SIGN OF THE DAY

いつが最高? 変わり続けるサイケ音楽の
万華鏡、ディアハンターの傑作アルバム、
トップ3はこれだ! その② by 岡村詩野
by SHINO OKAMURA October 28, 2015
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いつが最高? 変わり続けるサイケ音楽の<br />
万華鏡、ディアハンターの傑作アルバム、<br />
トップ3はこれだ! その② by 岡村詩野

ディアハンターは、アルバムごとにコンセプチュアルなアイデアを打ち出し、次々と姿を変えていくアーティスト。これまで1枚たりとも同じアルバムは存在しません。それ故に、「いつの時代のディアハンターが最高か?」の答えは、リスナー1人ひとりで違うはず。

そこで〈サイン・マガジン〉では、極めて多面的なディアハンターというアーティストの魅力を紐解くべく、3名のライターそれぞれにベスト・アルバム3枚を選んでもらいました。三者三様のアングルからディアハンターの作品をランク付けし、位置付けることで、バンドの多彩な魅力を改めて浮き彫りにします。

第一弾の天井潤之介氏に続き、第二弾には岡村詩野氏が登場。では早速、岡村氏のトップ3を教えてもらいましょう。(小林祥晴)


3. 『Fading Frontier』 (2015)

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この最新作と合わせてウェブ上で発表されたブラッドフォード・コックス自筆によるコンセプト・マップが面白い。ファラオ・サンダース、リゲティから、80年代を代表する音響技術のひとつであるゲート・リバーブ、あるいはチリの詩人であるビセンテ・ウイドブロまで。その興味の対象の広がり方に惚れ惚れとするが、いざ本作に接してみるとそこまでアンビバレントでもハイブリッドでもなく、むしろ一聴するとメロディアスで聴きやすい仕上がりになっているのには考えさせられる。

Pharoah Sanders / Healing Song (Live at the East)


ブラッドフォードがこのコンセプト・マップに自ら記載したリファレンスをどのように取り入れたのかはわからない。だが、かつて、サイケだ、ノイズだ、シューゲイザーだ……などと散々紹介され続けてきた彼が、ここにきてある種のコンフォタブルなアンビエンスさえ感じさせる作品に向かった理由……実際、表面上は聴きやすいが、その断面がとてつもなく混沌としていることは少しでも集中して聴けば誰でも気づくのではないかと思う。そこには様々な苦境、痛みを心の奥に孕ませつつ、そこにそっと安らぎや悟りという名の蓋をしてリボーンしようとするブラッドフォードの姿。そういう意味では、コンセプト・マップの中に、金繕い(金継ぎ)や襤褸といった、本来「再利用」を目的とした日本の伝統技術、民芸が含まれていることは象徴的だ。

Deerhunter / Breaker

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2. 『Turn It Up Faggot』 (2005)

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さて、そんなブラッドフォードには一度だけ取材をしたことがある。2009年、アクロン/ファミリーとの2マンで来日した時のことだが、その時、彼がただ衝動で音を歪ませたりノイズにまみれているのではなく、想像以上に明確なミッションを意識しながら活動していることを知った。「逃避願望のある音と言われるが、僕は自分の人生を変えた音楽を次の世代に伝えていきたいだけなんだ」。そう言ってまず名前を出したのはエコー・アンド・ザ・バニーメンだった。なるほどディアハンターの1stアルバム(本作)には、1978年にリヴァプールで結成され、80年代の英国で一定の評価を受けたあの4人組のソリッドなギター・フレーズが……例えば“オーシャンズ”からは“レスキュー”が、“テック・スクール”からは“ドゥ・イット・クリーン”あたりが想起できる。と、ブラッドフォードに伝えると、彼はちょっと不安そうな表情を浮かべて「リスナーに伝わるといいけど」と呟いた。

Deerhunter / Oceans

Echo and the Bunnymen / Rescue

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その時の最新作『マイクロキャッスル』からそうした側面はほとんど感じられなかったが、ブラッドフォードの出発点はそうした真摯な音楽ファンの目線にあることを当時痛感させられた重要な初作。そしてそれは今もなお変わっていない。そんなことを聴くたびに思い知らされる。


1. 『Halcyon Digest』 (2010)

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そのブラッドフォードとの取材で彼が名前を出してくれたリファレンスの多くが、バニーメンに代表される80年代英国産のネオ・サイケ系バンドたちだったのには薄々わかってはいたもののやはり少々驚かされた。ディアハンターの拠点であるアトランタは、全米で初めて黒人が経営するラジオ局〈WERD〉を開局した町であるように、ブラック・ミュージックの聖地の一つであることに疑いの余地はない。その影響はディアハンターの音楽のどこかに絶対に隠されているはず。それが作品に明確に落とされるのもきっと時間の問題だろう。そう感じていたところに届いたのがこの4作目だった。

「黒人音楽は全て米南部のアーティストから学んだ、俺のサイケは黒人音楽をたっぷりと含んだアメリカ産だ」。かつてそう話してくれたのはスピリチュアライズドのジェイソン・ピアースだったが、ブラッドフォードはその逆で、黒人音楽へのどうしようもない憧れから逃れられなかった英国産サイケを通じてブラック・ミュージックに接近したのではないか。そういう点では、最新作にこちらも英国人のステレオラブのティム・ゲインやブロードキャストのジェームス・カーギルが参加しているのも示唆的だ。

Spiritualized / The Ballad of Richie Lee

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そんなディアハンターの黒人音楽指向を象徴するのが4曲目“セイリング”。これこそ80年代の英ネオ・サイケの連中が黒人音楽への憧憬を美しくカタチにしようとしては未遂に終った、新次代の英国経由アトランタ産のブルーズ・ロックの名曲。ジョージ・ミッチェルによるモノクロ写真があしらわれたジャケットから聴こえてくるのは、アトランタの路上でひたすら祈りを捧げてゴスペルを唱和するブラッドフォードの姿である。

Deerhunter / Sailing

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「いつが最高? 変わり続けるサイケ音楽の
万華鏡、ディアハンターの傑作アルバム、
トップ3はこれだ! その③by 田中亮太」
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