SIGN OF THE DAY

インディR&Bの超傑作をモノにした
ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズの
劇的なキャリアの変遷を一気に振り返る!
by AKIHIRO AOYAMA November 20, 2013
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インディR&Bの超傑作をモノにした<br />
ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズの<br />
劇的なキャリアの変遷を一気に振り返る!

皆さん、もうブラッド・オレンジの新作『キューピッド・デラックス』は聴きましたか?このアルバムは、間違いなく今年リリースされたインディR&B作品の中でも屈指の傑作。まだ聴いていないという人は是非ともチェックしてみてください。以前公開されていたYouTubeの全曲試聴は終わってしまいましたが、iTunesではすでに販売が開始されています。まずは試しに、公開されたばかりの“タイム・ウィル・テル”のヴィデオを見てみましょう。

ピアノに歌に謎の振り付けに……と、切なくもコミカルに部屋中をせわしなく動き回るこの男こそ、ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズ。このヴィデオだけをみれば、それこそ80年代からキャリアを積んできた熟練ミュージシャンあるいはダンサーのようにも見えますが、実は彼は2000年代半ばから活動してきたアーティストであり、英米の都市を根なし草のように漂流しながら、そのつど時代の空気と各地のミュージシャンとの交流を見事に反映して、全く音楽性の異なるプロジェクトを立ち上げてきた人物でもあります。

2000年代半ばのディスコ・パンク・リバイバルから00年代後半のロンドン・ニュー・フォーク、そして現在のインディR&Bと、一見すると全く取りとめがないようにも思える彼のディスコグラフィーの変遷は、今改めて振り返ってみると、常に時代の最先端とリンクしたものだったことが分かります。その点において彼は、一定の音楽ジャンルを極める専門家というよりも、その時々に起こっているムーヴメントや自分が受けた刺激をそのまま音楽性に反映させる「エディター」のような音楽家と形容できるかもしれません。そこでこの記事では、劇的な音楽性の変化を繰り返してきた彼のキャリアをまとめて整理することで、彼がいかにして時代を先取り、いかにして現在のブラッド・オレンジとしての活動へと繋がっていったのかを見ていきたいと思います。

まず彼がデビューを果たしたのは、ロンドンで04年~06年に活動したテスト・アイシクルズの一員として。時はディスコ・パンク全盛期、彼らもディスコ・パンク・バンドの1つとして注目を浴びます。こちらがテスト・アイシクルズの代表曲、“サークル・スクエア・トライアングル”。

ディスコ・パンクの直線的なダンス・ビートを基調としながらも、ささくれだったノイズ・ギターとギラギラでけばけばしいビジュアル・イメージ等は、彼らの解散直後にロンドンを席巻することになるニュー・レイヴ・ムーヴメントに通じるものが。また、彼らの残した唯一のアルバムである『フォー・スクリーニング・パーパス・オンリー』(05年)は、まだプロデューサーとして名前を上げる前のジェイムス・フォードをいち早く起用しています。かくして、テスト・アイシクルズはニュー・レイヴに先駆けたバンドとして、解散後も一部にカルト人気を残していくのでした。

テスト・アイシクルズの解散後、次にデヴ・ハインズが表舞台に登場したのは07年。ライトスピード・チャンピオンの名義で、フォーク・ミュージシャンへの驚きのメタモルフォーゼを遂げていました。こちらがデビュー・シングル“ギャラクシー・オブ・ザ・ロスト”。

ノア・アンド・ザ・ホエールがデビュー・アルバム『ピースフル、ザ・ワールド・レイズ・ミー・ダウン』をロング・ヒットさせて、ロンドンの若き才能たちによるニュー・フォーク・シーンの存在を知らしめたのは08年のこと。デヴ・ハインズの先見の明がよく分かります。

さらに彼が凄かったのは、ライトスピード・チャンピオンのデビュー作『フォーリング・オフ・ザ・ラヴェンダー・ブリッジ』を、ブライト・アイズで有名な米レーベル〈サドル・クリーク〉の本拠地、ネブラスカ州オマハでレコーディングしたこと。ブライト・アイズの盟友であるマイク・モギスをプロデュースに招き、〈サドル・クリーク〉所属のカーシヴ、ザ・フェイント他多数の現地アーティストがレコーディングに参加した本作は、いわばロンドンとオマハのニュー・フォーク・シーンの邂逅。この行動力と音楽的な嗅覚、驚きです。

この頃のインタビューで、彼はすでに1つのスタイルに拘らない音楽家としての野心を公言していた記憶があります。ストロークスみたいなアルバムや映画のスコアも作ってみたいとか、フェスのステージでロック・オペラのショーを行うとか。ブルックリン・レコーディングでベン・アレン(アニマル・コレクティヴ、ウォッシュト・アウト他で有名)をプロデュースに迎えたライトスピード・チャンピオンの2作目『ライフ・イズ・スウィート!ナイス・トゥ・ミート・ユー』(10年)は、前作のフォーク・サウンドを踏襲しつつも、音楽性の拡がりを感じられる仕上がりに。例えば先行シングル“マーレーン”は、そこはかとなくストロークス風味が感じられる1曲。

こうしてライトスピード・チャンピオン名義でキャリアを重ねていくのかと思いきや、デヴはライトスピード・チャンピオンと並行して、新たなプロジェクトとしてブラッド・オレンジをスタートさせます。それが2009年のこと。この頃にはすでにニューヨークに居を移していたようなので、新たな地での新たな人と音楽との出会いがこの新プロジェクトのアイデア源となったのは間違いないでしょう。1stアルバム『コースタル・グルーヴス』からのリード・シングル“サットフィン・ブルヴァード”のヴィデオを見れば一発で分かります。

革ジャンにキャップの、完全なるニューヨーカー・スタイル!途中に挿入されるキャンプな映像も実にニューヨーク的です。音楽的にもNYアンダーグラウンドの空気を感じさせる、エクレクティックながら削ぎ落とされた音像を見せる1枚となっていて、2枚目のシングル“シャンペン・コースト”にはチルウェイヴ風味も。

昨年2012年には、何とソランジュのEP『トゥルー』を全面プロデュースして、ファンを驚かせました。ソランジュと言えば、ビヨンセの妹としても知られ、インディとR&Bが接近しはじめた09年頃からいち早くダーティ・プロジェクターズとステージ上でコラボするなど、インディ好きを公言してきたR&Bシンガーです。これまでにメジャーから2枚アルバムをリリースしていますが、インディ好きが高じてグリズリー・ベアのクリス・テイラー主宰の〈テリブル〉と契約。その第一弾EPのプロデュースに選ばれたのがデヴ・ハインズというわけです。ここでのサウンドは、すでに最新作『キューピッド・デラックス』に繋がる音の隙間を活かしたミニマルでパーカッシヴなアーバン・ソウル。

続いて彼が関わったのは、音楽活動の他にモデルや女優業もこなし、今や新世代のポップ・アイコンとなりつつあるスカイ・フェレイラの“エヴリシング・イズ・エンバラシング”。スカイの圧倒的な存在感とスタイリッシュな映像美も相まって、世界中のメディアが絶賛したこの曲を共作したことで、デヴ・ハインズの名前はさらに注目を浴びることになります。

直近では、21世紀の英国を代表するガールズ・グループ=シュガーベイブスのオリジナル・メンバーによる再結成ユニット、ムティア・キーシャ・シボーンの最新シングルでもプロデュースを手掛けています。あのシュガーベイブスだよ!凄いな、デヴ!

ここまで振り返ってみて、デヴ・ハインズの時代の行先を感じ取る嗅覚の鋭さが分かってもらえたでしょうか。彼の音楽には常にその時々のムードが反映されていると同時に、どこのシーンに属していても常に「はみ出し者」じみた所在のなさ、根なし草的感覚もあって、それが独特の魅力に繋がっていることも何となく分かってもらえたはず。ブラッド・オレンジの最新作『キューピッド・デラックス』は、デヴ・ハインズのディスコグラフィーの中でも最高傑作と言える1枚なのは確実ですが、これから彼がこのブラッド・オレンジの路線を継続してやっていくのか、またライトスピード・チャンピオンを復活させるのか、はたまた別のプロジェクトを新たに始動させるのか、次の一手が全く読めない楽しみもあります。おそらく彼は、今後も時代が変わればそれに合わせて音楽性を変え、都市を漂流しながら新しい音楽を作り続けていくことでしょう。自身のプロジェクトのみならず、プロデュースやソングライター業でも更なる人気を集めていきそうなデヴ・ハインズに今後も要注目です。

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