SIGN OF THE DAY

30分で教えます。新世代サイケデリアの
傑作『Kaleidoscopic Anima』を上梓した
ニュー・ハウス、その奔放な軌跡。後篇
by RYOTA TANAKA September 16, 2014
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30分で教えます。新世代サイケデリアの<br />
傑作『Kaleidoscopic Anima』を上梓した<br />
ニュー・ハウス、その奔放な軌跡。後篇

さて、国内に訪れたサイケデリックの時代において、このアルバムはどう位置づけるべきでしょうか。もちろんサイケデリックと言えなくない。けれども、その言葉のみではタグ付けしたくない。むしろ自分はそう感じています。なぜなら、ニュー・ハウスの2ndアルバム『カレイドスコーピック・アニマ』、この作品は、2014年においてきわめて理性的な作品であるように思うからです。とにもかくにも聴いてみましょう。

Kaleidoscopic Anima (full album stream)

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ひろがりのある残響、緩急をつけたリズム、ゆっくりと調子を変えながら永遠に続いていくようなメロディ・ライン。うん、確かにサウンド面では、サイケデリックの諸要素をおさえています。けれども、今作のサイケ感は、前稿で紹介した国内新世代バンドと比較してもまったく別。たとえばハッピーの差し出す魔法じかけのトリップ。ザ・フィンが醸すメランコリックな陶酔。いずれも魅惑的にまどろみへと誘ってくれますが、このアルバムはむしろ逆です。きわめて平熱の心地よさがあります。

だから、いわゆる「彼岸へと突き抜ける」ための音楽ではない。通奏低音にあるのは、もっと地に足のついた想像力。自分とは異なる背景を持った他者に、等しく24時間が流れており、そのなかで営まれている生活があること。それらに対しての、非常にナチュラルな敬意がこのアルバムの基となっているように思います。当時のブルックリン勢と度々比較された2012年の前作には、瞑想しながらより深い場所へと向かっているような、いわゆるサイケな探求の面はありました。それと比較すると、このアルバムはしっかりと歩いて、遠くの場所にいるまだ見ぬ友人を訪れるような、日常と地続きの足音が鳴っているように思うのです。

たとえば、1曲目の“ザ・リバー・シンガーズ”。悠久と流れる大きな河のように広がりと安らぎを醸したこの曲は、コンゴ河付近に暮らすマンベツ族の音楽との近似を感じさせます。8曲目の“ユア・カレイドスコーピック・アニマ pt2”の、小気味良いギター・ストロークには中南米のフォルクローレと同等の凪の如き心地よさがある。『カレイドスコーピック・アニマ』の、のんびりと、おおらか、一切のバッド・ヴァイブのないサウンドは、遠い国で流れている大衆歌謡のようです。ヴォーカリストのYutaがあまりに気持ちよさそうに歌っているので、もはや英語にはほとんど聴こえないこともそうしたイメージに結びついているでしょう。“ドゥ・スプラッシュ・ハニー”、“アルマ・アルバ”などパーカッシヴなビートの曲もありますが、いわゆるドラッギーなトリップ感とは無縁。ちょっとしたウキウキ気分でスキップしているような、健やかさが勝っています。

ヒントとなったのは、彼らがデビュー時から最愛のバンドとして挙げてきた、サン・シティ・ガールズのアラン・ビショップが運営している〈サブライム・フリークエンシーズ〉のカタログでしょうか。サン・シティ・ガールズとは1980年頃から2007年まで活動したアメリカのオルタナ・バンド。50枚以上のディスコグラフィのなかで、ジャンク・ガレージやフリーキーなフォーク、トライバルなエキゾ・ロックなど、多岐にわたる音楽性を貪欲に突き進めていった彼らは、現在のUSアンダーグラウンドの始祖的存在でもあります。6年前、ニュー・ハウスとほとんど同タイミングで、neco眠るの森雄大ももっとも好きなバンドとして挙げてくれ、東西インディのキラ星における奇妙な共通点に興奮したことを覚えています。

Sun City Girls / Blue Mamba


サン・シティ・ガールズへのリスペクトを換骨奪胎したneco眠るの“サン・シティズ・ガール”。

neco眠る/ SUN CITY'S GIRL


そして、〈サブライム・フリークエンシーズ〉は、東南アジアにアラブ諸国、アフリカに中南米までの大衆音楽を積極的に掘り下げパッケージ・リリースしており、そのカタログはニュー・ハウスのメンバーの愛聴盤としてインタヴューなどでも度々登場してきました。

タイの60~80年代のポップス集。

Thai Pop Spectacular (1960's-1980's)


モロッコにてラジオから流れてきた音楽を編集したコンピレーション。

Radio Morocco


ニュー・ハウスの今作には、西欧圏以外も含め多くの文化に属す音楽から受けたインスピレーションが息づいているように思います。ただし、それらをエキゾやエスノといった言葉で語るのはどうにも似つかわしくない気がする。それは、彼らが影響元にある音楽を、旧来のワールド・ミュージック的な嗜好品として愉しむのでなく、それらを鳴らしている他者の実在を嗅ぎ取れているからではないか。伸びやかな歌声、活き活きとしたギターの音色、軽やかに跳ねるリズムを通じて醸し出されるリラクシンなムードは、自らの演奏を介して、地域も時代も異なる音楽家達との近しさを感じているからではないでしょうか。ご存じのように、現在において、違いは恐怖を介し、ひどくイージーに憎悪や暴力へと姿を変えることがあります。この音楽は、そんな2014年という時代を声高に告発するのではなく、文化を丹念に見つめることで、自然と愛おしさを獲得していくという態度を軽やかに示しているように思います。それは2014年にとってなによりのカウンターとなっているでしょう。実にアクチュアルな作品だと確信しています。

このアルバムと非常に近い感慨を受けた作品が、同じ時期にありました。それは、本日休演というバンドのPV“ひとりランデブー”。

本日休演 / ひとりランデブー


バンドの友人であり、当時タンザニアに留学していた小池茅が撮ったそれは、現地のマサイ族の人の生活をとらえたもの。実際に暮らしている人間ならではの、フラットな眼差しが心地よい。

6年前のニュー・ハウスは、今のハッピーやザ・フィンと同じ「恐るべき子供達」といった風体を匂わせていました。不遜で、繊細で、そしてどこまでも飛べそうな予感に満ちていた。ただ、時が過ぎ、今やニュー・ハウスは飛ぶことを必要としていない。彼らはしっかりと地面に立ち、世界を見つめている。昼間、コーヒーを飲みながら制作されたという、日常的な場所から産まれたこの音楽は、やはりサイケという言葉では語りきれないでしょう。『カレイドスコーピック・アニマ』は子供の音楽じゃない。インディ・シーンの先駆者は、気がつけば誰よりも早く大人になっていました。

New House / Blow Wind Blow

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30分で教えます。新世代サイケデリアの
傑作『Kaleidoscopic Anima』を上梓した
ニュー・ハウス、その奔放な軌跡。前篇
はこちら。


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