SIGN OF THE DAY

「韓国のSuchmos」とはもう言わせない!
ヒョゴだけが欧米にも日本にも存在しない、
世界基準の「王道ロック・バンド」なんです
by YOSHIHARU KOBAYASHI November 11, 2016
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「韓国のSuchmos」とはもう言わせない!<br />
ヒョゴだけが欧米にも日本にも存在しない、<br />
世界基準の「王道ロック・バンド」なんです

2016年の今、目を見張るべき若手ロック・バンドはほとんど見当たらない。と思っている人は多いはず。確かにアラバマ・シェイクスやテーム・インパラはすごい。「でも、それ以外は?」と言われると答えに困る。それが大方の実感ではないでしょうか。

実際、欧米のヒット・チャートを見渡しても、目立っているのはレディオヘッドやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、グリーン・デイといった80~90年代から活躍する大御所か、トゥエンティ・ワン・パイロッツなど「ロック・バンド」と一概に呼んでいいのかわからないバンドが大半。勿論The 1975のように健闘している若手はいるものの、彼らはトゥエンティ・ワン・パイロッツとはまた別の意味で、「ロック・バンド」と安易に括るのが憚られる存在でしょう。

一方の日本は、世界的に見てもほぼ唯一の「ロック・バンド天国」。とは言え、欧米のロックの歴史の本流から外れた、いわゆるガラパゴス的なサウンドが優勢なのはご存知の通り。そういった状況は地域性を考慮すれば納得は出来るのですが、正直、特に興奮させられることはありません。ごく控えめに言っても。要するに、2016年に活躍しているのは、昔からのファンに支え続けられている大御所か、「ロック・バンド」と呼ぶには変化球のアクトばかり。

では、ロック・バンドの王道を歩みながらも、同時にフレッシュな息吹も感じさせる「正統派」の新人バンドは、2016年にはもう存在しないのでしょうか? そんなことはありません。韓国の4人組ヒョゴは、その系譜の先端に位置付けられるべきバンドなのですから。

まずは聴いてもらいましょう。韓国ドラマ『アントラージュ』の「ミックステープ#1」としてリリースされた新曲“MASITNONSOUL”。このリフを主体にしたアグレッシヴなサウンドが、ロック以外の何物だと言うのでしょうか。勿論、J-ROCK的な、リスナーに媚びたコーラス(サビ)などありません。攻撃的なリフとヴァース、リズムの緩急だけで押し切る、チリ・ペッパーズも真っ青の、最高のロック・ソングです。

hyukoh / MASITNONSOUL

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本国では4000人規模の会場を即完し、過去2回の単独来日公演も見事ソールドアウト。2016年11月の初ジャパン・ツアーも、デュオ・ミュージック・エクスチェンジでの東京公演は当たり前のように売り切れています。既に状況は出来上がりつつあるので、彼らの魅力に気づいている人も少なくないでしょう。我々〈サイン・マガジン〉も、〈サマーソニック〉での来日を前に彼らへの期待を語っていました。

サマソニ直前 短期集中ゼミ①
「今、Suchmosに勝てるのはhyukohだけ!」


こちらでも話していた通り、ヒョゴは今、アジアでもっともワールド・スタンダードなサウンドを鳴らしているロック・バンドです。彼らのベースにあるのは、ジミ・ヘンドリックスやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのようなファンキーなギター・ロック、あるいはホワイテスト・ボーイ・アライヴをはじめとした00年代インディ/北欧勢からの影響。そこにスティーヴィー・ワンダーなどのソウル、そしてボサノヴァやジャズからの影響を織り交ぜて、オリジナルなサウンドに落とし込んでいます。エクレクティックな音楽性ではあるものの、総体としてはオーセンティックな仕上がり。これは世界的にもありそうでなかったサウンド、と言っていい。

hyukoh / Comes And Goes

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しかし、なぜ韓国からヒョゴのようなバンドが生まれたのでしょうか? まず大前提としてあるのは、韓国ではメインストリームにもアンダーグラウンドにも欧米の音楽が浸透していること。それは、欧米市場を本気で狙うK-POPがメインストリームに君臨する一方で、キース・エイプのようにアトランタ勢と共振するトラップを乗りこなすラッパーや、プライマリーなどオーセンティックなヒップホップのトラックメイカーが活躍していることからも、十分に理解出来るでしょう。韓国の音楽家たちはジャンルや商業的な規模を問わず、海の向こうの最新トレンドをきっちりと追いかけている。そんな様子が伺えます。

Keith Ape / It G Ma feat. JayAllDay, Loota, Okasian & Kohh

Primary, Ohhyuk / Bawling

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つまり、良くも悪くも韓国はアジアでも特に音楽のグローバル化が進んでいるということですが、そんな国の中でも、ヒョゴが活動を始めたのはソウルのホンデ(弘大)。韓国屈指の芸術大学、ホンイク(弘益)大学があり、アート、ファッション、音楽などのカルチャーの発信地として知られているエリアです。ここは韓国でヒップホップやロックのインディ・シーンが生まれた場所と言われており、音楽的にも人種的にもマルチカルチュラル。このようなバックグラウンドがあったからこそ、ヒョゴのようにエクレクティックで、なおかつ世界で活躍することに意識的なバンドが育ったと考えてもおかしくはありません。

しかもヒョゴには、シンガー、ソングライター、フロントマンとして卓越した資質を持つオ・ヒョクという男がいます。

彼の佇まいと歌声が醸し出す、内省的で、冬の寒空に一人ポツンと取り残されたようなフィーリングは、その音楽に一層特別な輝きを与えていると言っていい。世界に目を向けた基礎体力の高いバンド・サウンドに、カリスマ性のあるフロントマン――優れたバンドの条件を幾つもクリアしているヒョゴは、まさに注目されて然るべき存在でしょう。

hyukoh / Wi Ing Wi Ing

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と言われても、自分の耳で確かめるまで納得は出来ないはず。ヒョゴは本当に世界基準で語られるべき、2016年屈指のオーセンティックなロック・バンドなのか? 韓国ではリリース済みの2枚のミニ・アルバム、『20』『22』の日本ライセンス盤が同時リリースされたので、それを手に取り、是非あなた自身のジャッジを下してください。


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