世の中何が流行るかわからない。ポストモダン状況が快調に進行している今の時代だったらなおさら。ゼロ年代には80年代が流行って、今は90年代がキテるっていう「20年周期説」にはそれなりの説得力があるけど、それだけじゃ説明しきれない何かがある。っていう感覚は年々強まっていると思うんです。
歴史的な文脈とは全然関係なく、いきなり何かがポンッとリヴァイヴァルする。で、それは小さなトレンドとして音楽シーンに浮上することはあるけど、それぞれのアーティストが個々のまったく違った回路からそのサウンドに到達しているバラバラな状況だから、かつてのように大きなムーヴメントにはなりにくい。そんな感覚、ありますよね? 良し悪しは別にして。
まあ、だから、基本的にこういった最近の動きってまとめようがないんですけど、今ちょっと気になっている流れのひとつを、無理やり、ふわっとまとめてみました。小一時間ほどで。題して、トラッド/ブルーズ/ソウル・ルネッサンス。トラッド、ブルーズ、ソウル、って時点でふわっとし過ぎなんですが。でも、かつてはレトロの一言で切り捨てられ、趣味人の音楽として一部でひっそりと愛でられていたような音楽が、フラットに広く受け入れられる傾向って、確かに強まっていると思うんです。喜ばしきことかな。トラッド/ブルーズ/ソウルの復権。つまり、時代はウォーターボーイズ。適当ですが。いや、でも、マムフォード&サンズみたいにアイリッシュ・トラッド/フォークに根差したバンドが世界的に大ブレイクして、ポップ・シーンのど真ん中に居座っているのって、実は結構象徴的なことだと思うんですよね。
今や世界の音楽シーンにおける台風の目、EDMだって、この手のサウンドとは対極にあるように見えて、案外そうとも言い切れない。なにしろアヴィーチーのメガ・ヒット、“ウェイク・ミー・アップ”の主役はトラッドなギター・サウンド。レイヴィーでド派手なダンス・トラックとはどう考えても相性悪いだろ! と思うかもしれませんが、あら不思議。意外としっくりハマっています。にしても、マムフォードとアヴィーチーみたいに、水と油と思われていたアーティストが緩やかに同じアプローチを取っているなんて、ポストモダンここに極まれり、ですね。トラッド萌えですか。えらいこっちゃ。
これからのブレイク候補にも、近しい文脈を共有するアーティストがポツポツと現れています。例えば〈ラフトレード〉が太鼓判を押して送り出す「ジェイク・バグのブラック・ソウル・ヴァージョン」ことベンジャミン・ブッカーなんて、まさにそうじゃないですか? っていうか、この人、もっと騒がれていいのに。
さすがジャック・ホワイトがツアーのオープニング・アクトに抜擢するだけあります。爆裂ブルーズ・ロック、最高。もっと騒がれていいのに。なんでおまけにもう一曲!
そして、今年の〈フジ・ロック〉で26日(土)のグリーン・ステージに大抜擢され、再度注目が集まっているザ・ヘヴィも、このトラッド/ブルーズ/ソウル・ルネッサンスで捉え直してもいいはず。彼らのソウルフルなロックンロールは時代を先駆けていた! ってことはないでしょうが、今聴いた方がしっくりくるのは確か。試しに聴いてみましょう。下の映像は、「レイト・ショー・ウィズ・デヴィッド・レターマン」に出演した時のもの。
人気番組に出られたことでテンションが上がり過ぎたのか、“ハウ・ユー・ライク・ミー・ナウ?”で司会のレターマンに絡み、最後には時間オーヴァーでブツッと曲が切られてしまうのはご愛嬌。そんなファンキーな彼らを苗場で観られるのが楽しみであります。
で、〈フジ〉のタイムテーブル的には、一番手のザ・ヘヴィが終わり、日本のトラッド/ブルーズ/ソウル・ルネッサンスかもしれないウルフルズを挟んで、次に登場するのがウォーターボーイズ。素晴らしい。よくわかっている並びです。トラッド復権の機運があるならば、やっぱりウォーターボーイズってことなんですよ。旬なんです、マイク・スコット。きっと今こそ観ておくべき。そう言えば、今年の〈フジ〉のクロージング・アクトはポーグスだし。〈フジ・ロック〉、キテますね。
となれば、トラッド・ミュージックを追い求めて数十年、2009年にはグラミー5冠を達成した「現役」、ロバート・プラントだって見逃せない。本気で。〈サマーソニック〉はアークティックだけ観られればいいや、ロバート・プラントはツェッペリンを何曲かやってくれればOK、なんて大間違い。キテるんですよ、ロバート・プラント。
こんな風にして、トラッド/ブルーズ/ソウル・ルネッサンスをお題に名前を挙げようとすれば、どんどん出てくる。ただわかりやすくシーンやムーヴメントになっていないだけ。やっぱりね、ケルティック・フォークの突然変異から出発した愛すべき異端児、ワイルド・ビースツが全英トップ10に入る時代ですから。やっぱり何かありそうじゃないですか。グラミー賞ノミネート経験もあるアラバマ・シェイクスのブリタニー・ハワードによるソロ・プロジェクト、サンダービッチの動きも気になるところだし。勿論、『サイン・マガジン』のクリエイティヴ・ディレクター、田中宗一郎がお熱を上げているニック・ハキムだって、この文脈から聴いてみることも可能でしょう。というわけで、トラッド/ブルーズ/ソウル・ルネッサンス、ありなんです。かもしれません。さあ、どうでしょうか?