世界との格闘に明け暮れたシャムキャッツの
新たな出発点『Friends Again』を機に逡巡
と決断の10年史をメンバー4人と語る:前編
●じゃあ、シャムキャッツの最初の10年の間で、一番ハンドルを大きく切ったのは『AFTER HOURS』(2014年)の時期だっていう見方もあると思うんだけど、そこはどうですか?
夏目「うん、それはそうだと思う」
シャムキャッツ interview
Director's cut edition part.1
始まりはアステカからの葉書
●『AFTER HOURS』と、その次の『TAKE CARE』(2015年)の時には、自分たちのスタイルを広げることに軸があった?
菅原「そうですね」
大塚「広げるというか、確立するというか」
シャムキャッツ interview part.1
暮れていく夕日に幸せを感じる人にも
気持ちが沈んでいく人にも、優しさと
厳しさを届けるポップを目指して
●じゃあ、『Friends Again』のソングライティング、プロダクション、リリックを、『AFTER HOURS』の時期の4人が聴いたらどう感じるか、ちょっと想像してもらえますか?
菅原「『おお、これが未来か』って想像できる感じ。それをかなり肯定的に見れると思う。のび太がセワシくんに会う感じというか(笑)」
●意外性も含めて、驚きがあるってことだよね?
菅原「ある」
大塚「まあ、確かに(笑)。こう成長したんだなって」
夏目「うん。でも、彼らは2016年の俺たちのことは知らないからね。去年一年間っていうのは、『やっぱりこっちじゃないんじゃないか?』っていう感覚もあって、一旦オフロードに出た時期でもあったから。でも、それを知らない2014年の彼らは、たぶん、わりと素直に『ああ、こういうことになるんだ』と思ってるような気がする」
菅原「でも、『これは何かあったんじゃないか?』とは思うんじゃない? ちょっと未来に対する怖さがあるというか」
大塚「そう思うかもしれない。でも、俺は地続きって感じはしないかな。明らかに繋がってはいるんだけど」
菅原「道路は見えてるんだけど、そこだけ霧がかかってるみたいな(笑)」
●仕上がった作品の内容に対しては肯定的だけど、「おいおい、なんでいきなりこうなったの?」みたいな疑問は湧くだろうと。
夏目「僕、正直に言うと、『Friends Again』はどこにも回収されなくて何かのカウンター足り得るものじゃないとダメなんだ、っていう理想はかなりスパッと捨ててるんですよね」
●うん、確かに。
夏目「だから、『あ、捨てたんだ』って感じると思う。捨てる方向が俺たちの生きる道だったんだって」
大塚「それは捨てなかった時の自分からしたら、ちょっと寂しいものでもあるわけじゃん?」
夏目「どっちなんだろうね? でも、次が聴いてみたいと思うんじゃないかな、俺は」
藤村「それは間違いなくそうだね」
●今話してもらったみたいに、『AFTER HOURS』の頃の4人が「なんでこうなったんだろう?」って思う原因は、2016年の体験にあるわけだよね。その時の自分たちの活動なり、その時に残した作品が『Friend Again』に影響を与えてるってこと?
菅原「そうですね。まあ、そこに至るには2、3段階あるとは思うんですけど。シングルの『マイガール』(2016年8月)とEPの『君の町にも雨はふるのかい?』(2016年11月)も、2015年を受けての行動だったんで」
夏目「ひとつの地核変動はそこで起きたけど、実は水面下でもうひとつあって。俺からすると、『AFTER HOURS』の時に音楽性に関しては舵を切ったけど、制作の体制はずっと変わってなかったと思ってるんですよ」
●つまり、夏目くんが社長的にバンド運営を考える体制は、『AFTER HOURS』の時点ではまだ変わってなかった?
夏目「そう。だから、『AFTER HOURS』では音楽性としてはいい方向に行ってたんだけど、社長みたいな感じで俺が引っ張るのが限界が来たのが『Friends Again』の前。で、そこから降りたから、『Friends Again』でまた毛色が変わった感じもあると思う」
大塚「そうだね。『Friends Again』は、組織を再編してようやく落ち着いた時に作ったようなものだから、そりゃそうなるよな、ってものでもあるし。逆に2016年はその渦中だったから、渦中の人間からしたら、『ゴタゴタがあった時に作ったんだしね』みたいな気持ちになるものでもあるんだけど」
●つまり、当時の自分たちの状況と切り離して考えられない作品が、『マイガール』と『君の町にも雨はふるのかい?』だってことだよね? もしかすると、自分たちのキャリアの中で、一番客観的に見れない作品かもしれない?
夏目「う~ん……うん。グチャッとしては、まとめて、っていうのを繰り返してるバンドではあるから。もう一回それをやったな、時間かかるな、俺たち、って感じだよね」
この2016年夏に何故、新曲“マイガール”は
ラヴ・ソングなのか? 何故ロックなのか?
シャムキャッツ夏目知幸がその謎に答えます
菅原「思い返すと、人生たっぷり使ってるなーと思いますね(笑)。ほんと、20代の全てをたっぷり使ってバンドやったなって感じ」
大塚「確かに(笑)」
夏目「いやー、使ってるね(笑)」
藤村「だね」
●じゃあ、2014~2016年の3年間は、自分たちの作品なり活動に関すること以外に、世の中や音楽の世界で起こってることはどれだけ気にしてましたか? これは4人全員に訊きたいんだけど。
大塚「僕はようやく『AFTER HOURS』くらいの頃から、外のことを気にするようになったというか。それまではマジで興味なかったですね」
●(笑)。
大塚「シャムキャッツ自身がちょっとずついろんなお客さんの前でやれるようになって、いろんな企画に出させてもらえて、他のバンドを見ていく中で、そのお客さんの感じとかをようやく気にし出した時期。ただ、2015年くらいまでは、ただ見てただけで、実際にそこでどうするかは完全に夏目に任せてた。自分の仕事はクリエイティヴの質を上げることだと思ってたから、それに集中していて」
●うん。
大塚「それが2016年くらいになって、夏目が社長業から降りて、ようやく自分もそういった発言をするようになったっていう。だから今は、俺も自由にやっていいんだな、って思えてきてますね。『AFTER HOURS』の時は楽曲的な意味で俺も自由にやれるんだって感じでしたけど、今はそこからもっと先に進んで、組織の再編的なところでもっと自由にやれるんだと。それが今に続いてるっていう」
●完全な充実期ってことだ。藤村くんと菅原くんはどう?
藤村「正直に言うと、2014~2016年くらいって音楽に全然感動してなくて。そもそも物理的に全然聴く時間がなかったんですけど。正直、ちょっと乾いてる状態だったんですよね。でも、それが今ちょっと復活しつつある感じではあるんで、時間を作って、モチヴェーションを上げてかなきゃいけないなって」
大塚「アスリートみたいだな(笑)」
菅原「個人的には、『AFTER HOURS』の頃は自分の役割がわかんない時期で。ネオアコをやるっていう時に、リード・ギターの存在が必要かどうか、っていう悩みがあったんです」
●なるほど。
菅原「それが『TAKE CARE』でライヴを重ねることで払拭されて、自分の見せ方がわかってきた。で、結構、2016年は混沌としてて、わけわかんなくなって、他のメンバーに甘えてた時期。あんまり自分が表に出なかった頃ですね。Twitterも一年間やってなかったり。でも、その頃にいろんなことをどっしり構えられるようになった。で、2017年は音楽を楽しんで聴きつつ、でも自分の書きたい曲はそれとは関係なくていいや、っていう。いい意味で覚悟がついてる状態になりましたね」
夏目「俺は、2014年辺りって、自分が聴いてる音楽と、周りが聴いてる音楽と、世の中で流行ってる音楽がぐちゃぐちゃで、話す人が誰もいない、っていう状態が加速した時期で(笑)」
●ああー、わかるわあ、それは。
夏目「いまだに新しいものも聴くんだけど、一体それを誰が聴いてるのか、全然把握出来てなくて。だから、〈フジロック〉でレモン・ツイッグスとかでみんなが盛り上がってるのを見たりすると、ちょっと安心したりするんだけど。東京に帰ってきたら、そういう話をする人もほとんどいないし(笑)。けど、なんかそれに慣れてきた」
●ただ、そういう状態が続いてるからこそ、もうそれを気にせずに『Friends Again』みたいなアルバムを作れたってところもある?
夏目「うん、それはかなりある。それに、ここ数年の自分の好みを見た時に、なんかわかってきたんですよね。『ああ、俺はこういうのが得意だな』っていうのが。以前は音楽性を考え過ぎてたけど、そこって意外と後からコントロール出来る。大体いい曲って、メロディと構成がいい曲だと思うから、そこさえしっかりしてればいいかなって」
●なるほど、なるほど。じゃあ、これまで話してもらったこと以外にも、『Friends Again』の方向性を決定づける直接的な出来事や経験は何かあったりしますか?
夏目「みんなと話す前に、僕の中で重要だった飲み会があって。昔は埋火で、今はMANNERSっていうバンドをやってる見汐さんから『あんた、ちょっと言いたいことあるから飲み行こう』って誘われて。それで立ち飲み屋で飲んでた時に、『アルバムどうするのか、決まってるの?』って訊かれて。『いや、まだあんまり。こういう感じにしたいっていうのはあるんだけど』って言ったら、『じゃあ、まず言葉に出しなさい。あんたがこれをバンドに持っていけばみんなが乗るなっていうもの。それと、俺は今こういう表現がしたいっていうもの。それが合致する言葉って何かないの? 一言でいいから』って言われて。その時に俺はもう、『だったら、Friends Againって感じかな』と言ってて。『じゃあ、もうそれ。それで行きなさい』って(笑)」
藤村「占い師みたいな(笑)」
夏目「で、『あんたたちは一旦、手数を減らしてでもオリジナリティが出るバンドになりなさい。弾き過ぎ、叩き過ぎ、歌い過ぎ。とにかく一番自分たちがやらないところで一枚作ってみな』と言われて。『確かにそういうアプローチはなかったし、面白そうだな』と。4人で飲んだ時にも話したんですよね。『こんなこと言われて、ちょっと納得してるんだよね』って」
●かなり的確に『Friends Again』の方向性を要約したような話だね。
夏目「それもあって、『ここ、いらないんじゃないか?』っていうところはとにかく消すっていう。結果、こういうアンサンブルというか、世界観になったんです」
●じゃあ、ようやく話が完全に現在に戻ったので、具体的な、『Friends Again』のサウンドについても訊かせて下さい。
●例えば、“花草”、“Funny Face”、“Travel Agency”辺りは、BPMが110から130くらいですよね。ロックで言うと、速いか遅いかわからないテンポ。そういったテンポが基調のアルバムになったのはやっぱり意識的なものですか?
夏目「デモを作る段階では、聴き流せるテンポというか、引っかからないテンポにしようとは、ちょっと思ってた」
●うん、敢えて、ね。
大塚「そうだよね。極端に遅い曲とか速い曲は、アルバムに一曲入るくらいかな、っていうイメージで。それ以外の曲は、普通にこれくらいっていう意識だったのかもしれない」
夏目「うん。それは単純にさ、どっかの街に住んでる女の子が、『朝ごはんでも食べるか』っていう時に、ピッとCDを回して、気持ちいいな、と思えるくらいのテンポがいいなと思ってたんだよね。で、結果それくらいになったっていう」
●例えば、“MODELS”のBPMも120台半ばだけど、あれとはリズム隊のアプローチがまったく違うじゃないですか。今作の曲の大半は、すごくシンプルな8ビートだよね。このアイデアはどういうところから出てきたんでしょう?
藤村「俺としては、夏目が鼻歌っぽく、自然に書いてきたメロディにそのまま寄り添って、いい感じに作り上げるっていうのが、まず今回はあったので。だから、最初に夏目が感覚的に持ってきたやつのテンポを尊重する、っていう感じでしたね」
●大塚くんはベーシストとしてどう?
大塚「わりと僕は、このアルバムでさえ、夏目の歌を優先したいとか、菅原のギターを優先したい、みたいな気持ちはないんです。曲が音楽的に優れるようにしていきたい、っていうマインドでしかないんですね」
●うん。
大塚「それでこういう終着点に辿り着いた。で、辿り着くまでの個人的な過程としては、『TAKE CARE』までのやり方に飽きてたっていうのもあるし………俺、タナソウさんにどっかで8ビートの話をしたことありましたよね?『くるりの佐藤くんの8ビートは聴いておいた方がいいよ』みたいなことを言われて」
●そうそう。佐藤くんはかなり独特な感覚で8分を取って弾いていて、すごく面白いんですよ。
大塚「そういうタナソウが言ってくれた、ちょっとしたことだったり。あとは、木村カエラの曲(木村カエラ『PUNKY収録の“好き”)に、シャムキャッツが作曲と演奏で参加)をレコーディングした時に、自分の極めた8ビートのやり方がわかった気がして。だから、今だからやれることですよね」
●なるほど。
大塚「『たからじま』より前の曲には8ビートは結構多いんですけど、その時の自分のアプローチは明らかに『Friends Again』とは違ってたので。ロック的なものに対しては、自分が得意とするものを参照することで曲を豊かにしたほうがいいだろうと思ってたから」
●実際、この2017年に日本ではほぼ失われた8ビートのロックをやっている――実は、そういう変わり種なんですよね、このアルバムは。
大塚「普通なはずなんですけどね(笑)」
●その通り(笑)。と同時に、この2017年に忘れられつつある、「アルバム」っていう価値観に光を当てている作品でもある。すごく統一感のある40分のレコードでもあるから。そういう意味では、期せずして、現状に対するカウンターにもなっているんだと思う。
夏目「うん。なるべく素直に作ってみたら、今までで一番カウンターっぽいものになったな、とは思った。なぜかね(笑)」
●うん。
夏目「で、もう一回4人でバンドをやってみる、っていう感じだったから。ホント始まりの気持ちで作ったから。そういう意味では、時代から離れたものでもよかったし、今までの自分たちと違ってもよかった。違うと思われてもよかったし。『だって、これが最初なんだもん』っていう」
●もう一回スターティング・ポイントに立つんだ、っていう感覚というのは、4人に共通するものだった?
菅原「ありましたね」
藤村「そうだったと思います」
●『マイガール』の時よりも?
菅原「そうですね。僕としては、自分の住んでいる庭の草花が綺麗だから、それを自慢するような感じで、純粋に披露して。本当にこれを最高だと思ってるし、そこに俺ら4人はいるよ、っていう。そういう感じでこれが出来たんです」
●なるほど、なるほど。
菅原「レコーディングが終わった後に思ったのは、遠くにいる人たちから見たら、『こいつら、何を平和ボケしてるんだ?』みたいに思われるかなって。そういう危惧は少しだけありましたね。でも、それはそれでいいじゃないか、っていう勇気を持って作ったアルバムでもあるんで」
●アートは10年後に理解されるってことで言えば、2017年を代表するレコードになるから。それは今年言われなくても、10年後に必ず言われますよ。
夏目「それはそう思う。今作は始まりなんだから、それが評価されるのは10年後だっていいんだ、っていうのはある」
菅原「うん、それでいいと思ってる自分がいるな」
●うん、むしろ本当は誰もがそんなレコードを作るべきなんだと思うな。