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FORCEFIELD Tokyo Police Club (Ultra-Vybe) by AKIHIRO AOYAMA
YUYA SHIMIZU
March 25, 2014
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FORCEFIELD

苦悩や逡巡を振り切った晴れやかなロック・レコードで
トーキョー・ポリス・クラブが踏み出した成熟への第一歩

「僕らがEPを作った時には、ハイプを受けた。それから『エレファント・シェル』を出した時には、その反動があった。そして、『チャンプ』を出したら、人は『おぉ、こいつら悪くないかもしれないぞ!』って言ってくれた。それから3年もいなくなっていて、今なら皆こんな感じかもね。『おぉ、あいつらまだいたんだ!』って」。これは、トーキョー・ポリス・クラブのキーボーディスト=グラハム・ライトがカナダの音楽サイト『RiffYou.com』のインタヴューで語った言葉である。かなりシニカルな発言ではあるものの、彼の現状認識は概ね正しいと言っていいだろう。残念ながら。

そもそも、トーキョー・ポリス・クラブが最初のEP『ア・レッスン・イン・クライム』でハイプを受けたのは、音楽ブログの後押しによるものだったし、『エレファント・シェル』でその反動を被ったのは、EPから2年の月日を要したことでネット上でのハイプを上手く追い風に出来なかったことにも理由があると思う。つまり、彼らはキャリア初期からネット時代の恩恵と手痛いしっぺ返しの両方を体験してきたバンドとも言えるのだが、それでもなお2作目『チャンプ』からこの3作目『フォースフィールド』までの間に3年9ヵ月もの長い時間を費やさざるを得なかった点に、彼らの苦悩や逡巡を感じ取ることが出来る。しかし、結果として本作がそれらを刻み込んだヘヴィなレコードになっているかと言えば全くそんなことはなく、実際はむしろ真逆。長い時間を費やしたことで、無駄な思考や雑念は消え去り、彼らの核となる魅力が濃縮された1枚となっている。

本作の制作にあたって、バンドは50もの楽曲を作って試行錯誤を繰り返したというが、最終的に収録されたのはたった9曲。これまでのディスコグラフィでもほぼ全曲を2分~3分台のポップ・ストラクチャーにまとめ、一貫してコンパクトな作品を作り上げてきた姿勢は、本作でも概ね変わっていない。唯一の例外は本作のリード・トラックとして先行公開された1曲目の“アルゼンティーナ(パートI、II&III)”で、異なる曲調が緩やかに繋がっていく3つのパートから成る8分32秒。ただ、この曲も一般的に長尺から連想されるような難解さとは無縁で、どの部分を取ってもスウィートでメロディアス。特に、力強いパワーコードとフックに富んだメロディが疾走する王道ギター・ロック風情の前半部が素晴らしく、シンプルで直接的な音楽性を追求した本作にはこの上ないほど相応しいオープニングと言える。グランジ風味の“ミゼラブル”や、最近一番のお気に入りらしいハイムをどことなく髣髴させる“スルー・ザ・ワイアー”のような新味も多少はあるものの、全体的にはクリアでダイナミックなプロダクションによってこれまでの持ち味をビルドアップしたような仕上がりとなっている。

トレンドに目配せすることを一切止め、自分達の本能に従い作られた本作は、冒頭に引用したようなトーキョー・ポリス・クラブを取り巻く状況を一変させる起死回生の1枚とまでは言えないかもしれない。しかし間違いなく、彼らが踏み出した成熟への誇るべき第一歩だとは言える。晴れやかで、とても清々しいポップ・ソング集であり、胸のすくようなロック・レコードだ。

文:青山晃大

忘れられたロック・バンドが放った
起死回生のカウンター・パンチ

2006年、メンバーがまだ10代だった頃に、EP『ア・レッスン・イン・クライム』でデビューしたトロントの4人組、トーキョー・ポリス・クラブ。海外のインタヴューで、キーボードのグラハム・ライトがこんな風に話している。

「僕らのEPはハイプされた。その後に出した『エレファント・シェル』には、その反動があったんだ。次に『チャンプ』を出した時のみんなの反応は『お、彼らってそんなに悪くないね』で、それから3年ぐらい音沙汰がなかったら、今では『え、コイツらまだやってたんだ!』って感じだよ」

残念ながらそれはおそらくトーキョー・ポリス・クラブに対する世間の認識と、ほとんど一緒なのではないだろうか。しかし逆に言えば、彼らは自分を見失ってはいないということだ。

2010年に前作『チャンプ』をリリースした後、彼らは2000年代の「10年分の10曲を10日間でカヴァーする」というユニークな試みに挑戦しているが、そこではストロークスの“アンダー・コントロール”やフェニックスの“ロング・ディスタント・コール”、M83の“キム&ジェシー”などが取り上げられており、この4年間は言わば、彼らが本当に好きなものを、再確認するための期間だったのかもしれない。

チルウェイヴやダークウェイヴといったあらゆる「ウェイヴ(波)」が押し寄せては消えていくのを眺めながら、「きちんと残るものが作りたかった」と話すヴォーカルのデイヴ・モンクス。こうして届けられた本作『フォースフィールド』が、2014年のシーンの中でどんな意味を持っているのかはわからないし、もはやそんなことは、メンバーも気に留めていないだろう。ひとつだけ言えるのは、このアルバムが彼らのキャリアの中でもクオリティの高い楽曲を揃えた、バンドの最高傑作だということだ。前作に収録された“ウェイト・アップ(ブーツ・オブ・デンジャー)”にはヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリによるリミックスが存在するが、そのヴァンパイア・ウィークエンドの1stアルバムの後半や、彼ら自身もカヴァーした“ロング・ディスタント・コール”が収録されているフェニックスの3rdアルバムが好きな人なら、きっとこのアルバムも気に入ってくれるに違いない。

それが最良の形で表れているのが、やはりアルバムのオープニングを飾る“アルゼンティーナ(パートI、II&III)”だろう。9分にも及ぶこの曲は3部構成になっているのだが、第1部で「僕のXLのTシャツを君に着せてあげたい」と歌っていた主人公が、第2部ではTVから聞こえる銃声で目を覚まし、隣で眠っている恋人が、他の誰かの服を着ていることに気づくというこの曲は、まるでひとりの人間、そしてロック・バンドに訪れる時の流れを、1曲の中で描いてしまったかのようだ。それは時として、残酷なほどに人を変えてしまう。けれどもトーキョー・ポリス・クラブの音楽は変わらなかった。そのことを、このアルバムが証明している。

文:清水祐也

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