1. ブラーの最新作『ザ・マジック・ウィップ』は、彼らの8つのアルバム・ディスコグラフィの中で上から数えて何番目に位置する作品だと思いますか。上位から順番にアルバム名を挙げつつ、『ザ・マジック・ウィップ』の順位を示し、その理由についても述べて下さい。
1) 『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』
2) 『13』
3) 『マジック・ウィップ』
4) 『パーク・ライフ』
5) 『レジャー』
6) 『ブラー』
7) 『グレート・エスケープ』
8) 『シンク・タンク』
英国人であるジレンマを抱えて世界へと旅立った彼ら(デーモン)が、当座の旅を終えて戻ってきたことを告げる便りとしては『マジック・ウィップ』は十分過ぎるほどに素晴らしいです。ただ、今回の1枚だけで鉄板の上位3作品に拮抗はできない。これから継続してアルバムを出していってくれればこそ、順位ももっと上がっていくだろう、きっとそうしてくれるはずと確信しています。
2. アルバムに先立ち、“ゴー・アウト”がネット上に公開された時のあなた自身の率直な感想を教えて下さい。また、その時点では、最新作『ザ・マジック・ウィップ』がこんなにも素晴らしい作品になると予想しましたか?
全く想像していませんでした。それどころか、「厳しいなあ」というのが本音でした。でも、アルバムの流れの中で聴くと“ゴー・アウト”がどういうポジションで作られたものかがよくわかります。逆に言えば、シングル向きの曲ではなかった、来たるニュー・アルバムからダイジェスト的に部分公開した、ということだったのかもしれません。
3. 『ザ・マジック・ウィップ』から、あなた自身のフェイヴァリット・トラックをその理由と共に3曲挙げて下さい。
今回のアルバムは中盤から後半に至る流れが素晴らしいと思います。特にこの3曲はデーモンがゴリラズ含めて00年代以降にブラーを離れたところで経験してきた、アフロを筆頭とする新たなビートへの取り組みと、ミックスやマスタリング作業を含むエンジニア的な目線をブラーというバンドに引き寄せることができた大きな成果だと思います。また、歌詞においても特に“ゴースト・シップ”は香港における雨傘革命を意識したものであり、かつて英国支配下にあった香港という場所へのデーモンからの贖罪の意識が綴られていると思います。
4. 『ザ・マジック・ウィップ』と、2014年にリリースされたデーモン・アルバーンのソロ作品『エヴリディ・ロボッツ』との関係性について、教えて下さい。
わずか一年前にあのソロ・アルバムがあったからこその今回のブラーだと考えます。サントラや舞台音楽などはあったものの、デーモンのソロ名義の正式なアルバムとしてはあれが実は最初であったということ、しかも、00年代に何度もアフリカに赴き録音、セッションをしてきた際には一度も個人名をタイトルに出さなかった――それこそが現地の音楽財産に向けられた彼からの細心の礼儀だったのかもしれないですが――デーモンが、ようやく自分の名の下にその成果を形にしたことによって、ブラーのアルバムをしっかり仕上げようという気持ちになったのではないか、と考えるからです。
5. あなたの視点では、グレアム・コクソンの脱退は、どんな理由によるものだと思いますか? また彼の不在は、ブラーに何をもたらしたのでしょうか?
デーモンとの創作意識の隔たりによる確執。音楽的な違いではないと考えます。すなわち、ギターを含めたプレイヤーとしての経験をさらに積み、また、ソングライティングをより深める作業をつきつめていきたいグレアムに対し、そもそも楽器とは何か? 曲を作る作業とは果たして何か? というところから捉え直したいと考えたデーモンとの意識の開きがグレアム脱退につながったのではないかと思います。
6. グレアム・コクソン不在時期の2003年のアルバム『シンク・タンク』と、同じ時期の彼らのライヴ・パフォーマンスに対するあなた自身の評価とその理由について教えて下さい。
当時のライヴは正直言ってほとんど印象に残っていません。アルバムを今聴いても発見はとても少ないです。前年に出していたデーモンの『マリ・ミュージック』は示唆に富んだ作品だったし、グレアムのソロ『ザ・キス・オブ・モーニング』もアメリカ産ブルーズやフォークを消化しようとした意欲的な一枚だったので、ブラーという枠組みはもう必要ないのかも、と思った覚えがあります。
7. グレアム・コクソンの復帰はブラーというバンドに何をもたらしたのでしょうか? また、その結果の最たるものとは何でしょう?
不在時のブラーはピート・タウンゼントのいないザ・フーのようなものだったので、やはりバンドの顔となる花形ギタリストの復活は見た目にもまず重要。最たる結果は、『マジック・ウィップ』における、一聴すると地味でも意外に多彩なギター・プレイに現れていると思います。
8. 『エヴリディ・ロボッツ』や『シンク・タンク』にあって、『ザ・マジック・ウィップ』にはないものとは何か。『ザ・マジック・ウィップ』にはあって、『エヴリディ・ロボッツ』や『シンク・タンク』にはないものとは何か。それぞれについて教えて下さい。
『エヴリデイ・ロボッツ』と『シンク・タンク』は全く異なる位相を持った作品なのでお答えできかねます。ただ、後者の質問に対しては、グレアムがいる、という気持ちを良くも悪くも感じながら制作することでデーモンが得る緊張感は絶対的にあったと考えます。
9. この2015年に最新作『ザ・マジック・ウィップ』をどうしても聞かなければならないという必然があるとしたら、それはどんな理由によるものでしょう。
2015年、アフリカだけではなくアジアの小国も終わりなき民主化運動を進めているという世界的な胎動をポップ・ミュージック・リスナーが改めて自覚するきっかけになる、という点で。
10. あなたなら、あなた自身のCD棚に並べた『ザ・マジック・ウィップ』の両側に、誰の、どのアルバムを並べますか? その理由と共にお答え下さい。
アマドゥ&マリアム『ウェルカム・トゥ・マリ』とVA『ザ・ワールド・イス・シェイキング~クバニズモ・フロム・ザ・コンゴ 1954-55』。実際に自宅の棚ではそうしてます。
今のブラーは私にとってはもう“英国の”バンドではありません。様々な国の中に、これまでになかった現場の中に、自分の身をポンと置いてみた上で発信されるべき音を10年かけて見つけてきたバンド。そういう意味では、ブルックリンの仲間中に西アフリカのフォークを広めたと噂されているデイヴ・ロングストレス率いるダーティー・プロジェクターズや、アフロ・ビートやポリリズムの持つグルーヴをハイブリッドに洗練させてきたアニマル・コレクティヴと、今のブラーは私には同位置です。ルアカ・バップを精力的に動かして中南米の音楽をレコメンドしていた頃のデヴィッド・バーン、リアル・ワールドを通じてアフリカ音楽の紹介に腐心していたピーター・ガブリエルほどに強い教育的観点がなく、あくまでカジュアルなバンドであることを視座にしていることを考えると、隣にはブルックリン勢を置いた方がいいかもいれません。
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