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GHETTOVILLE Actress (Beat) by YUSUKE KAWAMURA
YOSHIHARU KOBAYASHI
January 10, 2014
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GHETTOVILLE

インダストリアル・リヴァイヴァルへと直結する
まさかのアブストラクト・ヒップホップ・リヴァイヴァルか?

地の底より聴こえる地鳴りのようだ。そんな力強さを持って迫ってくる。それは前作『R.I.P.』が、アルバム全体がカット&ペーストによって彩られた白昼夢のような作品であったこと、その印象の落差も起因しているだろう。

アクトレスの4枚目のアルバム。なにやら引退作めいた示唆がなされているとも言われているが、まぁ、こういったことが覆されることはよくあることなのでそこはそんなに気にすることはないだろう。

アクトレスといえば、デトロイト・ビートダウンとポスト・ダブステップのベース感、このふたつをダンスやDJカルチャーに縛られずに結びつけ、自らのものとしていったという印象がある。このキャリアの流れのなかでは、セオ・パリッシュのダークでザラついたサウンドを、昨今のアンダーグラウンドに巣食うダーク・アンビエントやインダストリアル・リヴァイヴァルと共振させたといってもいいだろう。そういった意味では『パスド・ミー・バイ/ウィ・ステイ・トゥギャザー』(2011年)をリリースしたあたりのアンディ・ストットとニア・イコールの感覚があった(アンディがベース・カルチャー寄り、アクトレスはよりテクノ/ハウス寄りといったところ)。そういった意味では彼は2000年代後半に欧州でポツポツと生まれたデトロイト・ビートダウン・フォロアーの末裔、そのレフトフィールド・サイドといった感覚が強かった。細かな方向性は違うがヴァクラや、もしくはそのヴァクラが所属するレーベル〈ファイアクラッカー〉、またはその朋友ジュジュ&ジョーダンあたりとも感覚的には近いものがあった。その証拠に、こうした、ポスト・デトロイト的な流れのレーベルでもあるスコットランドのトラスミー率いる〈プライム・ナンバーズ〉にもアクトレスは作品を残している。

とはいえ、こうしたデトロイト・フォロアー的な部分を『R.I.P』(2012年)では、一旦ご破算にしてしまったという印象だった。さて、その次なる作品はどうなるのか?こうした流れのなかでリリースされた本作は、『R.I.P』の空気感というよりも、それ以前のデトロイト・ビートダウン的なダーク&ヘーヴィな空気感や重量をそのビートに甦らせた。そして間違いなく、より濃厚になったのは、そのインダストリアルな風合いだ。荒い紙やすりを当てたようなドラムの音色やダークな質感は、DJクラッシュやカンパニー・フローといった1990年代後半のアンダーグラウンド・ヒップホップのサウンドを想起させる。もちろん、ビートはテクノであったりと、ベース感、テクスチャーにしても違ったものではあるが。

そう、この作品をとりまく空気で思い出したのは、セオ・パリッシュのダーティな質感と結びついた、まさにあの音だ。

いわゆるアブストラクト・ヒップホップ、もしくはダウンビートといった方が良いのか、とにかくこうしたサウンドの空気感はひとつ、現在のシーンに広がるインダストリアルの新たな流れのなかで、また浮かび上がってくるのではないだろうか。ダブステップやインダストリアル・リヴァイヴァルが呼び水となったダークなムードは、意図しているかどうかは別にして、そうしたサウンドを甦らせてしまったのではないだろうか。昨年話題をかっさらったブリストルの新鋭(まぁ、ある意味でそうしたサウンドの聖地ではある)、ヤング・エコーがこれまたそんな空気感のある作品だった。

もちろんイギリスのこうした音は絶え間なくずっと存在し続けていて、まさにお家芸と言えるもの。だが、本作を含めて、そうした流れの最新型が生まれているのではないかと、そんな妄想すらも浮かぶサウンドだ。

文:河村祐介

未来へと希望を託し、祈りを捧げることもできない、
ゲットーヴィルの住人は、ただ沈痛な面持ちで寄り添い合う

アンダーグラウンド・レジスタンスのあまりにも有名なスローガン、「ハード・ミュージック・フォー・ア・ハード・シティ」を改めて思い出すまでもなく、デトロイトが荒廃した街だということは多くの人が知るところだろう。この街は20世紀初頭にT型フォードの工場ができたことによって急速に工業都市として発展したが、公民権運動の高まりによって引き起こされた1967年の大暴動や、日本車人気の爆発で主力産業が致命的なダメージを受けるといった経験を経て、繁栄の夢も仕事も人口もモダン・ライフの幻想も全てを失っている。白人は安全な郊外へと大量流出し、街は空洞化した。そして街の中心部、インナー・シティには廃墟となった巨大ビルが立ち並び、高い犯罪率と貧困に苦しむゲットーが広がっているという。2013年初頭に『ロイター』が発表した「アメリカで最も惨めな都市」でデトロイトが不名誉な一位に選ばれ、同年7月には180億ドルもの負債を抱えて財政破綻したことは記憶に新しい。全盛期の人口は200万人に迫る勢いだったというが、今や約70万人だ。

事あるごとにデトロイト・テクノへの惜しみない賛辞を送っているアクトレスの新作を聴いていると、こうしたモーター・シティの歴史的背景とそこから生まれたタフな電子音楽に思いを馳せたくなってしまう。もちろんアクトレスはデトロイトとは遠く離れた英国ミッドランド出身だ。しかし、彼は今のところキャリア最終作と位置付けている『ゲットーヴィル』で、「ヘイジーヴィル=靄のかかった街」に別れを告げ、想像上の「ゲットー街」に生きている。

『ビート・ジュース』誌の取材に答えたアクトレスは、新作は「隠された痛み」をリプレゼントしたものだと話している。また、「ある意味、ホームレスの人たちについてのアルバム」だとも。アクトレスは、コンクリートの上に寝そべり、ほとんど死にかけているようなホームレスを実際に見て、彼らの抱える痛みにインスパイアされたという。そして、人は誰もが痛みを隠し持っているが、とりわけホームレスのようにエクストリームな痛みや苦しみを経験した人たちは、寄り添い合っていなければやっていけないのだとしている。

近代化の夢に破れたアメリカのモーター・シティは、テクノという未来派の音楽で絶望を背負いながら前を見つめた。また、ときにはアンダーグラウンドからの闘争を仕掛け、ときには海へと投げ捨てられた黒人奴隷の末裔へと姿を変えて怒りと悲しみを訴えた。だが、アクトレスは「病的」という言葉がぴったりだと自ら認めている本作で、ただひたすら突き刺すような痛みを噛み締めているだけのようでもある。重苦しいアンビエンスとコンクリートの床を打ち付けるようなビートが現出させる荒廃した世界のイメージのなか、つまりゲットーヴィルで、誰かと静かに寄り添い合いながら。

文:小林祥晴

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