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RIGHT TOUGHTS, RIGHT WORDS, RIGHT ACTION Franz Ferdinand (Hostess) by YOSHIHARU KOBAYASHI
AKIHIRO AOYAMA
October 10, 2013
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RIGHT TOUGHTS, RIGHT WORDS, RIGHT ACTION

理想的な新境地をかなぐり捨ててまで取り戻した
「ポップ・バンド」の姿は、果たして本当に正しかったのか?

改めて振り返っても、前作『トゥナイト』がフランツ史上最も音楽的に完成度が高い作品であることは疑いようもない。bpm100前後のネットリとしたビートに乗せて繰り広げられる、凄まじい熱気と緊張感に満ちた各楽器のつばぜり合い。徹底的に練り込まれた緊密で無駄のないアレンジにも、思わず息を飲む。そして、“ルシッド・ドリームス”の後半がまさに好例だが、それまで地下でグツグツと沸騰を続けていたマグマが一気に噴き出してくるかのように、ここぞという瞬間に爆発的にテンションを上げる演奏は、何度聴いても強烈なカタルシスだ。これは間違いなく、初期の軽薄なポップ路線を卒業した彼らが切り開いた圧巻の新境地だった。

まるで乱痴気騒ぎのホーム・パーティのように賑やかな前二作と較べると、『トゥナイト』は一発で耳を奪うようなフックに欠け、やや地味に映るところがあったのは確かだろう。それによって、いまいち世間の評価がついてこなかったのは、正直口惜しい。だが、デビュー時の熱狂的なブームが一段落し、そろそろ中堅/ベテランの仲間入りを果たそうというタイミングで彼らが選び取った成熟した大人路線は、本当に理想的だしクレヴァーだと感じられた。それに、音楽的には間違いなく高度な世界に突入しているのだから、評価なんて後からついてくればいいと、それこそ大人の余裕でどっしりと構えていればよかったのではないか。

しかしながら、彼らはそうしなかった。4年ぶり4作目となるニュー・アルバムでは、明快に「古きよきフランツ」が帰ってきている。ここで聴くことができるのは、どこまでも猥雑で、騒々しく、とびきりグラマラスな「あのフランツ」だ。もちろん、単純な過去のパロディに終始するほど、彼らは間抜けではない。今回は一癖も二癖もあるプロデューサー陣を迎えているだけあって、アレンジの細かい部分には遊びの効いたアイディアがたっぷりと詰め込まれているし、サウンド・テクスチャーも面白い。これを聴いた後では、1stがあまりに簡素なギター・ロックに感じられてしまうほどだろう。ファンの期待に真正面から応えながら、しっかりと成長した姿も見せつけるという姿勢は、さすがフランツ、抜かりないと言える。

そういった点にはお世辞抜きに感心させられつつも、1stほど曲が粒揃いというわけではなく、2ndの“ドゥ・ユー・ウォント・トゥ”のように爆発力のある一曲が見当たるわけでもないという不満も拭えない。率直に言ってしまえば、理想的な新境地をかなぐり捨ててまで「ポップ・バンド」に戻ってきたのに、この出来ではあまりに中途半端ではないか、と思えてしまうのだ。これならば、『トゥナイト』のその先にある光景へと、このアルバムでは連れて行ってほしかった。

文:小林祥晴

アート性の追求を血肉に、再びポップ・ワールドへ―
一時代を築き上げたバンドによる、晴れやかなミッドライフの始まり

鮮烈なデビューでシーンを塗り替えたバンドほど、最初に大衆に焼き付いたイメージの呪縛と、時を経て変化する自らのアーティスト性との乖離に苦悩する。フランツ・フェルディナンドもまた、ロックの歴史の中ではありふれたそんな葛藤に直面したバンドだったに違いない。鋭角的なポストパンク・サウンドと艶やかでキャッチーなポップ・センスによって、英国にディスコ・パンク隆盛の時代をもたらしたデビュー作『フランツ・フェルディナンド』と、それからわずか1年で届けられた2作目『ユー・クッド・ハヴ・イット・ソー・マッチ・ベター』。この2作、特に全く異なる楽曲をDJプレイよろしく繋ぎ合わせたような斬新な構成のシングル“テイク・ミー・アウト”と“ドゥ・ユー・ウォント・トゥ”が彼らに植えつけた呪縛は余りにも大きかった。3作目『トゥナイト』の発表にそれから3年4ヵ月という長い時間が必要となったのは、彼らが自らのパブリック・イメージとどう折り合いをつけるか思い悩んだ結果でもあっただろう。

前作『トゥナイト』は、彼らの代名詞でもあった直線的なディスコ・ビートからあえて距離を取り、ヘヴィなグルーヴとサイケデリックでエレクトロニックなプロダクションを全面に展開することで、新たなフランツ・フェルディナンド像を開拓しようとした意欲作だった。しかし、その内容が100%功を奏したとは言い難く、同作からこの最新作『ライト・ソーツ、ライト・ワーズ、ライト・アクション』のリリースには、さらに長い4年7ヵ月もの期間を要する事となる。

作品毎に1人のプロデューサーを立ててきたこれまでの3作とは異なり、ホット・チップのアレクシス・テイラーとジョー・ゴッダード、ピーター・ビヨーン&ジョンのビヨーン・イットリングらの手助けを借りつつもセルフ・プロデュースで制作された本作。一聴しただけでも、かつてないほどに歯車が噛み合い、しなやかで骨太なアンサンブルを響かせるバンドの晴れやかな表情が浮かんでくるような1枚だ。音楽的には初期を思わせるキャッチーでダンサブルなサウンドをベースとしつつも、端々に3作目で経験した構築的なグルーヴやエレクトロニクス使いが顔を覗かせる。老若男女を踊らせるポップさと、そこに様々な含蓄を忍ばせるアート志向を両輪に前進してきたバンドが、アート寄りに傾いた挑戦作を血肉として、再び大衆の期待を全身で引き受けるポップの世界へと帰還を果たしたのが本作と言える。

全体として、本作はフランツにとっての原点回帰に位置づけられるレコードに違いないが、唯一“テイク・ミー・アウト”や“ドゥ・ユー・ウォント・トゥ”のような斬新な楽曲構成だけは戻ってきていない。それらの楽曲は、あの時代にあの若さだったからこそ作り得た、彼らにとっての「奇跡の曲」だったという事だろう。そこに不満を抱く人も勿論いるだろうが、個人的には劣化版の“テイク・ミー・アウト”を待つよりも、晴れ晴れしい表情でミッドライフを謳歌し始めたフランツ・フェルディナンドの新たな一歩を素直に喜びたい。

文:青山晃大

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