SIGN OF THE DAY

孤高のモダン・ロックンロール・バンド、
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。
その②:キュレーション by 青山晃大
by AKIHIRO AOYAMA July 31, 2014
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孤高のモダン・ロックンロール・バンド、<br />
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。<br />
その②:キュレーション by 青山晃大

5. The Underdog (2007)

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1996年にデビューし、今では20年近いキャリアを誇るUSインディ・シーン屈指の実力派として誰もが一目置く存在となったスプーン。だが、彼らは決して最初から恵まれた存在というわけではなかった。彼らの名前を一部の偏愛的USインディ・ファンだけに留まらず、世界中の音楽リスナーに知らしめるきっかけとなったのは間違いなく2007年リリースの6作目『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』、そしてこのリード・トラック“ジ・アンダードッグ”だろう。ヴォードヴィル時代を思わせるようなゴージャスなブラス・セクションに彩られた中で歌われる、「負け犬」に対する皮肉めいた言葉。ジョン・ブライオンをプロデュースに迎えたことも手伝い、スプーンのディスコグラフィ内でも最もポップな仕上がりとなったこの曲は、今振り返ればスプーンにとっては少々異色と言える。しかし、その異色なポップさゆえにスプーンはデビュー10年にして、ようやく世界中に存在を認められることになった。

4. Anything You Want (2001)

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『ステレオガム』は、スプーンを「ヘッドフォン・リスニングが必須となる最初のインディ・ロック・バンド」と称している。そう、彼らの真骨頂は入念なスタジオ・ワークによって音の定位、配置などに緻密な処理を施し、生々しくロウなエナジーと斬新なプロダクションを両立させたロックンロール・サウンドにある。そのスタイルが最初に露わになったのは、メジャーでの苦い経験の後〈マージ〉と契約を交わして制作された2001年発表の『ガールズ・キャン・テル』。ここで彼らはピアノを新たな中心楽器として用いることで、ギター主体の過去から一歩を踏み出した。ゆったりとした立ち上がりから、あらゆる空間の隙間を縫って次々と飛び出してくるピアノやギター、シンセサイザーのフレーズ。様々な趣向を凝らしつつも、アイデア偏重に陥ることなくポップ・ソングとして成立している見事なバランス感覚。クッキリとした距離感で1つ1つの出音を配置する手法には、ストロークスの1st以降のロックンロールにも通じるものがあると思う。

3. Small Stakes (2002)

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『ガールズ・キャン・テル』以降、スプーンは人知れず2000年代以降のインディ・ロック・サウンドを予見するような楽曲を次々と作り上げていく。翌2002年の『キル・ザ・ムーンライト』のリード・トラック“スモール・ステイクス”は、くぐもったシンセサイザーの重層的なリフと性急なタンバリンの鳴りだけでヒプノティックなダンス・グルーヴを形作っていく、その後のディスコ・パンク~ポストパンク勢にも通じる1曲。2002年と言えば、〈DFA〉が一部のダンス・ミュージック・リスナーに発見され始めたばかりの時期で、彼らスプーンがどれほど意識的だったのかは分からない(おそらくは全くの無意識だっただろう)。いずれにせよ、この曲はスプーンにとっても最も攻めのプロダクションに傾いた野心的な1曲と言っていいだろう。ラスト30秒になってようやく現れる、ジム・イーノによる堰を切ったようなドラムの乱打が凄まじい。

2. Sister Jack (2005)

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ただ奇抜なのではなく、ロックンロールの枠内にある伝統を踏まえた上でのプロダクションにおけるユニークさはスプーンの大いなる魅力だが、その根幹を支えているのはブリット・ダニエルによるソングライティング。そのメロディ・センスが特に際立つ楽曲の1つが2005年リリースの『ギミ・フィクション』のハイライトである“シスター・ジャック”だ。BPM130のシンプルな8ビートに、オープン・コードを主体とした王道的なロック・ソング。スタジオ・ワークへのこだわりも手伝って、どこか密室的な質感が強かった以前とは異なり、この楽曲ではヴィデオにも象徴される晴天の青空が眼前に浮かぶ開放感が全編を貫いている。王道を行きながらも、普通ならギター・ソロが入るべきパートで実験的なノイズを挿入する辺りの遊びの部分も絶妙。『ギミ・フィクション』は、彼らにとって初めての全米トップ50入りを果たし、次作『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』での大ブレイクへと至る重要な布石となった。この“シスター・ジャック”はようやく吹き始めた時代の追い風を背にしたことを感じさせる、スプーンにとって最初のアンセム・ソングである。

1.You Got Yr. Cherry Bomb (2007)

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時代の機運とバンドのクリエイティヴィティが奇跡的な邂逅を見せた1枚として、スプーンの最高傑作に『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』(2007年)を推す人は多いんじゃないだろうか。僕もその1人で、本稿の執筆にあたって彼らのディスコグラフィを振り返ってみても同作のクオリティは頭1つ抜けていると思う。それぞれの楽曲の粒立ちが凄まじく、本作を聴いていると思わず5曲全てを同作の収録曲から選んでしまいそうになるほど。その中でも最良の1曲を選ぶとすれば、〈モータウン〉の名曲群にも匹敵するくらいパーフェクトなポップ・ソング、“ユー・ガット・ユア・チェリー・ボム”になる。印象的なピアノで幕を開けるイントロ。タンバリンが絶妙なシャッフルを演出するビート。勇壮なブラス・セクション。そして、胸を高ぶらせるメロディと工夫を凝らしたコーラス・パート。『ガ・ガ・ガ・ガ・ガ』に至るまでのスタジオ・ワークにおける音楽性の拡張を端々に活かしつつも、ポップ・ソングの古き良き伝統フォーマットに則って作り上げた珠玉の3分間だ。



孤高のモダン・ロックンロール・バンド、
スプーン、オールタイム・ベスト5曲。
その③:キュレーション by 天野龍太郎
はこちら。

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