SIGN OF THE DAY

この2016年の夏、〈サマーソニック〉で
レディオヘッドを観ておかないと絶対に
後悔する10の理由 part2-セットリスト編
by SOICHIRO TANAKA May 31, 2016
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この2016年の夏、〈サマーソニック〉で<br />
レディオヘッドを観ておかないと絶対に<br />
後悔する10の理由 part2-セットリスト編

この2016年の夏、〈サマーソニック〉で
レディオヘッドを観ておかないと絶対に
後悔する10の理由 part1-総論編


レディオヘッド『ア・ムーン・シェイプド・プール』合評



レディオヘッドというバンドは、個々のツアーに入る前に、多い時は50曲から60曲に及ぶ膨大な曲数のリハーサルを行います。これだけでも彼らが通常のバンドとは違うことがわかるでしょう。

1日のライヴで実際に演奏される曲数はおよそ20数曲。セットリストは本編とアンコールを併せて、およそ5つのユニットに区分された構成になっていて、毎回のライヴごとに各ユニットの楽曲を入れ替えていきます。あるユニットでは新曲中心、あるユニットでは新旧のトラックを毎日入れ替えていく。フルセットの演奏曲もあれば、ほぼピアノ弾き語りの曲もバランス良く配置していきます。

一回、もしくは、二回のアンコールはもっとフレキシブルになります。つまり、その組み合わせは無限大。毎回、まったく違ったセットリストを用意してくる。しかも、当日までまったく予想がつかない。当然、ツアー中でたった一回きりしか演奏しない曲もあります。世界中の多くのファンが彼らの諸外国のツアーを追いかけ、世界中を旅する理由がこれです。

なので、レディオヘッドほど、当日のライヴを迎えるまでのワクワク感を感じさせてくれるバンドはいない。三流のバンドと三流のファンの間で頻繁に囁かれる「セットリストのネタバレ」という言葉がありますが、レディオヘッドのツアーにはそういったレベルの低い概念は存在しません。ここはスクショっておいて下さい。

事前にそれまでのツアーのセットリストをすべてチェックしていたとしても必ず当日の驚きがある。むしろそれまでのツアーのセットリストをチェックすればするほど、当日への期待が高まるという希有なバンドなのです。

では、この2016年の夏、〈サマーソニック〉でレディオヘッドを観ておかないと絶対に後悔する10の理由、後半のセットリスト編に移りたいと思います。




7. フェス仕様ではない長尺セットリストだから

「えー、だったら、なおさら〈サマーソニック〉みたいな大型イヴェントじゃなく単独公演で観たいよ! だって、フェス仕様のセットリストじゃ、曲だって少なくなっちゃうじゃないか!」という無知な若者の声が聞こえてきそうですが、ご心配なく。大丈夫です。

レディオヘッドというのは自らの創造性を貫くことに関してはどこまでも傲慢なバンド。しかも、そもそも生粋のフェス嫌い。あらゆる業界の慣例を毛嫌いしているバンドなのです。だから、いわゆるフェス仕様のライヴなどやらない。なので、安心して下さい。

参考までに2006年の〈ボナルー〉でのライヴ動画を貼っておきましょう。全28曲、優に2時間を越える長尺のセットリストです。

Radiohead / live at Bonnaroo Festival 2006


先ほど、業界の慣例を毛嫌いしているとは書きましたが、正確に言うなら、レディオヘッドというバンドは、いついかなる時もただベストを尽くそうとしてきただけ。ごく当たり前のことをしてきただけなんですけどね。以前、トム・ヨークが某ストリーミング・サーヴィスのことを扱き下ろしたりしたことが世界的なニュースになったりもしましたが、それにしたって、ただひたすら当たり前のこと――「2+2=5ってのは違うんじゃないの?」と言っただけの話です。

ただ実際のところ、気がつけば、音楽業界の誰かの都合で作りあげられた「2+2=5」という不条理な慣例に誰もが仕方なく首を縦に振ってしまう。同調圧力に従ってしまう。あるいは、それが当たり前だと、ごくごく穏やかに洗脳されてしまう。実際、そんなことだらけですよね? それゆえ、彼らはごく当たり前なことを言ったり、やったりしてるだけなのに、どこかいろんなものに楯突いているように見えてしまう。それだけの話です。

いずれにせよ、彼らの場合、自らの単独公演と同じ手の込んだライティングをセットアップしたり、入念なサウンドチェックを行ったり、それが出来ないフェスティヴァルには出演しない。勿論、それが可能になるメイン・アクトでなければ出演しません。セットリストに関しても、通常の単独公演と同じか、それ以上のセットリストを用意するバンドなのです。だからこそ、安心してもらっていい。

極論すれば、彼らが出演する当日の〈サマーソニック〉は、レディオヘッドの単独公演に豪華サポート・アクトが何十組も付いてくる。そんな一日でもある。そんな風に解釈してもらえばいいわけです。チケット代金こそ少しばかり値が張りますが、いわゆる大御所アクトのチケット代よりは安いわけだから遥かにお得です。



8. ずっと封印されてきた90年代の代表曲がふんだんに演奏されるから

これはやはりもっとも重要なポイントでしょう。5月31日現在、ここまで行われた8公演のセットリストを見る限り、今回のツアーにおけるレディオヘッドは、何年もの間、ほぼ封印してきた90年代の曲を次々と演奏しています。この10数年の間の彼らのツアーにおいて、これはかなり異例なこと。ただこれは、97年の『OKコンピュータ』、95年の『ザ・ベンズ』に収録された曲を生で聴く機会の少なかった若いファンにとっては福音と言ってもいいかもしれません。

既にツアー初日のアムステルダム公演から、7年ぶりに『ザ・ベンズ』から“マイ・アイアン・ラング”が演奏されている。若いファンのために95年当時のライヴ動画を貼っておきましょう。

Radiohead / My Iron Lung


当時、“クリープ”だけの一発屋という誹りを受けていた彼らが「これが僕らの新曲/この前のと変わらない/まったくの時間の無駄」というリリックによって、観客の多くがバンドに自分が聴きたい曲だけを求めたり、そうした磁場に苛まれたバンドが以前とは似たような曲しか作らなくなってしまうことを皮肉り、そうした状況そのものを人工心臓に繋がれることで無理やり活かされる少年というアナロジーで表現した曲です。そんな曲をこの2016年に7年ぶりに演奏したというのは、それなりに意味深ではあります。ただおそらくは単純な話、時代が一巡したということなのでしょう。

しかも、90年代の曲が演奏されると言っても、前回のツアーで演奏される90年代の曲は一回のショーでせいぜい2、3曲でした。しかし、今回のツアーではほぼ平均4曲。大した違いはないじゃねーか。と思われるかもしれない。でも、これまでのレディオヘッドの法則からすれば、これはかなり異例なこと。

演奏される90年代の曲の合計も以前よりも多い。前回の『キング・オブ・リムス』のツアーで演奏された90年代の曲は10曲前後。しかし、今回のツアーでは8回のライヴの間にもはや12曲が演奏されています。これから先、初めて演奏される曲が増えていっても少しもおかしくない。絶対に山ほどの曲をリハーサルしてますからね。

3日連続して行われたロンドン公演最終日のセットリストには事前に名前が挙がっていながら、結局、演奏されなかった“ナイス・ドリーム”とか、久しぶりに聴きたい。と個人的にも思ったり。

Radiohead / Nice Dream (Pinkpop Festival 1996)


前述の“マイ・アイアン・ラング”と同じく、7年振りに演奏されたのは、『OKコンピュータ』から“ノー・サプライゼス”、『パブロ・ハニー』から“クリープ”。これはなかなかに楽しみです。

前回のツアー、2012年の〈フジ・ロック〉における最大のサプライズでもあった、『ザ・ベンズ』冒頭を飾る“プラネット・テレックス”がアンコールで演奏された時のような、思わぬ曲が飛び出す可能性だってあります。以下に貼ったライヴ動画は2012年のパリ公演のもの。オーディエンス・ショットなので状態は決して良くはありませんが、イントロでの両手を大きく掲げるトム・ヨークのポーズだけでご飯3杯はいけます。

Radiohead / Planet Telex (live in Paris 2012)


旧来のいわゆる「ギター・ロック」を封印したがっていた時代、特に『キッドA』~『アムニージアック』のツアーでは、90年代の曲をこんな嬉々とした表情で演奏する彼を見るのは難しかった。やはり時代が一巡したんだと思います。

いずれにせよ、特に90年代をリアルタイムで経験したことのない若いファンは、今回の〈サマーソニック〉でのステージを見逃さない方がいい。ここから始まる歴史は、我々年長者のものではありませんから。皆さんのためのものです。



9. 総合的に言って、今回のツアーのセットリストが最強だから

実際、ここまで8回のライヴのセットリストを確認する限りにおいては、総合的に言って、今回のセットリストはレディオヘッド史上においても最強なんですよ。特に、その新旧取り混ぜた絶妙なバランス。これは20数年の彼らの歴史の中でもほぼ初めてのこと。

これまでのすべてのツアーの中でも、今回の『ア・ムーン・シェイプド・プール』ツアーがレディオヘッド史上最強のツアーになる可能性がある。ただ、そうなるためには彼らが越えなければならないハードルがひとつだけ存在します。

例えば、92年の『アクトン・ベイビー』が今もU2の最高傑作だと呼ばれる所以は、そのツアーの説得力にもありました。「ポップ史におけるもっとも偉大なツアーは何か?」という問いに対して、必ず先ず最初に名前が挙がる〈ZOO TV〉ツアーがそれです。時間が許す時にでも是非、観て下さい。これは本当に凄い。

U2 / Zoo TV Outside Broadcast (1992)


ライヴ冒頭から連続して新作『アクトン・ベイビー』から7曲を演奏。しかも、それが最高なわけです。「最新作こそが最高傑作であり、そこからの曲を演奏したい」というバンドの気持ちと、「まさにそれを聴きたい」というファンの気持ちが見事に合致した時のライヴほど奇跡的なケミストリーが引き起こされる場はありません。

レディオヘッドの場合であれば、2000年のツアーがこれに当たります。同時期に録音された双子アルバム――『キッドA』と『アムニージアック』のリリースの合間に行われたツアーですね。

セットリスト20数曲のおよそ半分がその双子アルバムから。残りは『OKコンピュータ』と『ザ・ベンズ』からほぼ半数ずつ。これは流石に凄すぎる。有史以来、そんな珠玉のセットリストを持ったツアーなんて存在したんでしょうか。これについてだけはビートルズもディランも越えられないんじゃないか。

勿論、その後の、2008年~2009年の『イン・レインボウズ』ツアーも素晴らしかった。そもそも彼らの最高傑作をどの作品だと考えるか? ――勿論、これには諸説あるわけですが、特定の時代のエピステーメー全般に対するアクチュアリティ、波及力からすれば、やはり『キッドA』/『アムニージアック』を挙げないわけにはいかない。しかし、アルバム1枚のトータルな完成度からすれば、『イン・レインボウズ』がそれをも凌ぐという視点もあります。

ただ、2008年~2009年の『イン・レインボウズ』ツアーというのは、最新作以外のアルバムからの選曲が少しばかり恣意的だったんですね。『イン・レインボウズ』+旧作からまんべんなく、というセットリストには満漢全席感はあっても、全体の統一感、シームレスな流れに欠ける部分がなくもなかった。勿論、これはこれで最高だったんですけど。

中には2009年の〈レディング〉のように、いきなり1曲目から“クリープ”なんて驚愕のセットリストもあった。勿論、これが最高だったのか、むしろ少しばかりバランスに欠けていたのか、なんてこと一概には判断出来ないところです。贅沢な話ですが。

Radiohead / Live at Reading Festival 2009


ただ少なくとも、それに比べると、今回のツアーのセットリストはかなり練り込まれています。これは間違いない。

では、果たして今回のツアーは件の2000年のツアーを越えられるのか? まあ、正直わかりません。といきなり無責任ですが、実際、筆者もまだライヴを観てませんからね。特に最新作『ア・ムーン・シェイプド・プール』の曲がどのようなこなれた形でライヴでは演奏されるのか? ――その、もっとも期待すべき点がもっとも未知数なんですから。それに出来ることなら予想はしたくない。ただワクワクしたいだけ。で、実際、とにかくワクワクしている。その興奮をお伝えしたいだけなんです。少なくともそれを期待させるだけの条件は揃っている。なので、皆さんもとにかくワクワクしながら、当日を迎えて下さい。



10. 日本だけでしか聴けない曲を演奏する可能性もある

レディオヘッドほどオーディエンスの反応やヴァイブにライヴの出来、不出来が左右されてしまうバンドも少ない。というのは前述した通りです。そのポイントから考えると、今回の〈サマーソニック〉の彼らのライヴに対する唯一の不安要素はまさにこれです。正直、今の日本のオーディエンスのおけるレディオヘッドに対する知識と信頼というのは全世界的に見ても、かなり低いんじゃないか。と、最後はいらぬ嫌がらせから始めてみましょう。

しかし、彼らの初の日本ツアーが行われた94年。当時、どこまでもレコーディングが難航していた2ndアルバム『ザ・ベンズ』を最終的に傑作たらしめたのは、その94年のツアーでの日本の観客がいまだレコードになっていなかった新曲に熱狂的な反応を示したのが一番の理由でした。極論するなら、彼らの最初の黄金時代は94年の日本ツアーから始まったと言っても過言ではない。

しかるに、欧米のバンドのファン・ベースが日本よりもアジア諸国の方が大きくなりつつある今でも、ここ日本の地は彼らレディオヘッドにとっては特別な場所なんです。それは94年以来、今も昔も変わらない。

例えば、その後、10年の月日を経て、ようやく2007年の『イン・レインボウズ』に収録されることになった“ヌード”が世界中で初めて演奏されたのも、98年初頭に行われた『OKコンピュータ』ツアー東京会場でのことでした。勿論、現在の印象的なベース・ラインをコリン・グリーンウッドが発見する以前の、言わば習作状態のヴァージョンではありますが。

Radiohead / Nude(1998)

Radiohead / Nude


ただ、彼らにとっても飛びきりの自信作だったこの曲の初演は日本だったんです。そのショーの後、筆者がボックス・オフィスでのトラブルで会場に入れなかったのをトム・ヨークが知った時、「ゲスト・リストに入れておいたのに!」と怒られたくらいですから。

やはり日本の観客は彼らにとって特別なんです。勿論、前述の2003年の〈サマーソニック〉において、予定外の“クリープ”を演奏したこともしかり。それゆえ、今回もここ日本でしか演奏されない曲、そんなサプライズがあるかもしれない。

個人的には2011年に7インチとダウンロードでのみリリースされた“ザ・デイリー・メール”が聴きたいんですけど、でも、特に若いファンには、これじゃない、ですよね。すいません。

Radiohead / The Daily Mail (live 2012)


ただ、何度も繰り返しになりますが、かつての世界中でのいくつものサプライズを用意したのはフィールドを埋めた観客の力。バンドと観客の間の親密な関係性がもたらしたものです。勿論、彼らはそれぞれの国のオーディエンスに対して何かしら色眼鏡やイメージで接するようなバンドではありません。ただ、目の前の観客のリアクション如何によって本人たちも思ってもみなかった最大の力を発揮する。実際、その積み重ねによって歩を進めてきた。彼らの歴史はそうした世界中の観客たちと共に作り上げてきた、いくつものとても幸福な対話の轍です。

少しばかり大袈裟に言うなら、レディオヘッドのライヴというのは、すべての優れたアートがそうであるように、観客を単なる「受け手」というスペクタクルの奴隷に陥れてしまうのではなく、その当事者としての意識を刺激し、能動性と創造性を促す装置にほかなりません。

だからこそ、今年の夏、東京、大阪両日の〈サマーソニック〉において、観客のひとりひとりが単なる目撃者ではなく、その当事者になり、その共演者になることにより、最高の時間を作り上げること。それこそが奇跡を巻き起こす最大の鍵になります。2016年の夏、あなたの知性と能動性によって最高の時間と空間を実現させて下さい。


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