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  • パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021) directed by Jane Campion by MARI HAGIHARA November 12, 2021 1
  • フォーリング 50年間の想い出(2020) directed by Viggo Mortensen by MARI HAGIHARA November 12, 2021 2
  • ラストナイト・イン・ソーホー(2021) directed by Edgar Wright by MARI HAGIHARA November 12, 2021 3
  • 悪なき殺人(2019) directed by Dominik Moll by MARI HAGIHARA November 12, 2021 4
  • ボストン市庁舎(2020) directed by Frederick Wiseman by MARI HAGIHARA November 12, 2021 5
  • ジェーン・カンピオン監督の久々の映画は、『エデンの東』(1955)や『天国の日々』(1978)を思わせる西部劇。1920年代のモンタナ、牧場主の一家で繰り広げられる心理ドラマです。その不穏なテンションと広大な風景の対比、ジョニー・グリーンウッドによるスコアも細やかに張り詰めている。ベネディクト・カンバーバッチ演じるフィルはカウボーイたちの敬意を集める、男の中の男。インテリで楽器をたしなむ側面もあります。ただ弟が結婚した後家のローズ(キルステン・ダンスト)と、その息子ピーター(コディ・スミット・マクフィー)の繊細さが気に入らない。彼がローズを精神的に追い詰めるやり口は陰湿そのもの。やがてピーターとのやり取りから、フィル自身の「演技」、強い男の裏にあるものがわかってきます。トキシックな男らしさ、ホモフォビアといった現代的なテーマを取り上げつつ、どこか謎めいた、神話的ストーリーとして見せるのはカンピオンならでは。タフに生きるために人が犠牲にするものについて考えさせられます。カンバーバッチはもちろん、スミット・マクフィーの妖しさが見もの。12月からNetflixで配信されますが、機会のある方はぜひスクリーンで。動物の虐待や死が出てくるのでご注意ください。

  • これは同様のモチーフをよりパーソナルに描いた映画。俳優、ヴィゴ・モーテンセンによる初監督・脚本作で、同性婚をした息子の役で出演もしています。彼は認知症になった父との関係とどう向き合うのか。宣伝ではかなりヒューマンな扱いになっていますが、むしろ家族の描写は容赦なく生々しい。暴力的な振る舞いで母や子どもを傷つけてきた父、いまもホモフォビアを剥き出しにする父。しかも歳をとって彼が感情をコントロールできなくなるところや、そのせいで息子のトラウマが甦るところなど、一切シュガーコーティングなし。子ども時代の場面を中心に映像は美しくオーセンティックでも、語り口はきりっと辛口なのです。赦しが簡単に訪れることもなく、ある家族の肖像が親密に、また冷静に描かれる。そこにモーテンセンの野心を感じます。デヴィッド・クローネンバーグ監督のカメオ出演に注目。

  • エドガー・ライトの新作は60年代のロンドンと、当時のホラーやスリラーの名作(『反撥』やダリオ・アルジェントなど)へのオマージュ。ファッション・デザイナーになる夢を持ってロンドンにやってきたエロイーズ(トーマシン・マッケンジー)と、歌手を夢見るサンディ(アニャ・テイラー・ジョイ)、若い二人の人生が時を超えて交錯します。スウィンギン・ロンドンを体現するサンディと、それにインスパイアされるエロイーズ。音楽、ファッション、建築など気の利いた引用の数々はエドガー・ライトならでは。しかも凝りに凝ったヴィジュアルは彼の新境地とも言えそう。ただ、ここでもストーリーの「恐怖」を担うのがいまっぽい「女性への搾取」。日常的に女性が感じる恐ろしさが、人生を変える衝撃につながるのです。それは60年代でも現代でも変わらない、という点には納得しつつ、『プロミシング・ヤング・ウーマン』同様、プロットの落としどころに疑問が残る。とはいえ、主演のふたりや(アニャがあんなに歌えるとは!)ディテールが目や耳を存分に楽しませてくれます。テレンス・スタンプら、60年代の俳優たちの配置も心憎い一作。

  • 事件は南仏の人里離れた場所で起きるのに、冒頭に登場するのはコートジボワールの都市を走る黒人青年の姿。この対照的な二つの場所がつながり、また偶然によってさまざまな人や出来事が連鎖していくミステリーです。吹雪の夜に女性が失踪。その周辺で起きていたことが章ごと、5人の男女の視点で語られるうち、真実がわかる——というよりも物語が波紋のように広がり、重なっていきます。空間や時間が不揃いなのでわかりにくい部分もありながら、ここまで整理して映像的にも面白い心理劇にしたのはドミニク・モル監督の手腕。しかも洗練されているだけでなく、愛したい、愛されたいという人間の欲望にフォーカスすることで、つかみきれない余韻が残ります。その欲望と、妄想や金が直結するいまの世の中。ネットによって誰もが近くにいる人よりチャットの相手に囚われ、孤立していく。その滑稽さと悲しさが底に流れる、斬新なフィルム・ノワールです。

  • なんと91歳になるフレデリック・ワイズマン監督の新作ドキュメンタリー。今回は274分、題材はボストン市政です。最初は電話で寄せられる市民の苦情や通報に対応する担当員の姿から始まり(2017年『ニューヨーク公共図書館』と同じ)、マーティン・ウォルシュ市長が参加するさまざまな会議、そして市役所の外へ出るとレッドソックスの祝賀パレード、道路の舗装やゴミ回収など、あらゆる「行政」の側面が淡々と映されます。笑いも切実さもあり。その営みを見るうちに、どうしたって癒されるのです。普段自分もいまの政治や選挙のあり方に、知らず知らずのうちに幻滅し、傷ついていたことに気づきました。もちろん、どこでも問題は山積しているうえに状況は悪化している。けれどここには住居や雇用、生活の側面ひとつひとつを改善しようとしている人たちがいる。世界的に選挙には長けていても行政は苦手(というか無関心)な政府が増えるいま、この地方行政の堅実さ、理想には勇気づけられるし、しかもそれがボストンという多文化・多人種の大都市で根付いているのです。合間には古い建物や街角、巨大なビルが静かに映され、そのテンポも絶妙。マーティン・ウォルシュはこの映画のあとバイデン政権の労働長官に任命され、後任には2021年11月、台湾系36歳のミシェル・ウーが選ばれました。快挙。日本の「政治」に疲れている人には、この4時間半が効くはずです。

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