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WARPAINT Warpaint (Hostess) by YUYA SHIMIZU
JUNNOSUKE AMAI
January 22, 2014
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WARPAINT

メンバー4人の個性が重なりあった
本当の意味での1stアルバム

今から10年前、ウォーペイントを結成したばかりだったエミリー・コーカルが自分の歌声を探しあぐねていると、当時の恋人だったレッド・ホット・チリ・ペッパーズのジョン・フルシアンテからスリッツの『カット』を渡され、アリ・アップの歌声に勇気づけられたという。それからほどなくして、ウォーペイントは地元ロサンゼルスでスリッツの前座を務めることになるが、2010年にはアリ・アップが死去。それはウォーペイントが〈ラフ・トレード〉から1stアルバム『ザ・フール』をリリースする、ほんの一週間前のことだった。

こんな話をしたのも、ウォーペイントの最新作に収録されている“ディスコ//ヴェリー”という曲にスリッツの遺伝子を感じたからなのだが、実際ウォーペイントのベーシストのジェニー・リー・リンドバーグは昨年リリースされたスリッツのギタリスト、ヴィヴ・アルバータインのソロ・アルバムにも参加しているほどで、女性バンドという共通点以上に、彼女たちがスリッツから教えられたことは大きかったのだろう。

泥化粧、ならぬインディアンの戦化粧に由来するウォーペイントのデビューEPを2009年にリリースした〈マニマル・ヴィニール〉は、もともとはフリー・フォーク系のグループであるチャピン・シスターズやウィンター・フラワーズなどのリリースで知られる、ロサンゼルスのレーベルだ。だからこそ彼女たちの1stアルバムとなる『ザ・フール』がUKの〈ラフ・トレード〉からリリースされ、アンドリュー・ウェザオールがミックスで参加していたことには驚いたのだが、実際にはそこに収められた楽曲のほとんどが活動初期に書かれたものであり、赤く塗りつぶしたインディアンのドクロをあしらったカヴァー・アートも含めて、まだどこかヒッピー的なイメージを引きずっていたことも確かだ。従って、ニック・ケイヴやPJハーヴェイを手掛けるフラッドをプロデューサーに迎え、レディオヘッド作品で知られるナイジェル・ゴドリッチが2曲をミックスするなど、スタッフをUK人脈で固め、トリップ・ホップにすら接近した本作『ウォーペイント』で、ようやく彼女たちは過去を払拭することができたのかもしれない。

2作目にしてセルフ・タイトルを関した本作では、ジャグワー・マーやカート・ヴァイルの作品にも参加しているオーストラリア出身ドラマーのステラ・モズガワも含めた、メンバー全員が曲作りに参加。ギター以上にキーボードの占める比重が増え、ジェニーのR&B嗜好が反映された、ダンサブルな楽曲も増えている。ラストを飾る“サン”はピアノの弾き語りで始まる異色曲で、実際にギタリストのテレサ・ウェイマンには8歳になる息子がいるそうだが、彼女の現在のパートナーでもあるジェイムス・ブレイクも、良い影響を与えていると言えそうだ。

昨年ジェニーと結婚したクリス・カニンガムが手掛けたカヴァー・フォトのように、メンバー4人の個性が重なりあった本作は、彼女たち自身が語っているように、「本当の意味での1stアルバム」だと言えるのだろう。ただ惜しむらくは、メンバー4人が対等な関係にあるがゆえに、ウォーペイントにはアリ・アップのような傑出した個性も存在しないということだ。同じように、彼女たちは一貫したムードを作り出すことには成功しているが、デビューEPに収められていた“ビリー・ホリディ”のように、耳に残る印象的なメロディはほとんど無い。フリー・フォークと呼ばれるシーンから現れてその音楽性を拡げたグループと言えば、ギャング・ギャング・ダンスやココロージーなどが挙げられるが、そういったグループに匹敵する強烈な自我がウォーペイントのメンバーに芽生えた時、このバンドはもっと面白いことになるはずだ。

文:清水祐也

深化を窺わせる盤石のクオリティ・コントロール――
が、その手堅さの陰で、研がれぬ爪に物足りなさも

制作過程の早い段階からメンバーのコメントが伝えられ、とりわけヒップホップやR&Bの影響が予想された本作だが、それらしき際立った曲は7曲目の“ディスコ//ヴェリー”ぐらいだろう。昨年14年ぶりのニュー・アルバムを発表したルシャス・ジャクソンも彷彿させるアーバンなミクスド・アップは、クリス・カニンガムのパートナーとしても知られるベーシストのジェニー・リー・リンドバーグいわく彼女ら流のヒップホップ・バラードとのことだが、アルバムを通しては、実験的やミニマル等と事前にいろいろ語られたほどには1stアルバムの前作『ザ・フール』と大きく変化したような印象は受けない。

今回のレコーディングでは空間を活かしたプロダクションが意識されたようで、音数を絞りレイヤーも控えめなアンビエンスは中盤の“ビギー”や“ティーズ”をはじめ随所に顕著だが、ドラム・パッドやサンプラーも用いたリズム・トラックにリヴァーヴやエコーを重ね、グルーヴに陰影付けるサウンド・メイクは彼女らの基調といえるスタイルであり、そうした意味で本作のアプローチ自体はあくまで前作からの延長線上と見るのが自然だろう。とはいえ、前作であればブリッジ部分でジャムっぽい展開になりそうな場面においても、たとえば“フィーリング・ライト”や“CC”のように演奏は抑制されたテンションが保たれていて、それはギターのテレサ・ウェイマン(ご存知、彼女はジェイムス・ブレイクの彼女である)が本作を印象派の絵画に準えるところの微細なトーン、そぎ落とされた抽象性みたいなものをサウンドにもたらしている。ちなみに、前作ではミックスにアンドリュー・ウェザオールが名を連ねていたことが興味を引いたが、本作ではナイジェル・ゴドリッチが数曲に関与。プロデューサーはフラッドと、これまたビッグネームでそこに音楽的な関連性を見出すのは難しいが、彼が手がけたPJハーヴェイの近作、とりわけ2007年の『ホワイト・チョーク』が捉えた陽炎のような揺らぎと、本作のメディテーティヴな音色の響き、くぐもりを湛えたヴォーカル・コーラスはとても相性がいい。

本作は2ndアルバムになるが、バンドのキャリアは今年で結成10年目を迎える。それにしても、前述のアルバム制作陣しかり、彼女らを取り巻く縦のつながりは豪華で多彩なのに比べ、横のつながりは見えづらく希薄にも思える。過去にギターのエミリー・コーカルの彼氏だったジョン・フルシアンテが制作に関わっていたことも話題を呼んだ2009年のデビューEP『エクスクィジット・コープス』に続き、前作『ザ・フール』がリリースされた4年前といえば、彼女らと音楽性をシェアするシューゲイザーやアンビエントの意匠を纏ったギター・バンドがアメリカ東西海岸のインディ・シーンでクローズアップされたタイミングだった。そこからは、それこそヴィヴィアン・ガールズやダム・ダム・ガールズといったガールズ・バンドが数多く浮上し、そのローカルなコミュニティ内ではミュージシャン同士の緩やかな連帯が築かれたわけだが、しかし彼女らが、ヴィンセント・ギャロや元スリッツのヴィヴ・アルバータインとも共演を果たす反面、そうした音楽的にも近しい関係を築けたはずのシーンと関わりを持ったという形跡はほとんど見当たらない。

ウェイマンらがウォーペイントとして活動する以前に書かれた曲も収録された前作『ザ・フール』に対して、本作はドラマーのステラ・モズガワを迎えた現体制で一からオリジナルで制作されたアルバムになる。本作が2作目にしてセルフ・タイトルを冠せられたのにはそういう意味合いもあるのではないか。ちなみに、先のコミュニティ内ではミュージシャン同士がバンドやレーベルの枠を越えて新たなプロジェクトを立ち上げるなどして創造性を刺激し合う光景が見られたが、リンドバーグが語ったところによれば本作のレーディングでは、楽器パートを固定せずに持ち場を変えながら曲作りを進めるアプローチが採られたのだという。はたして、それが成果としてどれだけサウンドに反映されたのか、正直十分とは言い難い部分もあるように思うが、その旺盛さが次作以降で大きな実を結ぶことを期待したい。

文:天井潤之介

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