1. ブラーの最新作『ザ・マジック・ウィップ』は、彼らの8つのアルバム・ディスコグラフィの中で上から数えて何番目に位置する作品だと思いますか。上位から順番にアルバム名を挙げつつ、『ザ・マジック・ウィップ』の順位を示し、その理由についても述べて下さい。
一番上はバランスの良さと時代性の意味でやはり『パークライフ』、次が『ブラー』。
そこから少し間が開く形ですが、僕は3番目を『ザ・マジック・ウィップ』としたいです。『シンク・タンク』と少し迷いましたが、やはりあれはデーモンにかなり寄った作品だと思うので。『ザ・マジック・ウィップ』はブラーらしさがある=4人でちゃんと円になっていて、音楽的なハイブリッドがとても成熟した充実作だと思います。
2. アルバムに先立ち、“ゴー・アウト”がネット上に公開された時のあなた自身の率直な感想を教えて下さい。また、その時点では、最新作『ザ・マジック・ウィップ』がこんなにも素晴らしい作品になると予想しましたか?
思いませんでした、というか、どんなアルバムになるのか全然想像がつきませんでした。まず聴いて思ったのは「あ、グレアムのギターだ」ということ。「ということは、“かつてのブラー”を前面に打ち出してくるのか、やはり? うーん」という感じでした。
3. 『ザ・マジック・ウィップ』から、あなた自身のフェイヴァリット・トラックをその理由と共に3曲挙げて下さい。
あくまでゆったりとしたリズム、洒脱なブラス・アンサンブルとムーディなコード。香港の夜の涼しい風を頬に感じるような、音の隙間を生かした緩やかなファンク・グルーヴ。メロウなのにゆっくりと身体を揺らしたくなるダンス・フィールがとても上品で、洗練され大人になったブラーを端的に示す一曲。
アルバムも終盤に回ったところで、しかもややダークな“ピョンチャン”を通過したところで飛び込んでくる、リラックスしきったシンガロング・コーラス! グレアムのフォーキーなギターとデーモンの優しげなヴォーカルが共存することに微笑まずにはいられない。叩かれるのが楽しそうな鍵盤。「不景気を後にして、僕は港を出た/君の愛を感じてる」……ここからは、人生を再出発させるほろ苦さと爽快さが眩しく響いている。
フォーキーなようでいてエレクトロニクスをさりげなく使う、抽象的なニュアンスのブロークン・ハート・バラッド。デーモンのヴォーカルの魅力は、こうした弱さをさらけ出す曲でこそ発揮される。「君を失うのか、また失うのか」……その切なさは、いまのブラーだからこそより深みのあるものになっている。
4. 『ザ・マジック・ウィップ』と、2014年にリリースされたデーモン・アルバーンのソロ作品『エヴリディ・ロボッツ』との関係性について、教えて下さい。
大きく言って同じ時期に作られた楽曲群だと思うと、デーモンのなかでよりソロ向きのもの、よりバンド向きのものといった峻別があったのだろうと考えられます。現代のライフスタイルをモチーフとしたどこかアンニュイなムードは両者に共通するものの、『ザ・マジック・ウィップ』には『エヴリディ・ロボッツ』よりも開放感があることは、デーモンが他者あるいは仲間をどう捉えているかが伝わってくるようです。
5. あなたの視点では、グレアム・コクソンの脱退は、どんな理由によるものだと思いますか? また彼の不在は、ブラーに何をもたらしたのでしょうか?
同じ人間たちと感情をぶつけ合い、同じものを作り上げていくことへの疲弊だと思います。とりわけデーモンに対しては音楽性やパーソナリティの違いに対して深い尊敬と愛があり、だからこそ離れる必要があの時期の彼にはあったのではないでしょうか。かなり切迫したものだったのではないかと想像します。
結果として、ブラーはバンドとしていったん終わりました。4人でないとブラーである意味がないことを、グレアムの不在は彼らに何よりも痛感させました。
6. グレアム・コクソン不在時期の2003年のアルバム『シンク・タンク』と、同じ時期の彼らのライヴ・パフォーマンスに対するあなた自身の評価とその理由について教えて下さい。
『シンク・タンク』自体は素晴らしいアルバムだと思います。音楽性は当時のデーモンにかなり寄っているためブラーらしさは薄めですが、アラブ音楽の導入、フリー・ジャズ的な意匠、そしてダブを意識した太い低音がメランコリックなメロディの下で鳴っている様はそれまでの彼らにはなかった迫力を持っています。バンドを継続していく上で、自分たちのあり様を示すような『シンク・タンク』というタイトルも示唆的でした。
当時のライヴについては先に書いたようにデーモンに余裕がなくちょっとつらそうでしたが、それよりも、ブラーの楽曲がいかに4人でないと演奏される意味がないかを浮き彫りにしており、切ないものがありました。
7. グレアム・コクソンの復帰はブラーというバンドに何をもたらしたのでしょうか? また、その結果の最たるものとは何でしょう?
武道館のライヴを観て印象的だったのは何よりも、デーモンの楽しそうな姿でした。パフォーマンスだったのでしょうか? 僕にはそうは思えません。自分には鳴らせないギターが横で鳴っていることの喜びを全身で表現しているようでした。
『ザ・マジック・ウィップ』はだから、グレアムの多彩なギターが聴ける作品になっています。もう若き日々が帰ってこないペーソスはアルバム全体にあるのですが、とてもリラックスしていて、風通しの良い作品になっているのはギターの音色が曲ごとに表情を変えていくカラフルさによるものだと感じます。
8. 『エヴリディ・ロボッツ』や『シンク・タンク』にあって、『ザ・マジック・ウィップ』にはないものとは何か。『ザ・マジック・ウィップ』にはあって、『エヴリディ・ロボッツ』や『シンク・タンク』にはないものとは何か。それぞれについて教えて下さい。
前者は、デーモン・アルバーンという人の個としての弱さと、思いがけない率直さ。後者は、メンバーのコーラスによる抜けの良さ、カラフルで情緒的なギター・プレイ、アンニュイでメロウでありながら同時に肩の力が抜けていて、どこか開き直っているような楽観性。
9. この2015年に最新作『ザ・マジック・ウィップ』をどうしても聞かなければならないという必然があるとしたら、それはどんな理由によるものでしょう。
率直に言って、「どうしても聴かなければならない」理由はないと思います。20年前のブラーほど、現在の風俗や社会と深く関わり合っている作品ではないからです。非常にブラーというバンドの物語に沿ったアルバムです。ただ、彼らの歴史を知らなくても、ふと手に取ったリスナーを迎え入れてくれる、懐の深い作品だと僕は思います。
社会的なアングルだと、先日のイギリスの選挙の結果を受けて打ちひしがれているひとがいれば、このアルバムを勧めるかもしれません。かつて喧噪を経験し、揉まれてきたバンドならではの「それでも前に進むしかないよ」という楽観が、このアルバムにはあるからです。
10. あなたなら、あなた自身のCD棚に並べた『ザ・マジック・ウィップ』の両側に、誰の、どのアルバムを並べますか? その理由と共にお答え下さい。
ブラーの『シンク・タンク』と、未来に出るだろうブラーの次のアルバム。バンドの紆余曲折の歴史に敬意を表し、また、バンドに先があることを希望するため。
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