SIGN OF THE DAY

東京インディ・エクスプロージョン以前に
京都にタンテがいたからこそ今がある。
Turntable Films キャリア総括取材:後編
by SHINO OKAMURA December 11, 2015
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Turntable Films キャリア総括取材:後編

>>>『Small Town Talk』(2015)

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2013年頃からライヴで断続的に披露するようになった日本語歌詞の曲が“Breakfast”、“Cello”の2曲だ。とりわけ前者はソウル指向を素直に出したメロウな内容で、タメ気味のゆったりとしたリズムが井上の甘いヴォーカルに寄り添った繊細な曲。それまでの彼らの印象を大きく変える重要レパートリーとしてライヴの中軸に収まるようになった。いずれも言葉の強さや内容の強さではなく、ある種のムードを伴った心の繊細な機微を伝える柔らかな曲調が特徴だ。

Turntable Films / Cello

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そして、後に収録されるこの2曲が一つの伏線となり、2ndアルバムの制作へと舵が切られていく。

「ある時期……具体的には『SOFT LABOR』(2014年。ライヴ会場限定のEP)の中の曲“雨の日はさよなら”あたりレコーディングの頃だったと思いますけど、バンドの中で16ビートを解禁したことが大きいんです。それまではずっとヨコ揺れのビートを封印していたんですね。今やってもまだうまいことできないやろう、という判断と、カントリーやフォークはやっぱり16じゃ合わないだろうなって思っていたこともあって。でも、『Yellow Yesterday』を出した後に今のこの3人に落ち着いて、サポート・メンバーを3人固定させて、6人体制でライヴをたくさんやるようになっていくことで、バンドのグルーヴみたいなものがしっかりするようになってきた。今ならもう大丈夫だろうって思えてきたんですね。しかも、そのタイミングでカーティス・メイフィールドの『ゼアズ・ノー・プレイス・ライク・アメリカ・トゥデイ』をまた聴くようになった。あれって初期の作品とは違ってダークで重いでしょ? でも曲自体はすごくメロウ。こういうのやってみたらどうだろう? って思えたんです」

Curtis Mayfield / Billy Jack

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16ビートを今のバンドで消化してもブルーズやカントリーへのアプローチが薄まることはないと実感した井上は、ルーツ・ミュージックも黒人音楽のヴァリエーションの一つという解釈に確信を持ち、英米的ギター・バンドという当初のスタイルからブレることなく発展させていくことのできる方向性、すなわち現在のTurntable Filmsが今こそ向かう道であるという結論にたどり着く。結果、井上はもはや何も躊躇することなく新曲を生み出し、さらにはダラダラと録音に時間を費やすのではなく、短期間集中して制作。そうして完成された新作は、新たな道筋に自信を持って邁進するそんな彼らに共感した後藤正文のレーベル=〈only in dreams〉から、11月11日に2ndアルバム『Small Town Talk』としてリリースされたのだった。

Turntable Films / Small Town Talk Album teaser#1

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3年半前の前作『Yellow Yesterday』が英米インディ・スタイルのバンドとしての意識と、アメリカのルーツ音楽を掘り下げることによって得た手応えとが混ざり切らないままカタチになった、言わば熟成する前に収穫、出荷された固い果実のような作品だったとするなら、今作は、日本で活動するバンドとして日本の言葉で真新しいポップ・ミュージックを創出するための作業を、カントリーやブルーズなどのルーツ音楽も実はあくまで血肉となって底辺で繋がっていることを確信しながら、さらには10代の井上が蓄積してきたギタリストとしての経験も自然に融和させた、実になめらかで肌理も細かく、喉ごしのいい果汁のような1枚。この新作から突如日本語詞になったわけでも、いきなりメロウになったわけでも、前ぶれなくアンサンブルがグルーヴを兼ね備えるようになったわけでもなく、ここ3年ほどの間に3人で時間をかけ徐々に試行錯誤を重ねてきた彼らの、バンドとしての結束の固さを伝える作品でもある。

「正直、その直前までは何を聴いたらいいのかわからない、というか、今の自分にフィットしているのってどういうのだろう? って思っていた時期もあったんです。でも、そこを抜けた時に……“Breakfast”とかは実は出来たばかりの頃はもっとザ・バンドっぽかったんですけど、でも、だんだんアレンジも変わっていって、今のこのアレンジにたどり着いた。でも、メンバーとあれこれやりながらのその過程もすごく自然だったんです。レコーディングは去年の春と夏の二回に分けてやりました。“Cello”、“Nostalgia”、“Modern Times”、“I Want You”、“Breakfast”の5曲を春に、残りの5曲をその後に作って夏にレコーディングして。そういう意味では、今回のアルバムは、途中からは割としっかりと方向性が見据えられていたって感じですね。だから、メンバーにもサポート・メンバーにも、予め入れる楽器を決めて伝えても迷いがなかったっていうか、むしろ、今回は割と細かいところは他のメンバーに投げたりもしたんです。なんかもうそういう方がうまく行くような気もしたし、それくらい前作の後たくさんのライヴをやって自信もついてたってことなんですよね」

確かにこれまでの彼らとそのルーツ、それらを自覚して交通整理することが出来た現在の彼らの手応えなどが実に滑らかに融和した作品だ。だが、意外なことに曲ごとのリファレンスはこれまでの彼らのどの作品より明確で、例えばオープニングの“Light Through”などは、ジョン・レンボーンやバート・ヤンシュのようなブリティッシュ・トラッド・マナーのリフから、ロイ・ハーパー~あるいはその後継者的存在でもあるジム・オルークのような先鋭的かつ洗練されたフレーズまでをサラリと横断させることができる井上のギタリストとしての引き出しの多さを実感する曲。

Turntable Films / Light Through

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Bert Jansch and John Renbourn / First Light

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Roy Harper / Forever

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そんな技巧的とも思える手腕を感じさせる曲に、さりげなく簡素な言葉で「行く先を塞いでしまう憂鬱な日々」を練り込ませてみた井上の鮮やかなリリックにこそ何よりの成長を感じさせられる。

「たとえば誰かが亡くなったとして、その悲しみを必死で我慢しているということをストレートに描くよりも、その人がとっている行動から悲しみを堪えていることが伝わるように描くやり方に惹かれるんですよ。カッコ良く言えば、映像、映画を作っているような感じというか。例えば“Nostalgia”で描かれているのは、誰からも認められていない男女なんです。駆け落ちみたいなことをするんですね。で、二人は不安に囚われている。でも、その中にある幸せな感覚を描きたかったんです。さらには何かを残そうとする意識、みたいなね」

今作によってロマンティック過ぎるとさえ思える井上の甘くメランコリックな歌詞世界はさらに際立ち、まるで曇り空を見上げながら外に足を踏み出す時の迷いも戸惑いも孕んだような心理も見事に描かれるようになった。では、井上が一貫して描こうとする、その「不安」「畏怖」とは何に向けられたもので、何からわき起こってくるものなのだろうか。「雨」という言葉が多用されていることの真意はどこにあるのだろうか。

「まあ、雨とか曇りの雰囲気が好きっていうのが大きいんですけど。でも今の時代って、世の中全般的な暗さも含めて、どこかにみな不安を抱えて生きていると思うんですよ。で、僕自身その中の一人という感じがある。だから、その空気感を描こうとするのは、漠然とした不安感を僕がどこかに感じているからかもしれないですね。やっぱり落ち着ける場所とか、信頼できる相手がほしいとか……結局そういうことですよね。でも、満たされるものなんてそんな簡単に見つかるのかな? って思います。人を最終的にはなかなか信じられない中で、どうやって居心地のいい場所を見つけていくのか――というところが今の自分の価値観というかテーマなのかもしれないですね」

2010年代以降の日本に誕生した初のルーツ・ミュージック・ポップ・スタンダード。3人は様々な未知の引き出しを開けながら手探りで次の一手を求めている。もう「日本のウィルコ」も「京都のオルタナ・カントリー」も要らない。「Turntable Films」という名の一択なのだ。




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