SIGN OF THE DAY

〈サマソニ〉行くなら、これは聴いとけ!
ケミカル・ブラザーズを楽しみ尽くすべく
その四半世紀の歴史を総ざらい!:後編
by YOSHIHARU KOBAYASHI July 01, 2015
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〈サマソニ〉行くなら、これは聴いとけ!<br />
ケミカル・ブラザーズを楽しみ尽くすべく<br />
その四半世紀の歴史を総ざらい!:後編

今やケミカル・ブラザーズはビッグ・フェスの帝王。そのライヴは、ヘッドライナーにふさわしいスケールと貫録とカタルシスに満ちている。とは言え、前回の来日は4年前。その後にEDMのブームもあったので、「アヴィーチー最高! ケミカル、誰それ?」という10代がいたっておかしくない。そこで私たちは、デビューから現在に至るまでの約四半世紀にわたる歴史を一挙総括。これさえ読めばケムズの何たるかがわかり、ライヴも存分に楽しめてしまうパーフェクト・ガイドを作り上げました。

こちらの前編では、90年代にリリースされた最初の3枚のアルバムまでを振り返っています。

〈サマソニ〉行くなら、これは聴いとけ!
ケミカル・ブラザーズを楽しみ尽くすべく
その四半世紀の歴史を総ざらい!:前編


そして、この後編では、2000年代から今年2015年の最新トラックまでを一気に駆け抜けます。さあ、ヒア・ウィ・ゴー!




前編で見てきた通り、90年代のケムズは時代の波に乗って破竹の勢いでした。ダンスフロアから出現し、新しいポップ・ミュージックの寵児にまで駆け上った。そう言っても過言ではありません。しかし、2000年代に入ると状況が変わってきます。クラブ・シーンにはスーパースターDJの時代が到来。片やアンダーグラウンドの信頼は、『キッドA』以降のレディオヘッドや、海賊ラジオを発信源とするグライムへと寄せられるようになりました。勿論、ブルックリンからはロックンロール・リヴァイヴァルが勃発します。つまり、いろいろなものの分断が始まった時代ですね。そういった背景もあり、その後のケムズは独立独歩を余儀なくされることになるのです。

Star Guitar (2001)

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2001年にリリースされた4th『カム・ウィズ・アス』は、これまでの三作の総決算的な内容であると同時に、非フロア志向のサイケデリック・ミュージックを追求した作品でもあります。なので、今でもライヴ・レパートリーとして残っている曲は少ないですが、これはずっとプレイし続けていますね。サウンドとしては前作に引き続きトランス/プログレッシヴ・ハウス路線とも言えますし、フレンチ・タッチ的と言えなくもない。いずれもしても、ロマンティックでメロディアスな上モノが心地よい爽やかなダンス・トラックで、朝方のフロアやライヴのクライマックスに似合うイメージ。上の映像は2011年の〈フジ・ロック〉ですが、3分過ぎのブレイクでみんな気持ちよさそうに両手を挙げている様子が壮観。

Galvanize (2004)

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5作目の『プッシュ・ザ・ボタン』は、部分的にヒップホップ色を強めた作品。そもそもケムズが“アシッド・ハウスとヒップホップの融合”というアイデアで出てきたことを考えると、ここで改めて自分たちのルーツを見つめ直したアルバムだとも言えるでしょう。Q・ティップをフィーチャーした“ガルヴァナイズ”は、そうしたヒップホップ回帰をもっとも明確に打ち出したトラック。BPM105で、ビートもスカスカ。ストリングスのリフとの掛け合いを見せながら、Q・ティップのラップが冴え渡る。これは全英3位と、久々のスマッシュ・ヒット。今もライヴでは欠かせないキー・トラックのひとつです。

Do It Again (2007)

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2007年はクラクソンズが1stアルバムをリリースし、ジャスティス、デジタリズム、シミアン・モバイル・ディスコのデビュー作が出揃った年。つまり、ニュー・レイヴとエレクトロの時代です。しかし、既にキャリア10年以上のベテランになっていたケミカルは、そんな子供たちの流行はどこ吹く風。この年にリリースした6作目『ウィ・アー・ザ・ナイト』でも、シンセ・ベースにディストーションをかけたりせず、『プッシュ・ザ・ボタン』以降のサウンドをさらに突き詰めていきます(ちゃっかりクラクソンズはゲスト参加させていますが)。“ドゥ・イット・アゲイン”は、“ガルヴァナイズ”に続くヒップホップ路線のナイス・トラック。BPM125のハウス・ビートを使った、ケムズ流のヒップ・ハウス。

Saturate (2007)

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最近のケムズはわかりやすいフロア・アンセムがないなー、と少しばかり寂しい気持ちになっていた2007年。その心の穴を埋めてくれたのが“サチュレイト”でした。星空をドライヴする超ロマンティックなダンス・トラック。ぶっちゃけ、『ウィ・アー・ザ・ナイト』でも断トツの出来でした。これは夜の野外で聴いたら最高ですよねー。上の映像は2011年の〈フジ・ロック〉。ブロック・パーティのケリー・オケレケが参加したロッキンな“ビリーヴ”と繋いでいます。



『プッシュ・ザ・ボタン』の頃からか、ケムズは様々なジャンルの有名ゲストを迎えたオールスター・アルバムを作るようになりました。それは、あまりにも大きくなり過ぎてしまった彼らが、もはや特定のシーンに帰属できなくなり、ある意味では孤独な存在になったことを意味しています。しかし、それでもポップ・アクトとしての責任は容赦なく両肩にのしかかってくる。そのような状況に対しての回答が、過去数作のように豪華でにぎやかなアルバムを作ることだった、とも言えるわけです。これは辛い。自分たちが出てきたシーンから切り離され、デカいことにしかアイデンティティを見い出せなくなるのはスタジアム・バンドに付き物の苦悩ですが、正直、この先にはドン詰まりしかない。そろそろケムズもキツいかな――と誰もが内心思い始めていたはず。

そんなところに届けられた7作目『ファーザー』は、まさかまさかの大復活作。起死回生の一発です。ここでは2000年代の彼らが背負っていた重荷をすべて振り払い、久々に完全フロア志向のダンス・トラック集を上梓。ゲストも一切なしの潔さ。自分たちはポップ・アクトである以前に、フロアを熱狂させるダンス・アクトである――という意識に立ち返ったこのアルバムは、2nd『ディグ・ユア・オウン・ホール』以来となる大傑作です。何の疑問を差し挟む余地もなく。

それは、最近のライヴでもガンガン使われている収録曲の素晴らしさに触れれば納得できるはず。

Swoon (2010)

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これはチョーキング・ギターのような音のループが美しい、泣きの名曲。“スター・ギター”や“サチュレイト”の発展形とも言える、幻想的でメロウな感覚がたまりません。

そして、以下の2曲も文句なしに最高のダンス・トラック。初期のような暴力性こそ影を潜めているものの、代わりにディープでサイケデリックな感触が強まり、2000年代の3作品で奇妙なヘッド・ミュージックを追求してきた成果を感じ取れます。

Escape Velocity (2010)

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Don't Think (2010)

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そして、〈サマーソニック〉開催を目前に控えた7月17日に、ケミカル・ブラザーズは5年ぶりの新作『ボーン・イン・ザ・エコーズ』をリリースします。まだその全貌はつかめませんが、今のところ公開されている曲を見ていきましょう。

Go (2015)

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“ガルヴァナイズ”と同じくQ・ティップがヴォーカルで参加、MVの監督は名作と名高い“レット・フォーエヴァー・ビー”のヴィデオを手掛けたミシェル・ゴンドリー。と、映像を含めて、これまでのケムズの魅力を高密度で圧縮したようなトラックです。まあ、「ケミカルらしいね!」と誰もが言いそうな曲。5年ぶりの新作の露払いとしては十分でしょう。

Sometimes I Feel So Deserted (2015)

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これはいいです。かなりベースが強調されたサイケデリックなダンス・チューン。ヒプノティックなシンセや終始ファルセット気味の声ネタもばっちりハマっていて、『ファーザー』に収録されていてもおかしくなさそう。脳がやられる上モノと、グイグイと腰に来るビートの対比が最高です。

そして、セイント・ヴィンセント参加のディープな“アンダー・ネオン・ライツ”もなかなかの出来。これらの曲から推測するに、新作は『ファーザー』的なダンス・トラックもありつつ、よりポップに振れていそう。と感じるのですが、さあ果たしてどうなってるんでしょうか?

Under Neon Lights (2015)

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これにて、23年にわたるケミカル・ブラザーズの歴史の総括は完了。全部読んだあなたは、もうすっかり準備万端です。後はネットで拾った最新のセットリストでも眺めれば、大体のライヴの内容は想像がつく――と言いたいところですが、そう簡単にはいきません。幾つか貼ったライヴ映像を見てもわかる通り、彼らのライヴは常に進化を遂げています。アレンジは何度も手を加えられ、予想もしない曲同士でマッシュアップされたりもする。勿論、そこにアダム・スミスによる強烈な映像が加われば、トラック単体で聴いている時とは比較にならないカタルシスが生まれます。つまり、幾らケムズの曲に精通していて、最新のセットリストがわかっていたとしても、それは何の“ネタバレ”にもならない。出来の悪い映画を結末を調べてから見る退屈さとは、まったく違った体験なのです。ケムズのライヴには、いつも未だ見ぬ興奮と熱狂が待ち受けている。だからこそ、オーディエンスは何度でも彼らのライヴに駆けつけるのでしょう。きっと今年の〈サマーソニック〉でも、私たちは新たな衝撃を受けることになるに違いありません。




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