SIGN OF THE DAY

移り気なカメレオンなんかじゃない!
常に時代に対する鋭利な批評たりえた
プライマル・スクリーム全歴史。後編
by KOREMASA UNO April 06, 2016
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プライマル・スクリーム全歴史。後編

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常に時代に対する鋭利な批評たりえた
プライマル・スクリーム全歴史。前編


移り気なカメレオンなんかじゃない!
常に時代に対する鋭利な批評たりえた
プライマル・スクリーム全歴史。中編





Riot City Blues (2006)

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ベスト・アルバム『ダーティー・ヒッツ』(さらに日本独自企画盤として『ライヴ・イン・ジャパン』と『シュート・スピード(モア・ダーティー・ヒッツ)』も続けてリリース)を挟んで、約4年というこの時点でもっとも長い前作とのインターヴァルを挟んでの8枚目のオリジナル・アルバム。バンド結成から20年を超えて、完全にシラフに戻ったボビー・ギレスピー(二人の男の子の父親となったボビーは、本作リリース直後にケイティ・イングランドと入籍)とその仲間たちによる、現在まで続く「更正したプライマル・スクリーム」の1枚目。

もっとも、ここまでボビーの人徳と求心力によって、年齢も出身地も音楽的バックグラウンドも出身バンドもバラバラなメンバーを束ねてきたプライマル・スクリームであったが、本作のツアーに出る前にオリジナル・メンバーのロバート・ヤングが健康上の問題のためバンドを離脱。2014年9月、そのまま帰らぬ人に。長い放蕩生活は、バンドは無傷のままではいさせてくれなかった。

2006年といえば、アークティック・モンキーズがチャートを席巻し、英国の音楽シーンはガレージ・ロック・リヴァイヴァル、ロックンロール・リヴァイヴァルに湧き立っていた時代だ。一方で、プライマル・スクリームが2000年の時点(『エクスターミネーター』)で孤軍奮闘して鳴らしてみせたエレクトロ・パンクの萌芽は、ヨーロッパではニュー・エレクトロが、アメリカではLCDサウンドシステムらがそれぞれ発展させていた。しかし、プライマル・スクリームの向かった先は、ロックンロール・リヴァイヴァルの先駆者であることを主張することでも、エレクトロ・パンクの発火点であることを主張することでもなかった。

過去に2ndアルバム『プライマル・スクリーム』、そして4th『ギヴ・アウト・バット・ドント・ギヴ・アップ』でガレージ・ロックやロックンロールに帰依してきた彼らは、ここでもう一度、無邪気にロックンロールを鳴らしたのだ。マニ加入以降、ライヴ・バンドとしてのビルドアップを図ってきた彼らには、「今の自分たちが本気であの時代の愛して止まないカントリー、ブルース、ロックンロールに取り組んでみたら、過去の作品とはまったく違うものになるはず」という思いもあったのだろう。実際、彼らはほとんどライヴ・レコーディングのスタイルで、たった5日間で14曲の録音を終えてみせた。

かくして、4年も待たせた後に5日間でレコーディングした『ライオット・シティ・ブルース』は、キャッチーなリード・シングル“カントリー・ガール”がキャリア最高のチャート・アクション(全英5位)を記録するなど一定の成果をバンドにもたらしたものの、オールド・ファンからするとアルバムとしては少々一本調子の面白みのない作品となってしまった。いや、「普通に上手いプライマル・スクリームなんて、プライマル・スクリームじゃない」というオールド・ファンの先入観の犠牲になってしまった作品と言うべきか。この頃から、ファンの世代交代も進行していた。言葉を換えるなら、プライマル・スクリームは「80年代のバンド」でもなく「90年代のバンド」でもなく、本作で確実に時代を乗り越えたことになる。

Primal Scream / Country Girl

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Beautiful Future (2008)

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2008年。アデルとリアーナとコールドプレイの時代。つまり、英国の音楽シーンにおいてロック・バンドを取り巻く風はピタリと止んでしまって、新しい風が吹く予感などまったくなかった。いや、音楽シーンどころか、前年にスイッチが押された世界金融危機の余波は、あらゆる産業や文化に未曾有の停滞をもたらしていた。

前作完成後のロバート・ヤング離脱に続いて、本作はマニが参加した最後の作品となった(脱退発表は2011年)。彼はストーン・ローゼズに帰らなくてはいけなかった。そこに選択の余地はなかった。なにしろ、ストーン・ローゼズ再結成のきっかけとなったのは、マニの母親の葬式に集まった旧友たち(イアン、ジョン、レニ)との邂逅だったのだ。

そんな八方塞がりの状況で、しかしボビーはポール・エプワース(ブロック・パーティ、ラプチャーなどのプロデューサー)による煌びやかなポップ・サウンドにのせてアルバム冒頭の表題曲“ビューティフル・フューチャー”でこう歌い上げてみせた。「君は自由って素晴らしいって言うけど、君が自由だったことなんてあるのかい?」「君にはものを買う自由があるだけさ。その金はないけどね」。「君には美しい未来がある。君には美しい未来がある」。

Primal Scream / Beautiful Future

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ストックホルムにあるABBAの名曲群を生み出したスタジオでビョーン・イットリン(ピーター・ビョーン・アンド・ジョン)と一緒にレコーディングした“アップタウン”では、まるでマイケル・ジャクソン“ビリー・ジーン”のようなリズム・トラックにのせてこんなふうに歌う。「オフィス、監獄、生産ラインで、はした金のために働く君の頭の中にあるのはたった一つのこと。アップタウン、アップタウン、アップタウン」「働いて、消費して、働いて、消費して、死ぬまでそれを続けて、君が生きていると感じられるのは、土曜の夜にアップタウンに出かける時だけ」。

Primal Scream / Uptown

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労働組合の議長を長らく務め、労働党からグラスゴー市長に立候補(1988年。僅差でスコットランド国民党からの立候補者に敗れた)したことまである父親ボビー・ギレスピーの息子であるボビー・ギレスピーJr.(父親は彼に同名をつけた)にとって、政治的イシューは常に大きな関心事であったし、その政治意識は極論に走りがちな作品よりも、全キャリアを通じてインタヴューの場において発揮されてきた。が、まぁ、『イービル・ヒート』の頃まではジャンキーの与太話と受け止められて説得力を持たなかったのも事実。しかし、本作『ビューティフル・フューチャー』の頃になると、本来持っていたその鋭利でシニカルな社会批評性が前面に出るようになってきた。




More Light (2013)

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本作『モア・ライト』について語る前に、まず2011年を丸々1年費やして行われた『スクリーマデリカ』全曲再現ライヴと、それに伴う20周年盤アイテムのリリースについて触れないわけにはいかない。

いや、自分も思いましたよ。「20周年ライヴ!? プライマルまでそんなダサいことするようになったのかよ!」って。まぁ、遅れてきた若い世代のファンにとってはそれなりに意義のある企画だったのかもしれないが、90年代初頭の彼らのライヴをすべての東京公演(10公演近くはやったはずの川崎クラブチッタ公演含む)は勿論のこと、日本国内の他都市や本国まで追っかけて見てきた自分にとっては「あの頃のマジカルなフィーリングは当時の時代背景あってこそ」という強い思いがあったし、『スクリーマデリカ』は時代性と切り離しても輝く種類の傑作ではない(そして、それは別に悪いことではない)という確信があった。

でも、本作のリリース・タイミングにボビーが〈NME〉でこう発言しているのを読んで、すべて納得した。「勿論、脳裏によぎるものはあったよ。『つまり、これは自分が終わったって認めることなんだろうか?』ってね。『もう諦めて、クリエイティヴィティ的にも破産したってことなんだろうか?』ってさ。でも、あれをやったおかげで音楽シーンに居られ続けて音楽で生計を立てられたからね。あの時点で俺たちにはレーベルもなかったんだからさ」。

プライマル・スクリームはただの金儲けではなく、バンドを存続させるための資金を作るために、『スクリーマデリカ』全曲再現ライヴを行った。彼らにはまだやりたいことが、また歌いたいことがあったのだ。

つまり、「もっと光を!」という本作のタイトルは、彼らの魂の叫び以外のなにものでもなかった。プライマル・スクリームにもっと光を。ロックンロールにもっと光を。プライマル・スクリーム史上もっともノスタルジックで、もっとも誠実な作品となった10枚目のオリジナル・アルバムの本作は、盟友のアンドリュー・ウェザオールとケヴィン・シールズを久々にスタジオに呼んでレコーディングされた“2013”でこんなふうに幕を開ける。「パンク・ロックが生まれて、死んで、結局何も変わらなかった」「これが10代の革命の最終結論だ。ロックンロール国家は完全征服された」。

Primal Scream / 2013

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実際、ゼロ年代後半からオルタナティヴ音楽の表舞台は、〈コーチェラ〉、〈ボナルー〉、〈ピッチフォーク〉と、すべてアメリカに移行してしまっていた。当時のプライマル・スクリームを取り巻いていた停滞は、そのまま英国のすべてのロック・バンドを取り巻いていた停滞だった。

そんな中で行われた『スクリーマデリカ』全曲再現ライヴは、プライマル・スクリームに活動資金をもたらしただけじゃなかった。彼らは、今度はなんとシラフで、あの時のフィーリングをしっかりと取り戻してみせたのだ。どこからどう聴いても20年後の“ムーヴィン・オン・アップ”なアルバムのエンド・トラック“イッツ・オールライト、イッツ・OK”は、何一つオールライトでも何一つOKでもない2010年代に鳴らされた、「それでもプライマル・スクリームの旅は終わらない」宣言だった。

Primal Scream / It’s Alright, It’s OK

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Chaosmosis (2016)

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一聴して、不思議な感触を持ったアルバムである。プロデューサーが同じビョーン・イットリンであることもあって、音の感触としては過去作では『ビューティフル・フューチャー』(今回、プライマル・スクリームの全作品を聴き直してみて、もっとも過小評価されているアルバムだと気づかされた)にもっとも近いが、あの作品の根底にあった冷徹なシニシズムや攻撃性は本作では鳴りを潜めている。スカイ・フェレイラやハイム姉妹の参加が各楽曲に艶と彩りを添えているというレベルを超えて、これはプライマル・スクリームが初めて作ったポップ・アルバムだと言ってしまいたい誘惑に駆られる。

Primal Scream / Where The Light Gets In feat. Sky Ferreira

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プライマル・スクリームはずっと欲張りなバンドだった。音楽狂としての欲望の赴くまま、どんなにアシッド・ハウスに溺れている時も、エレクトロニカの要素を大胆に取り入れていた時も、ロック・バンドだけが醸し出すことが出来るグラマラスで快楽主義的なライフスタイルだけは決して手放そうとしなかった。また、時には音楽的な要請とは別の次元で、昔の仲間を受け入れ、時がくると笑顔で仲間を送り出してきた。プライマル・スクリームに深く関わってきた人間で、このバンドのことを悪く言う人には会ったことがないし、そのような記事も読んだことがない。彼らは世界でもっとも優しいギャングたちだった。

本作『カオスモシス』を聴きながら、そんな30年以上にも及ぶ理想郷としてのバンドを可能にしていたプライマル・スクリームの本質、幹の部分とは何だったかについて思いを馳せてみた時、気づかされるのはボビーの書く60年代ポップ直系のスウィートなメロディと生まれつきのスウィートな歌声だ。

今さらボビーに「ソングライターとして認められたい」「シンガーとして認められたい」というような承認欲求のようなものはないだろう。しかし、ふとプライマル・スクリームが素に戻ったかのような(実際に、事実上のフルタイム・メンバーは今やボビーとイネスの2人だけである)本作から聴こえてくるメロディ、歌声からは、初来日公演を含む1989年のツアーを最後に決してライヴでは演奏されることのない1987年の『ソニック・フラワー・グルーヴ』の曲たちに通じる不変にして普遍的な何かを感じずにはいられない。

19世紀英国の哲学者ハーバート・スペンサーは「適者生存」(survival of the fittest)という概念を生み出し、その後、ダーウィンへと受け継がれていく社会進化論への道を拓いた。大雑把に言うなら「環境の変化に適合することができた者だけが生き残ることが出来る」という定説で、プライマル・スクリームに相応しい言葉のように思う人もいるに違いないが、実は彼らはその定説を真っ向から覆してきたバンドだ。

彼らが30年以上にわたって音楽シーンの最前線でサヴァイヴしてきたのは、音楽性をその時々に変化させて環境(時代)に適合してきたからではない。むしろ、彼らはそのほとんどの時期において、環境(時代)に抵抗し続けてきた、根っからの反逆者たちだ。それでも彼らがサヴァイヴァー足り得たのは、いつだって戻ることが出来るあの「普遍的にポップなメロディと歌声」があったからなのではないか。30年間彼らの音楽を愛し続けてきて、今はそんなふうに思うのだ。


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