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  • パラサイト 半地下の家族(2019) directed by Pong Jun-Ho by MARI HAGIHARA December 24, 2019 1
  • ジョジョ・ラビット(2019)
    directed by Taika Waititi by MARI HAGIHARA December 24, 2019 2
  • フォードvsフェラーリ(2019) directed by James Mangold by MARI HAGIHARA December 24, 2019 3
  • マザーレス・ブルックリン(2019) directed by Edward Norton by MARI HAGIHARA December 24, 2019 4
  • ホワイト・ボイス(2018) directed by Boots Riley by MARI HAGIHARA December 24, 2019 5
  • ポン・ジュノはやっぱり天才。傑作『殺人の追憶』(03)や『グエムル』(06)がそうだったように、これだけ社会的モチーフ、韓国らしいディテールを組み込みながら、誰でも楽しめる、破天荒かつ緻密なジャンル・ムーヴィになっているところがすごい。本作も「カンヌでパルムドール」というアーティな肩書きがむしろ邪魔になるほど、怖くて笑えて、最後には悲しみに刺されるようなエンタテイメントなのです。登場する二つの家族は高台の豪邸に住むIT成金と、「貧しいが、まだどん底には落ちていない」半地下の家に住む一家。普段は棲み分けられているこの二者が、後者の長男が家庭教師として前者に侵入することで、止められない歯車が回りはじめます。息を呑むのは中盤のブレイキング・ポイント。そこで広がる光景が、まさに去年や今年日本で起きていたことそのものだったのです。きっとそれだけじゃなく、ここで取り上げられる格差社会や気候変動によるリアリティは、どこかで見る人の現実と重なるんじゃないか。どんな国のどんな場所にいても、「這い上がらないと落ちていくだけ」という恐怖は共通。だからこそ、世界的にヒットしている映画だと思います。

  • みんな大好き、タイカ・ワイティティ監督によるナチス映画。とはいえ、他のナチス映画のようにそれを純粋な悪として扱ったり、笑いにしてグロテスクさをあぶり出したりするのではなく、あくまで「子どもの視線」で、憎悪と差別のエコー・チェンバーから抜け出し、生きていく物語になっているのに胸打たれる。しかもユーモラスで、キュート。ただ、そこでも戦闘や死の残酷な描写はしっかりあるのにも感心しました。主人公、ジョジョのイマジナリー・フレンドとしてのヒトラーを演じるのはマオリ系ユダヤ人であるタイカ本人。彼がコミカルなトーンを率いつつ、他の登場人物はナチスでも誰でも重層的です。片目を失い、少年団を率いる大尉(サム・ロックウェル)が部下のフィンケル(アルフィー・アレン)とカップルのように振る舞う場面があったり、ユダヤ人少女(トーマシン・マッケンジー)が辛辣な皮肉屋だったり。楽しめるだけでなく、見るたび違うレイヤーが発見できそうです。ビートルズ“抱きしめたい”やボウイ“ヒーローズ”のドイツ語バージョンが使われているのも、◎。

  • これはとてもいいダッド・ムーヴィ。『君に逢いたくて』(95)でデビューし、『コップランド』(97)や『17歳のカルテ』(99)を作り、いまや『ローガン』(17)でヒットメーカーとなったジェームズ・マンゴールド監督のキャリアはなかなか興味深い。ディテールに気配りしながら、伝統的なストーリーを持つ正統派大作がいま撮れる監督になっているのです。舞台は66年のル・マン耐久レース。米国のフォードと欧州のフェラーリが敵対し、しのぎを削る競争において、元レーサーでカーデザイナーのシェルビー(マット・デイモン)と英国人ドライバーのマイルズ(クリスチャン・ベイル)が組むことに。ぶつかりながらも車への情熱によって二人が友情を育み、障壁を越えていく物語を、迫力のカーレース・シークエンスがぐっと盛り上げます。手に汗握る展開、渋いかっこよさ。もう若くはない男たちがもう一度夢を見ようとする姿に誰もが心で男泣き。『栄光のル・マン』(71)がヒットした日本でもウケるはずです。

  • エドワード・ノートンによる脚本・監督・主演作。ジョナサン・レセムの原作を大幅に変更し、1950年代NYの実話も組み込み、小説とは趣の違うフィルム・ノワールに仕上げました。ただ彼が演じるライオネルがトゥレット症候群で強迫神経症であるところは同じ。それによって、従来のハードボイルドな主人公にはなかった葛藤や弱々しさとともに、共感しやすく現代的な人物像になっています。ノートンが主演したスパイク・リー『25時』(02)もちょっと思い出しました。ライオネルは殺された恩人の裏にあるものを探るうち、巨悪と直面することになる。プロットはクラシックな展開ながら、NYジャズ・シーンの描写など挟みつつ、ライオネルにとっての言葉や音楽のあり方が描かれたり、独創的なニュアンスが加わっています。ムーディなバラッド“デイリー・バトルズ(日々の闘い)”を提供したのは、ノートンの友人トム・ヨーク。

  • 原題は『Sorry to bother you(お忙しいところ失礼します)』。ケン・ローチの新作の原題『Sorry we missed you(すみません、ご不在でした)』と同じで、「企業の定例文句をダブル・ミーニングにしたタイトルなんだな」と思っていたら、内容も結構ケン・ローチ的にガチなソーシャリズムでした。黒人テレマーケターが「白人の声」を使って成績を上げ、企業社会でのしあがり、仲間を裏切ってスト破りをする話なのですから。資本主義の歪みやレイシズムをテーマに、シュールでファニーなディストピアを作り上げたのはブーツ・ライリー。ラッパーで活動家でもあるところはチャンス・ザ・ラッパー的であり、一つの曲から始まったこの映画デビュー作は、『ゲット・アウト』(2017)や『アトランタ』(2016-)と比べられもしました。主役のキャッシュはその二作にも出演しているラキース・スタンフィールド。テッサ・トンプソン演じるキャッシュの恋人はアーティスト。彼女によるサイケなプロパガンダ・アートが最高です。冷戦を知らないアメリカの若い世代にとって、社会主義のイメージが大きく変わりつつあるのがよくわかる一作。

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