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MECHANICAL BULL Kings of Leon (Sony) by YOSHIHARU KOBAYASHI
AKIHIRO AOYAMA
October 31, 2013
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MECHANICAL BULL

王者の貫録と自信、そして音楽的なエッジの全てを手中に収めた
理想的なスタジアム・ロック・アルバム

ストロークス世代のインディ勢でスタジアム・バンドへと駆け上った唯一の存在、キングス・オブ・レオンのキャリアにおける最大の転機は、2008年作の4th『オンリー・バイ・ザ・ナイト』だろう。もちろん、音楽的にもっとも大きな前進を見せたのは、ガレージ・ロックやポスト・パンクといった目先の流行を追うのはやめ、異様なまでのスケール感で「キングス・オブ・レオン以外の何物でもないサウンド」に到達してしまった3rd『ビコーズ・オブ・ザ・タイムス』だ。しかしながら、『オンリー・バイ・ザ・ナイト』は、念願だった本国アメリカでの大ブレイクと引き換えに、以前では考えられないようなポップ・サウンドに手を染めてしまった作品でもある。それまでは音楽的にも人気の面でも順調に成長を遂げていた彼らが、大きな夢を叶えるために荒業を使ったという意味で、これ以上のターニング・ポイントと考えられる作品はない。

同作で彼らが下した決断は、前作『カム・アラウンド・サンダウン』にも影を落としている。音楽的には、4th以上に丸みを帯びた、雄大なサウンドへと歩みを進め、スタジアム・バンドとしての風格を確かなものにしつつあった。だが、そのサウンドの狭間から彼らが覗かせていたのは、夕日を浴びながら物思いにふけっているような、いつになくメランコリックな表情だ。実際、地元アメリカでも四六時中、衆人環視の状態に置かれるようになったことで、当時ケイレブはかなりナーヴァスになっていたという。また、事実とは裏腹に、『カム・アラウンド~』は初期の荒々しいサウンドに回帰しているとメンバーたちが公言していたように、セルアウトしたサウンドのせいで初期のファンから背を向けられたことに対する後ろめたさや焦りも感じていたようだ(当時のインタヴューを読むと、ケイレブやマシューにその傾向が強い)。そういった4thの後遺症とも言える状況が幾つも重なったことで、前作のトーンはメランコリックな方向へと引き寄せられていたのだろう。つまり、『カム・アラウンド~』から滲み出ているのはポップ・スターの憂鬱であり、ここからどう進んでいくべきかという「迷い」である。

ところが、3年ぶりの新作『メカニカル・ブル』で彼らは気持ちいいくらいに吹っ切れている。前作でいじけていた自分自身のケツを蹴り上げるかのように、とにかく溌剌としていてエナジェティック。相変わらずどっしりと構えたスタジアム・ロック・サウンドだが、“ドント・マター”や“テンプルス”あたりでは久々にラフなタッチが戻ってきていて、前作では有言不実行になっていた「初期への回帰」も無理のない形で出来ている。実際、前二作で離れかけていた初期のファンの中には、このアルバムには興奮させられたという人も少なくないのではなかろうか。最高傑作と名高い3rdの魅力であった実験性や凄まじく張り詰めた緊張感こそないが、むしろこのような適度な肩の力の抜け具合でアルバムを作れるようになったのは、大物としての余裕が生まれてきた証しだろう。王者の貫録と自信、そして音楽的なエッジの全てを手中に収めている本作は、スタジアム・バンドとなった今のキングス・オブ・レオンにとって、考え得る限りもっとも理想的なアルバムだ。

文:小林祥晴

初めての挫折と、そこからの再起
2000年代生まれの大物バンドが描くカムバック・ストーリー

2003年のデビュー以降、作を重ねるごとに成長を遂げ、08年の5作目『オンリー・バイ・ザ・ナイト』で母国アメリカでの売上190万枚、グラミー賞3部門受賞という巨大な成功を収めたことにより、名実ともに2000年代デビュー組の中でも最大級のモンスター・バンドとなったキングス・オブ・レオン。2011年7月のテキサス公演で起こったカレブの体調不良によるステージ途中降板と、それに端を発する『カム・アラウンド・サンダウン』のUSツアー・キャンセルは、順風満帆にキャリアを重ね、デビュー時からほぼ休む事なく活動を続けてきた彼らが初めて経験する挫折だった。それから、しばらくの活動休止を経て、3年振りに届けられた6作目『メカニカル・ブル』。このアルバムで彼らが鳴らすのは、失意と共に故郷に戻り、自分たちの原点を見つめ直して再び走り出す事を決意したかのような「再起」のロックンロールだ。

「南部のストロークス」と称されたデビュー時にも増してストロークス風なリード・シングル“スーパーソーカー”で爽快に始まり、彼らの出身地ナッシュヴィルに今も息づくサザン・ロック~ルーツ・ロックの伝統が薫るアーシーな楽曲と、鉄壁のアンサンブルで疾走するロックンロールがほぼ交互に登場する本作。ここで彼らは、米国南部のルーツ音楽とストロークス以降のロックンロール・リバイバルという活動初期における軸を改めて捉え直し、原点からの再起を試みようとしている。単音ギターの煌めくリフレインに乗せてカレブが情感たっぷりに「レースは最後の一線まで終わりじゃない/これは、人生のカムバック・ストーリーなんだ」と歌う“カムバック・ストーリー”や、コーラス部で「もう一度“それ”が戻ってきたのを感じる」と繰り返す荒々しくタイトなロックンロール“カミング・バック・アゲイン”の歌詞が、現在の彼らのフレッシュな心境を最もストレートに象徴していると言えるだろう。

もちろん、1stアルバムのリリースから既に10年が経過し、メンバー全員が三十路前後の大人になっているのだから、1~2作目にあった若さ故の豪放さ、無鉄砲な勢いまでもが復活しているわけではない。むしろ全編に漂っているのは大人らしい余裕や風格、色気であり、正直なところ、キングス・オブ・レオンが本作をもって本格的にキャリアの安定期へと突入したように思える点に、一抹の寂しさを感じる瞬間もある。今後もキングス・オブ・レオンの物語は続いていくだろうし、その中でも本作は第2章の幕開けを告げる重要な1枚に違いない。だが、同時にその物語は、これからいよいよ時代性やトレンドといったものとは疎遠かつ無縁になっていくだろう。寂しくはあるが、それ自体は決して悪いことじゃない。

文:青山晃大

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