SIGN OF THE DAY

小野島大×田中宗一郎対談「ブリティッシュ
・ロックの今」を考える。2017年の英国を
代表するウルフ・アリス新作を題材に:後編
by DAI ONOJIMA
SOICHIRO TANAKA
October 13, 2017
小野島大×田中宗一郎対談「ブリティッシュ<br />
・ロックの今」を考える。2017年の英国を<br />
代表するウルフ・アリス新作を題材に:後編

小野島大×田中宗一郎対談「ブリティッシュ
・ロックの今」を考える。2017年の英国を
代表するウルフ・アリス新作を題材に:前編


小野島大×田中宗一郎対談「ブリティッシュ
・ロックの今」を考える。2017年の英国を
代表するウルフ・アリス新作を題材に:中編




>>>「ブリティッシュ・ロック」を定義するものとは何か?

田中「ただ、ここまでのところで、ブリティッシュ・ロックというタームが成り立っていた70年代当時を振り返ってもらったわけなんですけど、当時にしてもブリティッシュ・ロックっていうターム、それ自体にも幅があったわけですよね?」

小野島「はい」

田中「それを定義する上で、いくつか重要な作家やレコードを4、5枚、挙げてもらうことはできますか?」

小野島「今ここで急に言われてもなあ(笑)」

田中「(笑)すいません。今、つい思いついちゃいました」

小野島「まずはブラック・サバスの『ブラック・サバス・ヴォリューム4』(72年作品)。まあ、『マスター・オブ・リアリティ』(71年作品)でもいいけど。あれが私のイメージするイギリスのロックですね。フリーの『ハイウェイ』とか、ジェスロ・タルの『スタンダップ』とか」

Black Sabbath / Black Sabbath Vol 4 (Full Album)


田中「なるほど」

小野島「あとは、キング・クリムゾンから派生したマクドナルド・アンド・ジャイルズっていうバンドのアルバム(*『マクドナルド・アンド・ジャイルズ』)は、イギリスのロックっぽい。あとはもちろんフェアポート・コンベンション、ああいうのもイギリスっぽいなと思うし。あとはロリー・ギャラガーとかウィッシュボーン・アッシュとか。そこらへんは大貫さんの影響が大きいんですけど、大貫さんが推してたから」

田中「ロリー・ギャラガーってどこの出身でしたっけ?」

小野島「アイルランドですね。今で言ったらUKロックとは言い難いのかもしれないですけど、その頃はアイルランドもみんなごっちゃに“イギリスのロック”になってたから。ザ・スミスのジョニー・マーがロリーの大ファンで、ツェッペリンのジミー・ペイジやディープ・パープルのリッチー・ブラックモアがショービズぽいハイプなイメージだったけど、ロリーはストリートの香りがして、アイデンティファイすることができた、と言ってますね。キンクスやザ・フーもブリティッシュ・ロックっぽいですね、すごく」

田中「当時は、アイリッシュも含めてブリティッシュとして認識されていたわけですね。ゼムなり、ロリー・ギャラガーなり」

小野島「ゼム、ヴァン・モリスンは北アイルランドだけどね。ツェッペリンもブリティッシュっぽいけど、どちらかといえばブラック・サバスの方が」

田中「サバスと言えば、明らかにウルフ・アリスも何かしらの影響を――」

小野島「ウルフ・アリスがサバスを選曲してた(Spotifyの)プレイリストなんか、もう消えちゃったんですね」

田中「中身を変えちゃいました」

小野島「変えちゃったんだね。あれ、確か、“ネヴァー・セイ・ダイ”とかが入ってた(笑)」

田中「そう。『サバスの曲を選ぶのに、よりによって、その時代かよ?』っていう(笑)」

小野島「なんでこんなクソみたいな曲を選んでるんだっていう(笑)」

田中「一番駄目なアルバム(笑)」

小野島「こいつらのサバス理解は大したことないな(笑)。と思ったことを付け加えておきます」

田中「まあ、そこは新世代ですから(笑)」



>>>ブリティッシュネスの定義①=ハード・ロック

田中「でも、どうです? ブラック・サバス自体、イギリスの北部でもなく南部でもなく、ミッドランドの工業地帯から出てきたっていう文脈が一番大きいと思うんですけど」

小野島「バーミンガムですね」

田中「小野島さんからして、ブラック・サバスをブリティッシュネスの象徴のひとつだと捉える理由を教えていただけますか?」

小野島「そもそもハード・ロックが成立したのがイギリスだっていう考えがあって。それはクリームやジミヘンの文脈なんですけど。ジミヘンはアメリカの人だけど、イギリスに行って成功したから。クリームとかジミヘンがあの当時のロックの、コンサートPAの部分も含めて改革したっていうのがあって。その流れでツェッペリンも出てきたし。サバスとか、ディープ・パープルもそうだけど。あと、イギリスはブルース・ロックの流れが強固にあるから。そこからテン・イヤーズ・アフターとか、フリーとか、もちろんサバスもブルーズの影響は大きい。そういうバンドはイギリスのロック。その辺がハード・ロックの源流になっているっていう感じがあるんで」

田中「ただ、中でもサバスだっていうのがあるんですね?」

小野島「はい。まあ、俺はそう思っているだけですね。パープルだっていう人もいるだろうし。フリーなんかイギリスっぽいですね。あんなアメリカっぽい音楽やってるのに、イギリスの音楽っていう感じがすごくしますよね。それはトラッド・フォークの要素があるからかもしれない。トラッドとブルーズの共通点はロリー・ギャラガーも指摘してました。サバスも実はフォークっぽいこともやってるからね」

田中「そう。そうなんですよね」

小野島「ラテン・ハウスそのまんまみたいな曲もやってるし。70年代前半のサバスって実は音楽的にすごく幅広くて面白いんですよ。サバスは、今はどうか知らないけど、あの当時はカルトなバンドでね。日本では」

田中「日本では全然売れなかったですよね」

小野島「ディープ・パープルの方が全然人気があった。サバスは全然相手にもされてないっていう感じで。『サバスが好き』って言うと、『暗いな』の一言で片付けられて(笑)。孤独でしたよ(笑)」

田中「僕なんかの世代だと、パンクが落ち着いた後に完全にあと聴きで、サバスの初期から順番に聴いていくんですけど。むしろガレージの文脈で聴いたんですよ。リンク・レイの系譜というか」

小野島「リンク・レイ? ほう」

田中「リンク・レイ、ザ・フー、ブラック・サバスっていうパワー・コードの系譜ですね。トニックと5度の音を歪ませて、ドカーンと鳴らすっていう」

小野島「ブラック・サバスはMC5とかストゥージズの影響も少しはあったのかな。ブルー・チアーとかね。今、ハード・ロックはイギリスで成立したって言ったけど、アメリカにもそういう文脈はあるんですよね。アンボイ・デュークスとか、グランド・ファンク・レイルロードとか。それはどちらかって言ったらガレージ・パンクから流れてきたっていう影響は大きいですけど」

田中「そうですね。西海岸サイケデリック・ガレージの流れ。じゃあ、ブラック・サバス=英国ミッドランドのハード・ロックっていう文脈に、カサビアンとか、アークティック・モンキーズを置くっていう視点もあるにはあるんですけど、そういう風に言われると小野島さんとしてはどうですか?」

小野島「ブラック・サバスと繋がるかどうかって話? あまり感じないけどね。ブラック・サバスの影響がモロに出てるのは、ヘヴィ・メタルのバンドをのぞけば、グランジとか。ニルヴァーナとか完全にそうじゃないですか。スマッシング・パンプキンズも。だから、ブリティッシュ・ハード・ロックの系統というのは、途絶えてしまったんですよ、実は。アメリカのハード・ロックの方が伸してきて」

田中「っていうことは、特に90年代頭の話ですよね」

小野島「たぶんね、イギリスのハード・ロックで大きな動きと言えるのは、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルが最後じゃないかな。アイアン・メイデンとか。そこら辺はあんまり詳しくないですけど、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルの影響がどこに行ったかっていうと、イギリス本国ではなくてアメリカの方に行ったわけじゃないですか。ディスチャージ~ナパーム・デスと続くハードコアの系統は別として。スラッシュ・メタルだったり。だから、やっぱりそこで途切れちゃったんですよね」

田中「なるほど。一度は系譜が途絶えたんだと」

●ただ、ブラック・サバスの影響がグランジに見られるのなら、隔世遺伝的にウルフ・アリスにブリティッシュ・ロックの血統が受け継がれているって視点も成り立ちますよね。

田中「ああ、確かに。やっぱり時代が一巡したってことでもあるのかも。この子たち、デフトーンズみたいなバンドも絶対に好きに違いないし。でも、やっぱり一度は命脈が断たれてしまった」

小野島「前に伊藤政則さんと話した時に、『なんでイギリスからああいうヘヴィな音楽が出てこなくなったんですか?』って訊いたことがあるんですけど、でも明確な理由は誰にもわからないと思う。アメリカやヨーロッパの方により影響力があるバンドが出てきたからっていうぐらいかな。だから、パンクって良くも悪くも影響があったってことですね。それでいろんなものが分断されたり、伝統が途絶えたり」



>>>リフ主体のソングライティングこそがロックの醍醐味

田中「じゃあ、ブリティッシュ・ロックの命脈っていうのは基本的にずっと分断されたままで、カサビアンなり、アークティック・モンキーズをそうした伝統と何かしら接続するっていうのは、小野島さん的にはあまりピンとこない?」

小野島「それはどういう理由で伝わってくるの?」

田中「イギリスだと、ある時期からリフ主体のロックって、ほぼ死滅したと思うんですよ。でも、彼らはそれを復活させたっていう文脈です」

小野島「ああ、そういうことね」

田中「カサビアンって間違いなくヒップホップの影響もあったと思うんですけど。つまり、ヒップホップの影響下からのリニアなビートと、ミッドランド的なハードなギター・リフを合わせるっていうアイデア――リフ主体のブリティッシュ・ロックとドクター・ドレ以降のサウンドを合体させるっていう発想から出てきたのがカサビアンだと思うんですね」

小野島「なるほどね」

田中「あと、アークティック・モンキーズの最高傑作が一枚目なのか最新作なのか? っていうのは難しいところだと思うんですけど、彼らの最新作『AM』も間違いなくリフを主体としたロック――ミッドランドのブリティッシュ・ロックの流れと90年代ウェストコーストのファンクの掛け算だと思うんですね。実際、『AM』の曲のギター・リフはかなりブラック・サバス色強いですし。これはやっぱりイギリスからしか出てこない音楽なのかな、と」

小野島「ああ、なるほど。そう言われれば確かにそうだよね。ただ、最近のイギリスの人がやるとあまりヘヴィ、ハードな感じはしないよね。もっと情緒的というか。でも、なんでリフが主体の音楽が廃れてしまったんですかね?」

田中「ひとつにはオアシスを筆頭に、90年代ブリットポップがリフというよりはコード進行を軸にしたソングライティングが主流になっちゃったのが大きいんじゃないですか。例えば、ノエル・ギャラガーってホント偉大なソングライターだと思うんですけど、ただ印象的なリフが書けない人なんですよね」

小野島「昔、ストーンズとかビートルズはイントロの作り方が抜群にうまいっていう評価があって。イントロがすべて、リフがすべて、みたいな時代が確かにあったんだけど。でも、それがだんだん曖昧になってきた。ストーンズもはっきりとしたリフのイントロを作らなくなってきたし。そういうこともありましたね」

田中「なので、かなり長い間、リフを書くバンド、リフ主体の曲を作るバンドって、アークティック・モンキーズくらいまでほとんどいなかったんですよ」

小野島「アメリカの方もそうですね、それは」

田中「でも、例えば、キンクスの“ユー・リアリー・ガット・ミー”でも、ツェッペリンの“カシミール”でも、ホワイト・ストライプスの“セヴン・ネーション・アーミー”でもいいんですけど、やっぱりリフ主体のソングライティングこそがロック音楽の醍醐味でもあるわけですよね」

小野島「それは僕もそう思う」

The Kinks / You Really Got Me

Led Zeppelin / Kashmir (live)

The White Stripes / Seven Nation Army


田中「ウルフ・アリスの2ndアルバムをインディではなく、ロックと呼びたくなるポイントはそこにもあるんですよ」



>>>ブリティッシュネスの定義②=ノヴェルティ性

田中「じゃあ、キング・クリムゾンから派生したマクドナルド・アンド・ジャイルズ。そこをブリティッシュ・ロックのひとつのサンプルだと考える視点を教えて下さい」

McDonald and Giles / McDonald and Giles (Full Album)


小野島「プログレっていうのもあるけど、今考えてみるとフォーキーな部分が大きな特徴になっているバンドだったし、そういう文脈ですね。そういう意味で、イエスなんかもイギリスっぽいなと思うんですけど。フォークの要素が入っているから。クリムゾンにもELPにもピンク・フロイドにもジェスロ・タルにもフォークの要素はあるけど、どっちかって言うと、マクドナルド・アンド・ジャイルズの方がイギリスっぽい感じがしますね」

田中「その、フォークの要素という部分は納得です」

小野島「あと、キング・クリムゾンに関して言うと、ジャイルズ・ジャイルズ&フリップっていうクリムゾンの前身になるバンドって、わりとノヴェルティっぽいバンドで。それは要するにビートルズの影響を受けたノヴェルティ・ソングっぽいことをやっているバンドで。それもまたちょっとイギリスっぽい文脈だなと思う」

田中「その辺のノヴェルティ的な要素っていうのは、ロックンロール、スキッフル以前の、いわゆる大衆芸能の世界、ミュージックホール時代の音楽の引用があるっていうことですか?」

小野島「そこまで遡らなくても、ちょっとコミカルな要素を持った音楽っていうものが、皮肉を効かせたね、ブラック・ユーモアを。そういうのがビートルズとかキンクスの初期のすごく大きな特徴だったりするし。それは歌詞を理解できない日本人にはなかなか伝わりづらいんだけど、それもやっぱりイギリスのロックの伝統のひとつだという気がしますね。それの伝統を受け継いだのがスクイーズだったり、マッドネスだったり、ブラーとかいうことがよく言われるじゃないですか。クリムゾンっていうのは、そういう流れも受け継いでる。ロバート・フリップはあんまりユーモア・センスがあるとは思わないけど」

田中「(笑)」

小野島「めちゃくちゃシリアスな人なんで。まあ、ただ音楽的にはそういう要素を持っていたっていう」

田中「若い頃のジョン・レノンが〈BBCラジオ〉のコメディ番組〈グーン・ショー〉の大ファンで、彼のサーカスティックなユーモアはスパイク・ミリガン譲りだって話があるじゃないですか。で、ジョージ・マーティンがずっとピーター・セラーズ筆頭に〈グーン・ショー〉周りのコメディ・レコードを作ってたから、二人は意気投合したって話がありますけど、そういった伝統?」

小野島「ジョン・レノンはそういう人ですね。シニカルなユーモア感覚。それはいろんな人に受け継がれてる。モンティ・パイソンもね。イギリス人のユーモア感覚って独特で、日本人にはなかなか肌感覚で理解しづらかったりするけど」

田中「と考えると、そういう伝統もウルフ・アリスにはあるかもしれませんね。と、ここは敢えてこじつけて行きたいんですけど(笑)」

小野島「歌詞はどういう内容なんでしたっけ?」

田中「ストリーテリングが多いみたいですね。俺はシングルになった曲だと、“ビューティフル・アンヴェンショナル”が一番好きなんですけど。この曲について彼らが〈BBC〉で話してたのは、『フェザー』っていう映画があるんですけど――主人公がウィノナ・ライダーで、フェザーっていう女子集団に彼女がいじめられてる設定なんですね。で、転校生役のリンク・スレーターに思わずあの子たちを殺したいわって言っちゃったら、実際にえらいことになっちゃって、最後にはリンク・スレーターが自殺しちゃうっていうコメディでもあり、ホラーでもあるって映画なんですけど」

Wolf Alice / Beautifully Unconventional (BBC Live Lounge)


小野島「それが“ビューティフル・アンヴェンショナル”に使われているっていうこと?」

田中「設定とキャラクターを借りてるみたいです。だから、ホラーでもあり、コメディでもあるっていう、ちょっとひねくれたユーモア・センスがある気がします」



>>>ブリティッシュネスの定義③=フォークの伝統

田中「じゃあ、先ほどもフェアポート・コンベンションの名前が出ましたけど、フォークの歴史の連なるバンドには何かしらのブリティッシュネスを感じる?」

小野島「そうですね。ツェッペリンなんかもそうじゃないですか。ジミー・ペイジがバンドをやる時に、ロック・バンドにするかフォーク・バンドにするか迷ったっていう有名な話があるけど。ロッド・スチュワートだってフォークの文脈がある人だし」

田中「彼はアイリッシュですしね。じゃあ、フォークのアングルで言うと、代表的なアルバム一枚は何ですか?」

小野島「フェアポート・コンベンションでしょうね。ペンタングルとかスティールアイ・スパンとかもいるけど」

田中「『リージ・アンド・リーフ』辺り?」

Fairport Convention / Liege & Lief (Full Album)


小野島「『アンハーフブリッキング』とかね。サンディ・デニーのソロでもいいですけど。まあ、ツェッペリンの4枚目でもいいですよ。あれは分かりやすくサンディ・デニーが参加したアルバムだから。俺はあのアルバムはあんまり好きじゃないですけど。でも重要性という点から言ったら、重要なアルバムですよね」

田中「やっぱりこうやってお話を伺ってると、ウルフ・アリスをブリティッシュ・ロックだっていう風に呼んで間違いがないんじゃないか? っていう気になってきますね(笑)」

小野島「うん、いいんじゃないのかな」



>>>ブリティッシュネスの定義④=グラム・ロック性

小野島「あとは、やっぱりグラム・ロック? Tレックスにするか、デヴィッド・ボウイにするか、クイーンにするか、考えなくちゃいけないですけど」

田中「先ほども小野島さんも仰ってましたけど、グラム・ロックというのは、Tレックスにしろ、ボウイにしろ。クイーンにしろ、リアリズムを突き詰めた表現ではなく、ファンタジーというか、非日常性、もしくは、ある種のスペクタクル性を基盤にしてるところがありますよね」

小野島「それは同時代のアメリカの自己告白的なシンガー・ソングライター・ブームへの、意識的/無意識的なアンチでもありますね。彼らが洗いざらしのジーンズをはいてナチュラルでエコなライスタイルを標榜するなら、化粧をしてど派手な衣装を着て、ジェンダーさえも超えて、フェイクでキッチュなライフスタイルを振りかざす、という具合に。それこそボウイがフィリー・ソウルをやった時に、プラスティック・ソウルって呼ばれたみたいに」

田中「話はちょっと逸れちゃうんですけど、この前、自宅で『伝説のロックスター再生計画!』っていうコメディ映画を観てて。日本でも一部で熱狂的なファンがいるジャド・アパトーってプロデューサーが手掛けてるんですけど、主演が元ケイティ・ペリーの旦那のイギリス人で、ノエル・ギャラガーとかの親友でもあるラッセル・ブランドなんですけど。それで改めて思ったんですけど、特にグラム以降の、きらびやかで野放図なロック・スターっていうイメージって、やっぱりイギリス発祥の文化なんだなあ、と思って」

小野島「お化粧をしたど派手なロックンロール・スターという意味では、その源流はリトル・リチャードあたりでしょう。英グラムの人はそれをもっと耽美的な方向に振り切った。もっと見世物的な方向に振り切ったのがアリス・クーパーで、それは後年のLAメタルにも通じる。70年代の日本でイギリスのロックが爆発的に人気があったのも、そういうきらびやかなところですから」

田中「今でこそロック・スターの象徴と言えば、カート・コバーンですけど、彼の場合、そもそもロック・スターという偶像化を忌み嫌うパンク的なアティチュードの人だったわけじゃないですか。なのでちょっと悩ましいところなんですけど、それ以前のガンズ&ローゼスのアクセル・ローズとかにしても英国産ロック・スターのイメージをなぞってるところがあると思うし」

小野島「ガンズを筆頭とするLAメタルの源流のひとつは、アリス・クーパーとかニューヨーク・ドールズとかあのへんだよね。ニューヨーク・ドールズは米国版グラムだけど、そこにはヴェルヴェット・アンダーグラウンドやイギー・ポップからの流れもある。アリス・クーパーはフランク・ザッパ門下なので、そういうアバンギャルドな流れも受け継いでる。ガンズはもう少し硬派な、それこそエルヴィス・プレスリー以来の不良ロッカーの流れもある。一方モトリー・クルーみたいなアメリカ80年代のヘア・メタルは、もっと華美でグラマラスでプラスティックでスペクタクルな、現実離れした方向ですね。今あそこらへんのPV見てるとめちゃバブリーで面白いけどね(笑)。それをニルヴァーナを筆頭としたグランジ/オルタナがすべてひっくり返しちゃったという」

田中「ある種のリアリズムの復権ですよね。で、ゼロ年代はUSインディ全盛の時代だったこともあって、リアルか、ファンタジーか? っていう二項対立で言うと、ずっとリアリズムの方が優勢だったと思うんですけど、そろそろグラマラスな英国的な表現が出てきてもいいんじゃないかって気もするんですよね」

小野島「The 1975もそうだけど、そういうグラマラスな流れはその都度途切れずにあるよね。ウルフ・アリスがその本格復権を果たそうとしている、という話の流れだな(笑)」



>>>ブリティッシュネスの定義④=異種交配性、雑食性

田中「ただ、先ほどグラムの流れで名前を挙げていただいたクイーンですけど、今の視点で見ると、クイーンも位置づけが難しいバンドですよね」

小野島「音楽的にもだんだん広がっていったバンドだし、一番クイーンらしい、ブリティッシュ・ロックっていう文脈から考えたら2nd、3rdが一番。大貫さんが一番太鼓叩いて持ち上げてたのも、たぶん2nd、3rdまで」

Queen / Sheer Heart Attack (Full Album)


田中「で、その後、ラグタイムの要素だったり、アラブ音楽の要素だったり、オペラの要素だったりが入ってくるところで彼らの音楽的なキャラクターが確立されていくんだけど、所謂ブリティッシュ・ロックからは離れていくっていう」

小野島「離れるというか、デカくなってイギリスって範疇を超えたというか。そういう意味で、クイーンの2ndとか3rdはブリティッシュ・ロックの要素が一番強いですよね。実際はいろんな要素が入ってるけど、グラム・ロックのプラスティックな要素とか、ハード・ロックの要素とか、プログレの要素とか、ビートルズっぽいポップの要素とか入ってて、ブリティッシュ・ロックのてんこ盛りって感じの音楽で。クイーンってどちらかというと、尊敬されてるというよりは愛されてるバンドじゃないですか。アート指向というよりはエンタテイメントだから。でも、70年代半ばくらいまでのイギリスのロックのいいところを全部寄せ集めたバンドって感じが俺は強いですね」

田中「80年代に英国を代表する国民的バンドになっちゃったせいで忘れられがちですけど、70年代通して、ずっと音楽的には冒険的なバンドでしたからね。で、先ほども小野島さんも仰っていたように、そういった貪欲な雑食性も英国のロック・バンドの特徴のひとつですよね。これも乱暴な言い方になっちゃいますが、アメリカのバンドがどこかルーツを再定義していく方向に向かいがちなのに対して、今回のウルフ・アリスのアルバムにしてもとにかく異なるジャンルの音楽が半ば無理やり詰め込まれている。そこはどうですか? 例えば、“ドント・ディレート・ザ・キシーズ”みたいなドリーム・ポップがあったり」

Wolf Alice / Don't Delete The Kisses


小野島「ああ、それは明らかにあるんじゃないですか。一曲目もそんな感じですよね、シューゲイザーっぽい。ウルフ・アリスを日本で聴いているような子はその辺のイメージがあるのかもしれないですよね。このアルバムでちょっと修正を迫られるかもしれないけど、そういうところもちゃんと押さえているじゃないですか。ドリーム・ポップもオルタナティヴもシューゲイザー寄りの音楽も。ポストパンクっぽい曲もあるよね。“ヤック・フー”だっけ。俺はPILだと思った」

Wolf Alice / Yuk Foo


田中「プロダクションがスカスカの感じとか」

小野島「PILとか、初期のキリング・ジョークっぽい感じ。これとフォークっぽい感じの曲“アフター・ザ・ゼロ・アワー”が印象に残りましたね。1曲目“ヘヴンワード”はシューゲイザーでしょ」

Wolf Alice / Heavenward



小野島「PILからシューゲイザーからフェアポート・コンベンションっていう振り幅の大きさっていうのが、しかもあんまり違和感なく聴かせているところが、偏差値の高いところだなと思って聴いていましたけど」

田中「はい」

小野島「ウルフ・アリスの新作を聴いて思ったのは、すごく勉強熱心なバンドなんだなっていう。イギリスでもアメリカでも、いろんな音楽を聴いて、それをなんとか自分の文脈で消化して、アルバムにしていこうっていう、そういう意識が強いバンドなんだなって思ったし。昔誰かが言ってたんだけど、向こうだとあれもこれもやるっていうのは、あんまり評価されないんだって。一つの世界なりサウンドなりに統一した方が高く評価されるっていう」

田中「それは欧米全体ですか?」

小野島「イギリスの話ですね。でも日本では幕の内弁当的なものが好まれる傾向がある。だから、そういう意味で言ったら、今回のウルフ・アリスのアルバムって結構ヴァリエーションに富んでいるし、そういう風なのが向こうでどう評価されるのか、俺にはよくわからないけど、日本人にはすごく馴染みやすいっていうか。いろんな要素があるし、どれも付け焼刃ではなくて自分たちのものにしているっていう点から言ったら、結構、偏差値が高い感じがしましたよ。それがブリティッシュ・ロックの伝統なのかはわからないけど」

田中「(笑)」

小野島「でも、アメリカのオルタナみたいなものも常に意識しながら作っているっていう点においては、イギリスの音楽ですよね。アメリカの音楽が常に念頭にあるっていうか」

田中「確かに」



>>>ブリティッシュネスの定義⑥=欧州的なゴシック性

小野島「あと、とても大事なのは、この女の子のヴォーカルがイギリスのニューウェイヴの流れの、耽美的な病んだ感じの美人みたいな、そういう系統を受け継いでいる感じがあるじゃないですか。新しいアーティスト写真ではちょっとイメージを変えているけど、〈サマソニ〉で観た時はそんな感じだったんですよ。顔色の悪そうな、不健康そうな美少女がギターを持って歌っているっていう」

田中「(笑)ケイト・ブッシュとかではなく?」

小野島「イギリスのそういうのって、伝統としてあるじゃないですか。ニューウェイヴ以降。まあ、ケイト・ブッシュはその源流かもしれないけど。そういうゴスな文脈もありそうだなって。イギリスのロックっていう意味で。アメリカからはなかなか出てこないタイプの女性ヴォーカリストだなっていうのがありますし。もしかしたら、この人(ウルフ・アリス)たち、カーヴみたいになるのかなって思った時期もあるんですけど」

Curve / Clipped



田中「シューゲイズの流れから出てきた?」

小野島「そうそう。シューゲイズとマンチェを合わせた感じの。あれもヴォーカルが耽美な感じの女性でしょ。私、大好きだったんですけど、ああいう感じにもなる可能性があったのかなと思いますけど、ちょっと違った感じに行きましたね」

田中「やっぱり全体的にスケール感が増しましたね」

小野島「でも、この女性ヴォーカルはその系統に近い感じがしますけどね。非常に魅力的です」

田中「俺、本当に歌を聴いてないからな(笑)。よく“いいメロディ”っていうじゃないですか? 俺、ホントそれがよくわからなくて。いいメロディって言われて、パッと思いつくのは、サティの“ジムノペディア”とか、マイルスが吹くペットのメロディとかなんですけど、所謂ポップ・ミュージックにおける良いメロディっていうのが全然わからなくて」

小野島「オアシスのポップ・メロディとかなんじゃないですか、一般的には」

田中「それもよくわからなくて。家族とカラオケに行った時に『いや、あなたは音楽を聴く時にほとんど歌を聴いていないから。あれだけaikoが好きなのにまったくヴォーカル・メロディを覚えてない』って言われて、すごく腑に落ちたんですよ。そうか、コードの変化とか、リズムのアンサンブルとか、全体のプロダクションしか聴いていないんだな、と思って。だから、カラオケのオケが酷いと、もうイライラしちゃうんですよ(笑)。なので、歌のことはあまりよくわかりません。特にウルフ・アリスに関しては」

小野島「ああ。だからね、ウルフ・アリスに一番ブリティッシュっぽい匂いを感じるのは、エリー・ロウゼルのルックスと声ですよ。俺にとってはね」

田中「なるほど」

小野島「ニューウェイヴ以降、こういう感じのちょっと暗い鬱っぽい高い澄んだ声で歌う女性ヴォーカルって絶えずに出てくるんですよ。ずーっと遡ると、ペンタングルのジャッキー・マクシーなんかも源流かもね。このエリー・ロウゼルはその末裔だと思うけど、なかでも際だって魅力的だと思います。オレも含め、こういう女性ヴォーカルが好きな奴ってけっこういると思うよ」

田中「なるほど。ただ、今、全世界的に鬱っぽいのが流行りじゃないですか。そういう意味からすると、伝統的であると同時にトレンディ(笑)なのかもしれません。2010年代のアメリカにしても、ラナ・デル・レイ辺りから始まって、今はXXXテンタシオンやリル・ウージー・ヴァートとか新世代のラッパーが死にたい死にたいの大合唱なので」



>>>ウルフ・アリスは異なるトライブやクラスタを横断する最大公約数性たりえるのか?

小野島「また話が全然ズレますけど、それぞれの歴史観っていう話で」

田中「はい、どうぞ」

小野島「伊藤政則さんにインタヴューした時に、伊藤さんが言うにはアイアン・メイデンとか、ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルが出てくる直前のイギリスのロックは非常に沈滞していたっていうわけ」

田中「えーっ?」

小野島「なんで? って思うじゃん。パンクからポストパンクからいろんなものが出てきて、こんなに面白い時代ないじゃん、って俺は思うんだけど」

田中「僕も間違いなくそう思ってました。本気で音楽にのめり込んだのが、まさしくパンクからポストパンクにかけてだったので」

小野島「でも、伊藤さん的には非常に沈滞していたと。ツェッペリンとかサバスとか、そういう昔からのハード・ロック・バンドが地盤沈下していって、かといってそれに継ぐような新しいバンドが出てこない、非常にどうしようもない時期だったんだっていう。で、そこに彗星のように現れてブリティッシュ・ロックを変えたのがアイアン・メイデンなんだ、っていう話なんだけど。やっぱり人によって全然見方が違うんだなって」

田中「違いますねえ。だって、ピストルズもクラッシュもスペシャルズもデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズもいなかったってことですよね?」

小野島「伊藤さんに言わせると、ピストルズもクラッシュも瞬発力はあったけど、あれがウェンブリー・アリーナを満員にするような大きなバンドになりそうもないでしょ、って言われて、確かにそうかもしれないなって思ったけど。人によって見方って違うんだなって思いましたよ」

田中「でも、クラッシュはシェア・スタジアムまで行ったじゃないですか。解散直前の話ですけど」

小野島「行ったけどね。その頃はまだイギリスのガレージ・バンドに過ぎなかったから、70年代終わりの時点では」

田中「まあ、確かに。でも、80年でしたっけ? アイアン・メイデンの1stの時って、ファン層はパンクと被ってましたよね」

小野島「そう。パンクで爆発して、でもパンクが沈滞していって、まだハードコア・パンクが出てくる前の段階で、労働者階級の青少年が熱い血潮を滾らせたのはニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタルだったんじゃないですか」

田中「当時、高校生だったので、クラッシュ、シン・リジー、ブルース・スプリングスティーン、ぎりぎりアイアン・メイデンまで同じフォルダで聴いてた記憶がありますね。自分の興味が完全にニューウェイヴやポストパンクに移行する以前の話ですけど」

小野島「なるほどね。俺はアイアン・メイデンにまったく興味なかったけど、ワーキング・クラスのための肉体的な音楽っていう、しかもかなりガレージ入ってる感じっていうのはそうかもしれないですね」

田中「2枚目以降は記憶が怪しいですけど、1stは確実に聴いてました」

小野島「あのヴォーカルが駄目だって意見が多いですけどね」

田中「あのレゲエ好きのヴォーカル、クビになっちゃったんですよね」

小野島「そうそう」

田中「彼がいたからこそ同時代のパンクとも共振する部分があって、俺みたいな子供も好きだったんだと思うんですけど」

小野島「たぶん伊藤さんから見ると、70年代後半のイギリスで孤軍奮闘してたのはジューダス・プリーストだけだって話なのかも(笑)」

田中「なるほど(笑)。ただ伊藤さんがおっしゃってることもわかる気がします。要するに、パンクの時代は最大公約数たりえる大文字のロックが存在しなかったってことですよね? そういう意味からすると、所謂インディ・ロックが小さなコミュニティに訴えかける内向きのジャンルになってしまい、求心力を失いつつある今の状況とすごく似通っている気がします」

小野島「まあ、それは今に始まったことじゃなく、ダンス・ミュージックの革命が起きた80年代末からずっと続いてる気はしますけどね」

田中「いや、ホントしつこくて申し訳ないんですけど(笑)、2010年代の今はポップとラップが世界的な最大公約数として見事に君臨しているし、しかも、どちらも音楽的に言ってもべらぼうに面白いと俺は思ってるんですよ。日本だとその実感が共有されていないのが悩ましいところなんですけど。で、ここ5年、インディ・ロックはそこからはじき出されたところがあって」

小野島「ああ、そういう意味で、ウルフ・アリスの新作が大文字のロックを蘇らせる可能性があるっていう見立てですか?」

田中「そうです!(笑)」

小野島「なるほどなるほど。それは異論ないです」

田中「実際、小野島さん自体も、ここ10年でロックというジャンルに対する期待は目減りされてたと思うんですけど。違いますか? 特に英国から出てくるロック・バンドに限定した部分で言うと」

小野島「まあね。ウルフ・アリスがそれに答えてくれることを期待します」

田中「小野島さん、テンション低すぎですよ!」

小野島「何言ってるんですか! 英国ロックの復権とかそういう命題よりなにより、私はもはやエリー・ロウゼルちゃんの魅力に夢中なんですよ!そっちの方が大事!」



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