SIGN OF THE DAY

ポップ・ミュージックは世界が舞台。そんな
当たり前の話をごく当たり前に実践し始めた
このニッポンで生まれたアクト6組をご紹介
by RYOTA TANAKA May 07, 2015
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ポップ・ミュージックは世界が舞台。そんな<br />
当たり前の話をごく当たり前に実践し始めた<br />
このニッポンで生まれたアクト6組をご紹介

「ポップ・ミュージックは世界が舞台」――本稿では、音楽性も拠点も手法もそれぞれに異なりつつも、そんな「当たり前」を実践しているバンドをいくつか紹介したいと思います。彼らは、活動においても、情報発信においても、常に多角的に動いているため、積極的にアンテナをはってなければ、キャッチしにくい面もあるかもしれません。特に国内の情報網のなかにいては。

でも、今は21世紀。バンド・カルチャーよりも一足早く国境を越えていったインターネット世代のシーンにおいては、いくつもの変名を使い、すさまじいスピードで新しい音楽を発表し続けるのが当たり前なのは、すでに御存知の通り。特に一番最初に紹介するボーイズ・エイジのスタンスは、むしろそうしたトラックメイカーたちとの親和性が高いように思います。彼らの活動を追っていくこととは、世界に点在するローカルなシーンが次第に線で繋がっていくという、その渦中でしか味わえない同時代的興奮を味わうことでしょう。それこそポップ・カルチャーにおけるもっとも幸福な体験ではないでしょうか。

では、始めましょう。まずはボーイズ・エイジ。埼玉に暮らす、この若き二人組が今稿の主役です。すでに海外のインディ・リスナーから“日本のDIYマスター”と称されているバンド。ローファィで弛緩したスラッカー・サウンドは、褒め言葉なのかどうなのか悩ましい“ジャップ・デマルコ”という呼び名を冠されました。まずは海外プレスをそんな風に言わしめた件のトラック“ポストカード・ホリデイ”を聴いていただきましょう。

Boys Age / Postcard Holiday

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ただ、彼らボーイズ・エイジについて語ることはたやすくありません。というのも、とにかくこのバンドは、自らのレーベル、〈ライ・オン・ザ・オール・ゴールデン・ミュージック〉のみならず、国内外のインディ・レーベルから驚異的なペースで膨大な作品をリリースし続けている。そのため、活動の全貌を把握するのが非常に厄介なのです。

本稿では主に4月に日本盤CDがリリースされたばかりのアルバム『Calm Time/やすらぎの時間』を取り上げるつもりだったんですが、もはや彼らは次作『インナー・ムーン』を5月末にデータ発売するとのこと。しかも、間髪入れず、さらなる新作『エルス』を制作中とアナウンス。「多分これまでで最も好きなアルバムになると思う」というコメントともに、すでにサウンドクラウドには二曲の新たなトラックがアップされているのです。

ほぼ全曲で作詞作曲、宅録での制作をおこなうKaznary Mutowはタンブラー上でこんな風に語っています。「昔、武藤さんは音楽にとり憑かれているって言われたことがある。知っているしそれはやっぱり正しかったんだろうな」。

そんなわけで、2012年の結成から、バンドキャンプにはEPやデジタル・コンピも含めると、彼らボーイズ・エイジにはすでに30近くのタイトルがある。もはや追えないよ! これこそが彼らが海外のリスナーから“日本のDIYマスター”と呼ばれる所以なのです。

過去に名古屋のレーベル〈ギャラクシー・トレイン〉が彼らの旧作のリイシューをしたことがあったものの、これまでリリースの大半は海外のレーベルから。ロスの〈バーガー・レコーズ〉、〈ブリーディング・ゴールド〉、〈ロリポップ・レコーズ〉、ポートランドの〈ナー・テープス〉、フェニックスの〈ラバー・ブラザー・レコーズ〉といったUSのインディ・レーベルが中心。きっとそういう時代なんですね。

こうした莫大なディスコグラフィを前に少し腰が引けてしまうのも無理もありません。しかし、これだけ超ハイ・ペースでありながら、実はそれぞれのタイトルが明確に異なるサウンド・カラーのもとに完成されていることにこそ、驚くべきなのではないでしょうか。

では、ここ最近の作品から聴いてみましょう。昨年12月にリリースされた『タイガー!タイガー!』は、SFの古典、アルフレッド・ベスター『虎よ!虎よ!』にインスパイアされた一枚。スペーシーな音響にサントラ風のゴージャスなシンセが被さってくるトラックです。

Boys Age / A Pair of Eyes


昨年7月にリリースされた『ザ・テイル・オブ・ローアン・ホーセズ』は、シャンソンやフレンチ・ポップスからの影響がもっとも現れた作品です。低音ヴォーカルのダンディズム、メランコリックなムードはゲンズブール諸作を思わせたり。

Boys Age / In The Doldrums

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そして、昨年4月リリースの『アメイジング・ストーリーズ』は、ドリーミーでゲイズなサウンドを展開しています。近作だと、これがいわゆるローファイ・ポップに一番近いかも。

Boys Age / God Will Test You Through The PC Screen

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国内レーベルからの初の新作リリースでもある、取りあえずの最新作『Calm Time/やすらぎの時間』も見ておきましょう。この『Calm Time/やすらぎの時間』は、ここまでに聴いてもらった作品と比較しても、もっともテンポが遅く、もっともチルな作品。波々と盤の反った戦前ブルースのレコードを回転数をひたすら遅くしてかけたような奇妙なトリップ感が全編を覆っています。ハワイのうだるような炎天下、ビーチで白昼夢を見ているかのような、レイドバックしたサイケ音楽です。

Boys Age / Calm Time (full album stream)

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この『Calm Time/やすらぎの時間』は、アメリカではここ数年でもっとも信頼できるインディ・レーベル〈バーガー・レコーズ〉、イギリスは18歳の青年が立ち上げたという新興の〈ソーダ・ポップ〉からカセット・リリース。ここ日本では、ジェシー・ルインズ、モノなど、これまでも国内に拠点を置きながら、ごく普通に世界に向けて活動しているバンドをリリースしてきた〈マグニフ〉から。

おそらく今後はボーイズ・エイジに限らず、各国でレーベルを使い分けながら、ごく普通に世界に向けて活動する国内のアクトが増えていくのかもしれません。というわけで、ここからは、ボーイズ・エイジと同じく、国籍はたまたま日本ながら、ごく普通に世界に向けて活動しているバンドをいくつか駆け足で見ておきましょう。

ここ日本ではボーイズ・エイジともレーベル・メイトであり、こうした活動の先駆者でもあるジェシー・ルインズについては、杉山仁氏による最新アルバム時の記事を参照のこと。こちらにそのリンクを貼っておくことにします。

10分で教えます。チルウェイヴ発、常に
世界同時進行のサウンドを更新してきた
ジェシー・ルインズ、その先鋭性と冒険心


お次は、やはりジェシー・ルインズ、ボーイズ・エイジともここ日本ではレーベル・メイトでもあるモノ。2010年、NYでのライヴ映像を観てもらいましょう。タイヨンダイ・ブラクストンやジョニー・グリーンウッドとの演奏でも知られる、25人編成のワードレス・ミュージック・オーケストラとの共演です。

Mono

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結成から間もない2000年に活動拠点を国内からニューヨークへと移したこの4人組ポスト・ロック・バンドは、今や40カ国以上をツアーするなど、世界各国をその活動の基盤に置いています。

ロンドンに活動の基盤を置いたボー・ニンゲンも、イギリスを中心に海外で名を轟かすアクトの一組。これは昨年2014年、ロンドンのヴェニュー、ヘヴンでのライヴ映像です。坂本慎太郎やオーガ・ユー・アスホールと同じく、海外で活動するためには、特に英語で歌うことは必須ではないことを伝えていると言えるかもしれません。

Bo Ningen

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裸のラリーズや灰野敬二を継ぐ和製サイケの系譜として位置付けられることも多い、彼らボー・ニンゲンは海外でも三枚のアルバムをリリース。ここ最近は、イースト・インディア・ユースで注目された〈ストールン・レコーディングス〉を海外の拠点にしています。

この二年、タフィも英国を中心に脚光を浴びているアクトです。5月にリリースされる新EPは、このPVを見る限り、これまで以上にオルタナ色を出している予感。かっこいいです。

taffy


このコケティッシュな歌声を持つ女性ヴォーカルを擁する4人組ギター・バンドは、スリーパーやエコーベリーなどの90年代ブリット・ポップを引き合いに出され、これまでに出した2枚のアルバムは〈NME〉でも、それぞれ7点、8点と高評価を獲得しています。

すでに日本でもビッグ・アクトであるトリコも、これまで精力的に海外での活動を行ってきました。こちらの映像は、スロバキアでの〈ポノダ・フェスティヴァル〉でのライヴの模様。盛り上がりすごい。

tricot

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ポスト・ロックを独自進化させた彼女たちのアンサンブルは、ある意味、とても日本的に聴こえたりもしますが、その特異性がむしろフックとなっているという好例と言えるかもしれません。

では、最後にザ・スーザン。やはりこのバンドに触れないわけにはいかないでしょう。こちらの映像は現在の3ピース体制以前のものですが、彼女たちを取り囲む海外でのムードをフレッシュに伝えてくれることと思います。

The Suzan

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ザ・スーザンは今年初頭には自主レーベル〈ポコ・ポコ・ビート〉の設立をアナウンスしたばかり。これまでもNYに移住し、〈フールズ・ゴールド〉と契約し、アルバムを世界リリース。もはや完全に世界を拠点として活動を続けている姿は、多くのこの国のインディ・バンドに新たなオプションと勇気を与えたことと思います。

「ポップ・ミュージックは世界が舞台」――そんな当たり前のことが当たり前と思われていなかった時代はもう終わりなのかもしれません。だって、今は21世紀なのですから。




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