SIGN OF THE DAY

新世代のビョークことFKAツイッグス、
世界的な絶賛の嵐! さて、あなたは?
by YOSHIHARU KOBAYASHI August 22, 2014
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新世代のビョークことFKAツイッグス、<br />
世界的な絶賛の嵐! さて、あなたは?

2013年最大の衝撃は、ダフト・パンク『ランダム・アクセス・メモリーズ』でも、アーケイド・ファイア『リフレクター』でも、アークティック・モンキーズ『AM』でもない。それは間違いなく、FKAツイッグスの『EP2』だった。

カニエ・ウェスト『イーザス』の制作陣に大抜擢されたアルカとの共同プロデュースで作り上げたこのEPは、50年後の未来からやってきたR&B、もしくは宇宙から降ってきた未知の音楽――と大袈裟な言葉を振りかざしたくなるほどの衝撃をもたらした。とりわけ、当時も絶大な支持を受けた3曲目の“ウォーター・ミー”は凄まじい。ビー玉が床を跳ね回っているような不規則/細切れのビートに乗せ、ゼンマイ仕掛けのベティ・ブープのようにFKAツイッグスの首が激しく振動するMVも強烈だ。

FKA twigs / Water Me

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先鋭的なサウンド、エキゾチックでミステリアスなヴィジュアル、総合アート的な志向性、そして他の如何なる要素よりも鮮烈なインパクトを放つ神秘的な歌声。それらが高次融合したFKAツイッグスのアウトプットが、ビョークと比較されることが多いのも決しておかしな話ではない。実際、この“ウォーター・ミー”1曲だけでも、新世代のビョークに名乗りを上げる権利は十分にある。それゆえに、我々『サイン・マガジン』の期待も膨れ上がっていた。

せっかくなので、『EP2』の他の曲も貼っておきたい。不穏なアンビエンスとインダストリアルなムード、そして刺激的なリズムはどれも共通していて、彼女が一発屋でないことがよくわかるだろう。

FKA twigs / How's That

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FKA twigs / Papi Pacify

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FKA twigs / Ultraviolet

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新世代のビョークという見方に妥当性がある一方で、彼女を取り巻く状況からは、かつてのジェイムス・ブレイクを思い起こした人もいるのではないか。新しいムーヴメントを象徴する存在であり(JBはポスト・ダブステップ、FKAはインディR&B)、デビュー・アルバム前のシングルが有力メディアの年間ベストに軒並みランクイン。〈BBC〉恒例の期待の新人リストに入るほどポップ・フィールドから期待が高いと同時に、アンダーグラウンドからの信頼も厚い。という意味では。要するに、FKAツイッグスは最新のセンセーションだということだ。

ジェイムス・ブレイクの1stアルバムは、前評判ほどセールスも評価も伸びなかった。が、FKAツイッグスが8月6日に送り出したデビュー作『LP1』に対する世界的なリアクションは、かなり熱狂的に感じられる。

例えば『ピッチフォーク』は、8.8点という超ハイ・スコアを与え、「記念碑的なデビュー」とまで謳っている。以前からラヴコールを送り続けてきた『デイズド・アンド・コンフューズド』は、「Future Shock」とのキャッチとともにカヴァー・ストーリーに抜擢。「FKAツイッグスは、これまであなたが見たり聴いたりしてきた何者とも似ていない。モダン・ミュージックのサウンドを書き換える英国アヴァンギャルド・ポップの作家に出会おう」と鼻息が荒い。熱心なインディ・リスナーから厚い信頼を寄せられているブログ、『タイミー・ミックス・テープス』は控えめな評価だが(5点中3点)、他は軒並み歓待モードである。少なくとも、今年リリースされたデビュー・アルバムでは、これ以上の賛辞が方々から寄せられているものは記憶にない。

ただ正直なところ、『LP1』はもっと評価が割れるのでは? と予想していた。というのも、これはどこに評価の軸を置くかで、印象が変わる作品だからである。アルバムからのリード・トラック、“トゥー・ウィークス”を聴いても明らかだろう。この曲はシルキーな極上のR&Bポップで、“ウォーター・ミー”を筆頭とする『EP2』のトラックと較べると、驚くほどすんなりと耳に馴染む。

FKA twigs / Two Weeks

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『EP2』は全編アルカが共同プロデュースを務めていたが、『LP1』で彼が関わっているのは2曲のみ(うち、1曲は複数のプロデューサーとの共作)。インク、サンファ、ブラッド・オレンジ、クラムス・カジノなど、インディR&B/ヒップホップの精鋭が脇を固める一方で、最も多くのトラックを手掛けているのは、最近ではラナ・デル・レイ『ボーン・トゥ・ダイ』で腕を振るい、ポップ・ミュージックの世界でも高評価のエミール・ヘイニーだ(“トゥー・ウィークス”も彼の仕事)。今やヒット請負人のポール・エプワースも1曲で参加している。要するに『LP1』は、フューチャリスティックで先鋭的な音楽性に変わりはないが、その上でポップとの距離感を上手く計ろうとしている作品なのではないか、ということ。その割には、ひらすら先鋭性が際立っていた『EP2』を評価した向きからのバックラッシュが少なくて済んでいるのは、アルバム全体のエグゼクティヴ・プロデューサー的な役割も果たしたFKA本人の手腕ゆえか。

意外にもポール・エプワースのプロデュースなのだが、アルバムで最も『EP2』の頃にイメージが近い曲のひとつ、“ペンデュラム”のMVも最後に貼っておこう。

FKA twigs / Pendulum

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さて、『LP1』は、「Future Shock」なのか、新世代のビョークの地位を確かなものにする作品なのか、このまま今年最大のセンセーションとして歴史に刻まれるのか、それとも――それを各評者の視点から多角的に浮き彫りにすべく、近日中にレヴューをアップしたい。



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