいた。最初に注目を浴びた2012年末から数えて約3年の期間を要した本作には、バンドの驚異的な成長の足跡がまざまざと刻まれている。当初は90年代オルタナの焼き直しのようだったサウンドは、シューゲイザーやブリット・ポップも飲み込んで大幅に音楽性を拡張。同時に、ドーターやウォーペイントにも通じる立体的な構築力を用いて、現代的かつ包括的、さらに個性的でもある「インディ・サウンド」の確立に成功している。盛夏が過ぎ冬を迎えたとしても、ロンドン・インディの遺伝子が完全に絶えたわけではないのだ。(青山晃大)

37. Chvrches / Every Open Eye

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2000年代後半から2010年代前半にかけて隆盛を誇ったエレクトロ・ポップ勢の人気も、今では随分落ち着きを見せている。そこから登場したアーティストの中には、R&Bに目配せして活路を見出そうとする者もいれば、EDM寄りのアプローチに接近する者もいて、みんな生き残りをかけてそれぞれの試行錯誤を続けている印象だ。ただ、その潮流としては後発の方に位置づけられるチャーチズだけは一切ブレることなく、この2作目でも持ち前のエレクトロ・ポップに更なる磨きをかけるという、もっともシンプルな道を選んだ。よりポップに、よりビッグに、よりエモーショナルに。サウンド面ではチアフルなヴァイブを増量した一方で、ローレン・メイベリーの描くリリックは前作にも増して複雑に入り組んだ感情を綴り、その対比が彼らのポップス観をカラフルに際立たせている。容赦なく移り変わるトレンドの変遷や、ローレンに対して送られて続けてきたアイドルを見るような視線。デビュー以降に降りかかったそれらの課題にも足を絡め取られることなく、チャーチズは「バンド」としてのポテンシャルをスマートに見せつけた。(青山晃大)

36. Oneohtrix Point Never / Garden of Delete

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『ガーデン・オブ・デリート』は、ARGめいたわけのわからないプロモーションがファンの間で話題になった。その中心となるのは謎の皮膚病に侵された宇宙人の少年エズラであり、彼はアートワーク、更には曲名にもフィーチャーされている(彼の飼い犬はレコーディングに参加している……)。奇妙なSF設定はダニエル・ロパティンが偏愛する80年代から90年代初頭のディストピックでサイバーパンクな『ターミネーター2』などのSF映画からの影響が垣間見えるもので、音楽面ではそれらの映画作品と大体時を同じくする(もはや若者は誰も知らないであろう)デフ・レパードのようなMTV時代の音楽やその後のグランジ(OPNはナイン・インチ・ネイルズとのツアーを行った)といった少年時代に通過したカルチャーからの影響を歪んだ形で露呈させている。「ハイパーグランジ/サイバーメタル」とOPN自身が呼ぶこのレコードにはそれと同時に前作『R・プラス・セヴン』における静物画のようなクリーンで神経質な構成があり、また音楽産業に対する薄笑いを浮かべた皮肉もある。グロテスクで、かつOPN史上最高にポップ。まずは“スティッキー・ドラマ”のヴィデオを。(天野龍太郎)

35. Young Thug / Barter 6

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ずっと影響を公言してきたリル・ウェインの『カーター』シリーズの続編にしようという勝手な案が本人の怒りを買い、ビーフに発展。リル・ウェインのツアー・バス襲撃への関与疑惑が浮上するなど、今年ゴシップ的に世間を騒がせたラッパーの1人がヤング・サグだった。こう書くといわゆるギャングスタ・ラッパーと誤解されそうだが、彼は決してその定型にキッチリ収まるタマではない。ヒップホップ界隈でいまだ根強いマッチョイズムに逆らうように女性モノの服を着た写真で雑誌に載り、シーンの凝り固まった慣習をからかい嘲笑う、今最もコントロヴァーシャルなトリックスターなのだ。ブラッズの慣習に則り、最終的に『Carter』のCをBに変えて発表された本作は、彼の商業デビュー作だが、ここでも彼は気負いや欲目を感じさせず、飄々とイタズラな表情を保ったままでいる。ジ・アトランタなトラップ・ビートに乗せて、次々飛び出すフロウは奇妙で多彩。「リアル」と「フェイク」の二次元をはみ出す独特の世界観で「ヘイト」と「リスペクト」を同時に集め、ヒップホップの旧来的な価値観に揺さぶりをかけようとしている。(青山晃大)

34. シャムキャッツ / Take Care

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バス停に立つ女と通り向かいにいる男。10年ぶりの再会に男は気づくものの、逡巡する間に女はバスに乗る。車窓を通じて目があい、男は走り出す。数分に満たない風景を、ほかの誰が、“GIRL AT THE BUS STOP”ほど、優しいロマンチシズムと狂おしいセンチメンタリズムを込めて描けようか。ギター・ディレイとゆったりとしたグルーヴ、甘い歌声と滑らかなストーリーテリングで、シャムキャッツは5分30秒の物語を紡いだ。もう間に合わないってわかっていながらも駆けていく男と同様に、今作の主人公たちはみな「その時」の足音に気づいている。「伝えたいこと考えておかなくちゃ」と耽るバラッド“WINDLESS DAY”、「どうしてここにいたいのか/たまに分からなくなるのさ」とうそぶく“PM 5:00”。バンドは『AFTER HOUSR』で切り取った街の人々の一瞬のメロウネスから、否応なく時計の針を進めんとした。不可避的に冷酷と背中合わせの作品ゆえ、スウィートな情感がさらに増したのは必然だっただろう。迫りくる決断のときをどこまでも丁寧に描ききった掌編集。はなむけの言葉は、またね、テイク・ケア。(田中亮太)

33. Foals / What Went Down

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もし「次のフー・ファイターズ」になり得るポテンシャルを秘めたバンドがいるとすれば、それは今のフォールズだ。2016年2月にウェンブリーを含むUKアリーナ・ツアーが控えている彼らは、2010年代のスタジアム・ロック=EDMにバンド・サウンドのダイナミズムで対抗し得る、数少ないアクトの一組である。突風のように吹き荒れるドラム、鉛のように重たいベース、ブラック・サバスも青ざめるラウドなギター・リフ、そして堂々たる貫録を漂わせるようになったヤニスのエモーショナルなヴォーカル――最早、バトルスとブロック・パーティの背中を追いかけていた初期の面影は微塵もない。2nd『トータル・ライフ・フォーエヴァー』の壮大さ、3rd『ホーリー・ファイア』の重厚感をさらにビルドアップさせたこの4thアルバムは、フォールズ流アリーナ・ロックのひとつの完成形。力強く頼もしい足取りで、彼らは新時代の覇者への階段をまたひとつ上ってみせた。(小林祥晴)

32. Tuxedo / Tuxedo

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ディスコ回帰、という表現が近頃幅をきかせているが、例えば、今ダフト・パンクのデビュー・アルバムを聴き返せば、“ゲット・ラッキー”からではなく、その当時から、彼らが(ちょうど同じ頃、注目され出していた)ディスコ/ブギーという新たな評価基準を共有していたことに気づかされるはず。で、その基準は、回帰ではなく、注目されなかった曲を発掘し、新曲として聴いて(評価して)ゆくところから生まれてゆく。そういった感覚を、演る側として会得していたのが、シンガー・ソングライターのメイヤー・ホーソーンと、(主にヒップホップ作品にビートを提供してきた)プロデューサーのジェイク・ワンによるプロジェクト、タキシードなのではないだろうか。ディスコ/ブギーの対象とされている70年代末から80年代初頭は、生楽器と、エレクトリック~打ち込み系の音との配分が揺れ動いた時期であり、また、それは、コズミック・ディスコとバレアリック、両者の出現の間にあたり、同時にAORも流行っていた。二人は、そういった部分をも含む音の傾向を、サンプル/打ち込みだけではないサウンド作りを進める上での大きなヒントとし、回帰ではない面白さで聴かせてくれる。(小林雅明)

31. Floating Points / Elaenia

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クラスターの静寂を描く電子音、ECMの熱を帯びない揺らぎ、そこから立ち上がるソウルフルなストリングスの響き。初期カール・クレイグやデトロイト・エスカレーター・カンパニーの静かなテクノのメランコリーもある。絶妙にしてエレガント。スピーカーから放たれた結果、その音楽は部屋のなかでジャストな高さに居座る。フローティング・ポインツのアルバムはその静かな佇まいに似合わないほど、シーンのある方向性を感じさせる音楽でもある。ここ数年、ジャズといえばフライローやロバート・グラスパーなどUS勢のイメージが強いのだが、UKもここにきて若干風向きが変わってきている感覚があり、そんな動きのエポック・メイキングな作品となるだろう。彼が12インチで見せるダンス・グルーヴは後退しているものの、テクノとジャズの新たな関係性を夢想する、そんなサウンドが広がる。ここにはいまやシーンに飽和状態の「ディラ・ビート」など皆無だ。ちなみに彼のレーベル〈エグロ〉もすばらしく、ファティマのR&Bアルバム『イエロー・メモリーズ』を2014年に、4ヒーローのディーゴが合流するなど、UKのジャズの新たな世紀を感じさせる動きを見せている。(河村祐介)


「2015年 年間ベスト・アルバム 21位~30位」
はこちら


「2015年 年間ベスト・アルバム 50」
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