SIGN OF THE DAY

30分で教えます。ミニマル・テクノの帝王、
リッチー・ホウティンの24年間の偉業。
プラスティックマンの凄さ。part.1
by YUSUKE KAWAMURA June 30, 2014
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30分で教えます。ミニマル・テクノの帝王、<br />
リッチー・ホウティンの24年間の偉業。<br />
プラスティックマンの凄さ。part.1

いまやミニマルの帝王となったリッチー・ホウティン。ベルリンのイメージも強く、ここ10年ほどの活躍からは意外かもしれないが、そのキャリアの出自は「デトロイト」にある。ベルビル3(ホアン・アトキンス、デリック・メイ、ケヴィン・サンダーソン)を筆頭としたデトロイト・テクノ第一世代に続く、第二世代として頭角を表したことがキャリアの突端だ。

リッチーはイギリス生まれ。幼少の頃に父親の仕事の関係でデトロイト川を挟んだデトロイトの対岸、カナダはウィンザーに移り住んだ。80年代末、ハイティーンになる前に、すでに対岸からFM電波にのって流れてくるウィザード(ジェフ・ミルズ)のDJプレイで、弟とともにエレクトロニック・ミュージックを楽しみ、そしてデトロイトのクラブにも入り浸るほどであったという。

そのデトロイトのクラブとは、チェ・ダミア、アルトン・ミラー、デリック・メイらが運営していたミュージック・インスティチュートである。シカゴ・ハウスを生み出したシカゴのアンダーグラウンド・クラブに着想を得てスタートしたもので、そこでリッチーはテクノに親しみ、デリックなど、いわゆる第一世代のアーティストとも交流をもち、後述のケニー・ラーキンらとも会っていたのではないだろうか。

曲作りを進めていたリッチーは1990年に、一世代上のイタリア系カナダ人DJ、ジョン・アクアヴィヴァとともにレーベル〈+8〉を始動させる。〈+8〉とは、テクニクスのターンテーブルの名機SL-1200シリーズのピッチ・コントローラーの最大値のことを示している。DJの際に、テクノをエネルギッシュにプレイするためにBPMを速めること、つまりはレーベルのサウンド・コンセプトとして、スピード・アップしたハードコア・テクノがひとつそこにあったことを示している。

レーベルの第3弾としてリリースされた初期の看板ユニット、ジョンとリッチー、そして若きダニエル・ベルが参加したサイバーソニックの作品は、同じくデトロイト・テクノ第二世代の筆頭となるマッド・マイクとジェフ・ミルズ、ロブ・フッドの〈アンダーグラウンド・レジスタンス〉の初期作や、ニューヨークのジョーイ・ベルトラムの“エナジー・フラッシュ”とともにハードコア・テクノの洗礼として、ヨーロッパのダンス・カルチャーを襲うことになる。1990年代に入り、初期の理想郷が崩壊した、レイヴ・カルチャーの荒廃した状況に、ハード&ダークなサウンドが熱狂的に受け入れられ、多くのフォロワー・トラックが増大していった。シーンの一部は刺激を追い求め、よりハードに、よりエクストリームになっていったのである。

Cybersonik / Technarchy

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とはいえ、初期〈+8〉のリリースには多様性がある。ハードコアだけではない。1990年のファースト・リリースはジョンとリッチーのユニット、ステイツ・オブ・マインドで、モロにデトロイト・テクノへの敬意をサウンドにしたようなハウス・サウンドを展開している(ハウスという意味ではその後、ハウス・サブ・レーベル〈ディヴィニティヴ〉を立ち上げるジョンの趣向かもしれない)。また、カタログ・ナンバーの2番は、ケニー・ラーキンの楽曲だ(すぐにケンカ別れとか)。彼はカール・クレイグと並んでデトロイト正統派第二世代と言えるだろう。そして続くサイバーソニックにて、ようやくハードコア・サウンドの到来を告げるのだ。リッチーのハードコア・サウンドは、ディスコのガレージ・ヴァージョンとも言えるシカゴ・アシッドの粗野な感覚を、さらにテクノとしてエクストリームな実験性で展開したもの。そう考えればその後の彼の作品とも非常に整合性が付く。

彼らやURのサウンドは、1993年あたりにピュアなデトロイト・サウンドがリヴァイヴァルとしてヨーロッパのシーンで再評価されるまで、デトロイトにシーンの注目を集めさせ続けた。ヨーロッパのハードコア・テクノ・フォロワーをけちょんけちょんに罵っていたデリック・メイですら「〈UR〉と〈+8〉がデトロイト・テクノを延命させた」と一定の評価を与えている。

また、彼らがハードコア・テクノのオリジネイターであることを考えれば「実験性と先進性」を是とするデトロイト・テクノの精神性にも合致する。そして、その精神性の通り、ハードコア・テクノをさっさと捨て、例えばURのジェフとロブはハード・ミニマルを、マイクはブラック・ミュージックとしてのテクノを開拓し、新たなフィールドを作り出す。そしてリッチーはアシッド・ハウスをさらなる実験のフィールドとして追求していく。

1990年には、ある種のテクノの実験を押し進めるプレ・プラスティックマンとも言えるF.U.S.E.(Further Underground Sound Experiments)名義も立ち上げて、“アプローチ・アンド・アイデンティファイ”をリリースしている。シカゴ・ハウスの狂気を、デトロイト・テクノの未来的なヴィジョンと実験性で進化させたそのサウンドは、まさに彼のキャリアの突端を象徴するものだ。

これらの作品が設立1年の動きの中で、そしてひとつのレーベルから1年でリリースされた作品というのも驚きではないだろうか。ハードコア路線に関しては、初期1年ほどは様々な名義でサイドワーク的にリリースしていくが、むしろヨーロッパの盛り上がりに反比例するように収束。彼のアーティストとしての側面はF.U.S.E.などに集約していくことになる。

F.U.S.E / Approach and Identify

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1991年にリッチーは、約2年後のヨーロッパのシーンを大きく動かしてしまう2作のシングルをリリースする。ひとつはF.U.S.E.の“サブスタンス・アビューズ”/“F.U.2”、そしてもうひとつは〈+8〉のサブ・レーベル〈プローブ〉からの、サーキット・ブレイカー“オーヴァー・キル”である。どちらも“アシッド・トラックス”をさらに高度に発展させたようなハード・アシッド・サウンドであった。これらの作品は、ジャーマン・トランスの広がりとともにヒットした1992年のハードフロア“ハートトランス・アクペリアンス”の青写真とも言われ、そのヒットのなかで巻き起こった1993年頃のアシッド・リヴァイヴァルで再評価されたのだ。

F.U.S.E. / Substance Abuse

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Circuit Breaker / Over Kill

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さて、1992年に戻すと、この年〈ワープ〉はある種のリスニング・ミュージックとして、そしてレイヴ・ツールからも解放されたテクノの方向性として、インテリジェンス・テクノを唱え、〈アーティフィシャル・インテリジェンス〉をサブ・レーベルとして立ち上げた。まずはそのマニフェストたるコンピ『アーティフィシャル・インテリジェンス』をリリースし、ついでアーティスト・アルバム単位で作品をリリースしていったのだ。インテリジェンス・テクノというネーミング・センスに様々な批判も浴びたシリーズだが、チージーなレイヴ・ミュージック=テクノという状況に対する、ひとつのオルタナティヴな意志として、そしてアルバム単位の作品をリリースしていくという姿勢から、シーンの一定の賛同も集め、その後のデトロイト・リヴァイヴァルとの共振、さらにはエレクトロニカの勃興も促すことになる。この動きのなかでオウテカやブラック・ドッグは発掘されるなど、良き面も多い。エイフェックス・ツイン、そしてリッチーもこの列に加わることになるのだ。コンピにはリッチーはUP!名義で“スピリチュアル・ハイ”という楽曲で参加している。

1993年の夏には、この流れのなかでリッチーは、F.U.S.E.名義の楽曲を集めたアルバム『ディメンション・イントゥルージョン』を〈アーティフィシャル・インテリジェンス〉からリリースする。ちなみにジャケットは弟のマシュー・ホウティンによるものだ。これをある種の区切りとしてF.U.S.E.名義の作品はリリースされなくなる。しかし、それと入れ替わるようにリッチーのメイン・プロジェクトとして表出するのがプラスティクマンである。本アルバムに収録の“スラック”が、いくつかのインタヴューによればプラスティックマンとしての楽曲だという。まぁ、まさにそんな音。

F.U.S.E. / Slac

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1993年の秋、ヨーロッパでのリリースに関して〈ノヴァ・ミュート〉(名門〈ミュート〉のダンス部門)と契約したリッチーは、プラスティクマン名義でアルバム『シート・ワン』、そしてシングル“スパスティック”をリリースするのだ。『シート・ワン』の音楽性は、アシッド・ハウスの幽霊というか、“アシッド・トラックス”の狂気とサイケデリアだけを増幅してアンビエント・タッチに変換したかのような作品で、静寂のなかを、蛇のような電子音が「気持ち悪い」気持ち良さを、するりするりと這いずりまわりながらコチラの頭のなかに持ち込んでくる。前述のようなハードフロアのハード・アシッドやジャーマン・トランス、プログレッシヴ・ハウスの風が吹いていた、当時のテクノ・シーンとしては極めて特殊な作品であった。また、LSDのシートを模したそのジャケットも話題になった。

極めつけは、シングルの“スパスティック”である(アルバム未収録)。スネア・ドラムとハイハットの連なり、キックだけで構成される作品だが、徐々にそのフロアでの発狂誘発度が話題となり、いつしかフロア・ヒットに。そして現在でもプレイされるダンス・フロアの古典ともなった。ミニマル・テクノが一般的になった現在においても、この音の少なさは特殊なものではないだろうか? ちなみに、この感覚に対しての、その当時の驚きを知らせるものとして同年のアンセムをひとつ挙げてみようじゃないか。そう、アンダーワールドの“レズ”が同年のアンセムのひとつである。その差は大きい。

Plastikman / Sheet One (Full Album)

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Plastikman / Spastik

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彼はアシッド・ハウスやテクノが持つ、狂気の、そしてサイケデリックな要素を、サウンドの色彩ではなく、その骨組みたる構造を理解し、抜き出し、その秘密を使用することによって独自のサウンドを作りだしたのだ。これは、その後のリッチーの作品の根幹となるものだ。“スパスティック”の発明は、コード進行やメロディといった価値観から完全に逸脱した、ある種の実験音楽でありながらポップ・ミュージックと同様、多くの人々を熱狂させることはできるということを示したのだ。これはある意味でテクノという音楽の本質を凝縮したものでもある。

『シート・ワン』で表現される世界観、そして“スパスティック”の発想は、1994年の2nd『ミュージック』にもそのまま引き継がれていくことになる。とはいえ、そのスカスカで実験的な「ミニマル」な作品は、まだまだDJツール以上の余韻を残していて、ディープ・ミニマルのルーツではあるが、そのスタートと言うには心もとない感覚があるのも確かだ。

Plastikman / Plastique

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前述のハードフロア発のアシッド・リヴァイヴァルの余波を受けて、1994年、すでにシーンに大量に存在するようになっていた「わかりやすい」アシッド・サウンドからは遠のいていたリッチー。しかしながら、ロボットマン(これはジョンの〈ディフィニティヴ〉からリリースされていた)の“ドゥ・ダ・ドゥー”のプラスティックマン・ミックスを、あえてわかりやすいアシッド・スタイルのミックスにしてヒットを飛ばしている。ちなみにロボットマンとは、ある種のジョークとしてリッチーが行っていたサイド・ハウス・プロジェクトで、その正体は隠され、彼の父親や伯父のプロジェクトという噂まで流れたものだ(〈ノヴァ・ミュート〉盤のジャケットにはリッチーの父親が!)。オリジネイターの余裕といったところだろうか。

Robotman / Do Da Doo (Plastikman's Acid House Remix)

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リッチーは、ココまでの時期、プラスティックマンの2ndまでの流れによってそのサウンド・スタイルを確定したと言えるだろう。このスタイルは、リッチーのある種の揺るぎない表現の土台になっていく。さて「リッチーのキャリアを前後編で!」という『サイン・マガジン』からの発注ではあるが、前半はコレにして終了としよう。「1994年? キャリアの4年ぶんじゃん、まだ20年あるじゃん!」という話かもしれないが、めまぐるしくスタイルを変えた初期に対して、この後の変化はさらに揺るぎないものとしてリッチーの2000年代、そしてその先にある2014年へと続くため、ここがキリが良いのだ。最後に、1995年にリッチーが『ミックスマグ』誌に提供、その後、CDでもリリースされたミックスをコチラに。まさに、この時期までのリッチーの集大成で、現在の視座からすると前述のように丁度区切りの作品と言えそうな感覚があるのだ。

ということで前編はここまで!

Richie Hawtin / Mixmag Live Vol 20

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