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ビヨンセ、カニエ、フランク・オーシャン、ボン・イヴェール、アノーニ、ブラッド・オレンジetc……、シンプルにベストを挙げても、〈サイン・マガジン〉のベスト・アルバム上位とほとんど被ってしまうので、ここでは個人的にリピート回数の多かった愛聴盤を。と思ったのですが、チャンス・ザ・ラッパーの一位だけはどうしても譲れない。ダントツのトップ。今しかできないこと、今やるべきことをしっかりと見据えつつ、時代の空気に流されずに信念を貫き通す。チャンセラー・ベネット自身の個人的な青春譚でもあり、シカゴの成長記録でもあり、アフリカン・アメリカン・コミュニティを鼓舞するリアリスティックなメッセージにもなっているという、何層にも鮮やかに2016年の今を描いた傑作でした。
その他、20年近く経ったとは思えないほどに変わりなく、しかし時代が変わったことで唯一無二の存在感が際立って魅力的に映ったアヴァランチーズ。ブラック以外のアメリカ音楽の豊饒さを再発掘していたハミルトン・リーサウザー＋ロスタム。超名曲の“明るい未来”をはじめとして、3本のギターの軽妙な絡みが素晴らしくアップリフティングなネバヤン。YouTubeにアップされた素人の歌・ラップから無数にサンプリングするという現代ならではの手法で、独自性の高いエレクトロニック・ミュージックを創作していたザ・レンジ等々が個人的な愛聴盤。先に挙げた歴史的な傑作も含めて、社会やカルチャーとの向き合い方は人それぞれだけど、個としての表現から社会性が透けて見えるような音楽に特に惹かれていたように思います。
多くの海外メディアの総括記事では、「2016年はひどい年だったが、音楽だけは素晴らしかった」というような言葉が目につきましたが、まぁ確かに、いろんな意味で歴史に残る年になったのは間違いないでしょう。社会的には、分裂と対立と衝突の時代。ただ、そんな時代だからこそ、ポップ・ミュージックには数多くの融和と混交があった。だからこそ素晴らしかった。
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