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  • イン・ザ・ハイツ(2021) directed by Jon M. Chu by TSUYOSHI KIZU August 06, 2021 1
  • ファーザーフッド(2021) directed by Paul Weitz by TSUYOSHI KIZU August 06, 2021 2
  • 恐怖のセンセイ(2019) directed by Riley Stearns by TSUYOSHI KIZU August 06, 2021 3
  • 親愛なる君へ(2020) directed by Cheng Yu-chieh by TSUYOSHI KIZU August 06, 2021 4
  • 返校 言葉が消えた日(2019) directed by John Hsu by TSUYOSHI KIZU August 06, 2021 5
  • 溢れる感情が歌になるというミュージカル的な感覚は普段からその辺で歌ったり踊ったりしている自分のような人間にとっては馴染みのあるものだが、このエネルギッシュなミュージカル映画の主役は夢を歌に託す若者たち以上に、喧騒をリズムとして鳴らす街のほうではないかと思える。舞台となるニューヨークのワシントン・ハイツは賑やかなところだ。高級住宅街のような静けさがない代わりに鳴りやまないリズムがある。だからこそ、そこで繰り広げられる会話は自然とラップとなり、たとえ電力(パワー)がなくなっても街に生きる人びとの活力(パワー)は尽きることがない。情熱的で華やかなブラス・セクションが入ってくればラテン・コミュニティのルーツがサウンド的に祝福され、同時に、それらはニューヨークという多文化を誇るアメリカの都市で様々な音楽と混ざり合っている。着る服も肌の色も様々な群衆のダンスによって画面はクラクラするほどカラフルだが、彼らはビートに合わせて同じダンスをすることもできる。移民たちが暮らす街のリズムをこんなにも生き生きと鳴らすミュージカルが……いや、映画がかつてあっただろうか。消火栓から降り注ぐ水しぶきは汗まみれの身体を冷やし、暑い夏の路上に飛び出した人びとをなおも踊らせるだろう。

  • 多くの人に過去の間違いを追求され、「キャンセル」されてしまった人間にその後はあるのか――いくつかの映画やドラマがそのことを考え始めているように思うが、まさに過去のツイートによって一度キャンセルされたケヴィン・ハートが主演を務める本作はそのことを示唆しているかもしれない(ケヴィン・ハートが過去の同性愛嫌悪のツイートの件で批判され、アカデミー賞の司会を辞退した顛末についてはこちらの記事を参照してください)。「父であること」とのタイトルのこの映画でハートは、妻を亡くして生まれたばかりの娘を必死で育てるシングルファーザーに扮し、現代における「よき父」とは何かを探っていく。それは男性性の現在地を考えることでもある。ここでハートは、「スカートを履きたがる男の子」に対して「何が問題なんだ?」と言う。それは彼の過去の発言と180度異なるものだ。当然、「いまさらいいカッコしやがって」という批判もあるだろう。けれども、過去の失敗を乗り越えていくには学び、変わり続けることを心がけるしかない。その姿を見せていくことも。少なくとも、その機会が映画の現場にあることは大切なことだと思う。

  • 現代における男性性を問う映画をもう1本紹介しよう。ジェシー・アイゼンバーグ扮する気弱な青年があるとき暴漢に襲われ、自己防衛のためにカルトめいたカラテ教室に通うなかで次第に暴力的な思想に染められていき……というダーク・コメディだ。『ファイト・クラブ』がそうだったように、「男らしさ」の追求と誇示はそのまま排他的な男同士の紐帯(ホモソーシャル)となり、酷いときには暴力性に発展していく。主人公の青年は自信のなさや満たされなさから、「男らしさ」という規範と階級制(本作ではカラテの帯の色で示される)を発見することで承認欲求を満たしていくが、それは強固な支配構造に身を任せることに他ならない。また、イモージェン・プーツが演じるカラテの達人の女性が男性中心社会に自ら適応しようとする様も痛ましい。本作ではそれらが絡み合って犯罪にまで発展してしまうが、これは極端な戯画化ではなく、程度の差を変えて世界中で起きていることでもある。トランプ政権末期に作られたこの映画は、アメリカのコメディが時代を風刺する意思をつねに滾らせていることを証明している。

  • アジアではじめて同性婚が認められた台湾からは、多様な家族の形を洗練された語りで表現した映画が登場した。亡き同性パートナーの母親と息子の面倒を見る青年・ジエンイーは、介護や育児の問題に翻弄されるなかで、殺人の嫌疑をかけられてしまう。その背景には何があったのか――。その謎を中心に置きつつ、同性カップルがぶつかる現実の困りごとをひとつひとつ明らかにしていく本作。既存の制度によって守られないがゆえにジエンイーは追いつめられていくが、けれども「イレギュラー」な形の家族だからこそ旧態依然とした体制を揺るがすことにもなる。そして何より、そこではかつてはあり得なかった人と人との繋がりが生まれている……。本作の辛抱強いストーリーテリングと丹念な演出は、マイノリティの切実な想いに寄り添おうとする誠実さに支えられている。

  • 暗い学校に閉じこめられた生徒たち。おどろおどろしい雰囲気の校舎内を彷徨い、悪霊から逃れているうちに、背景にある1960年代の白色テロ時代の台湾の社会情勢を体験することになる……。台湾発のインディ・ホラー・ゲーム『返校 -Detention-』が優れていたのは、きわめてゲーム的な体験を通してある特定の時代と場所の暗部を感覚的に提示していた点だ。そこで味わう恐怖は、圧政のなかで息を殺して生きることのメタファーだった。インディ・ゲームだからこそ表現できる政治性と生々しさがそこにはあったのだ。その映画化となる本作は、一部ゲーム画面的な構図にするなど原作に敬意を払っているがゆえに映画としては弱い部分もあるが、少なくともそのスピリットを再現することに腐心したことはよく伝わってくる。ゲームの映画化は何かと難しい面があることは再認識させられるが、刺激的なカルチャーのミックスとして歓迎したい。

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